カナダでいよいよ「安楽死」が実施されるか?

カナダの最高裁判所が医師のほう助による自殺(physician-assisted suicide またはdeath/dying)つまり、安楽死を合法として認める判決を下すとともに、連邦政府と州政府に、12か月以内に判決に基づいた法制化をするように命じたのが、1年前の2月6日だった。法制化までの1年間はそのような合法的な安楽死の実施は停止されてきた。

一年前、最高裁は、その画期的判決で、「(死ぬことに)同意した成人で、耐えられない肉体的または精神的苦痛に苦しんでいる人が医師の助けを得て自らの命を終わらせる権利」を認めた。

その期日が1か月足らずに迫った先月15日、最高裁は、法制化を6か月延長し、その間は安楽死も認めないという連邦政府の要請に応えて4か月延長を認めたが、同時に、法制化まで停止していた昨年の合法の判決をこの日から直ちに条件付きながらカナダ全国に適用する決定を下した。1年間安楽死の合法化を待ち続けてきた、不治の病やひどい苦しみに耐えている人たちのことを考慮したのであろう。

4か月延長の根拠は、昨年8月に当時の保守党政権下、ハーパー首相が11週間も大幅に前倒しして下院を解散してから、10月19日の投票を経てトルドー首相の下、新しい自由党政権が成立した11月4日まで議会が停止していた間、安楽死の法制化作業が遅れていた分を考慮したというものだ。

法制化を検討する議会の委員会には、先に発表された5人の上院議員に加えて11人の下院議員が新たに選ばれて、自由党政権になって初めて委員会が先月行われた。自由党6人、保守党3人、新民主党2人。最高裁の判決にどう答えるのか、安楽死を実際に選択して死を選ばないといけない弱者のことや、どのような理由にしろ、人の命を終わらせることが宗教的に、または個人の良心として受け入れられない医師たちにどう配慮するか、など法制化までに解決しなければならない問題は多くて重い。それを考えると4か月どころか6か月あっても十分ではない。

しかし、カナダ国民は圧倒的に安楽死の合法化に賛成のようだ。バンクーバーの市場調査・世論調査会社インサイツ・ウエストがカナダの1,035人に聞いた調査では、何と回答者の79%もが昨年の最高裁の判決を「強力に」あるいは「控えめに」支持すると答えている。同社は、判断力があり、命を絶つことに明確に同意する成人から安楽死を施す要請があった場合、そしてその人が、医学的に重篤且つ回復不能な状態にあって、それが長期に続く苦しみをその人にもたらす場合、あなたは「医師のほう助による自殺」に賛成するか反対するかを調査で問いかけたのである。わずか15%が反対と答え、6%はわからない、と答えた。

州別に見ても、あまり大差がなくて、ブリティッシュ・コロンビアが賛成90%で最も支持が高く、ケベック(83%)、アルバータ(82%)、アトランティック・カナダ(ニュー・ブランズウィック、プリンス・エドワード・アイランド、ノバ・スコシア、ニューファウンドランド・ラブラドルの4州、74%)、オンタリオ(72%)、マニトバおよびサスカッチュワン(68%)と続いている。(「ハフィントンポスト・カナダ」12月4日)

先月15日の最高裁の判断で大事なことは、4か月の法制化期限延期と同時に、昨年クリスマス前に、末期患者が医師の助けを借りて死を選ぶ権利を認めるとしたケベック州の法律が同州の控訴裁判所(州の最高裁)によって支持されて、医師のほう助による安楽死が合法となったことを、最高裁が追認、支持したことだ。これは同州議会によって2014年6月に制定された「死を選ぶ権利」の法律が一度同州高等裁判所で違法とされてから、控訴裁判所で合法とされ、昨年12月10日から効力をもっていたものだ。

好むと好まざるにかかわらず、大きな流れはできつつあるようだ。このケベック州の尊厳死法が最終的に認められた直後、オタワ政府のジョディー・ウィルソン=レイボールド法務大臣は、連邦政府もケベック州の先例に倣って、カナダ全体に適用できる安楽死の法制化を進めるという声明を出している。政治的にも、安楽死にあまり熱心でない保守党から、自由党に政権が替わったこともある。

さらにCBCニュースは、同15日にケベック市の末期患者が医師の助けを得て死を選んだことを報じた。カナダで最初の合法的な医師のほう助による安楽死のケースとなった。(「CBCニュース」1月15日)

カナダの全国紙「グローブ・アンド・メール」は、最高裁の判決を受けて早く安楽死を認める法制化を進めよ、と社説で連邦政府を叱咤激励している。カナダも安楽死を認めれば、末期患者が米国のいくつかの州やスイスのような合法的な安楽死をできる場所を求めて移住する「エンドオブライフ・ケア(終末期医療・介護)ショッピング」に終止符を打つことができると述べている。(1月18日)

一年前の9-0の全員一致の最高裁判決は、「刑法が定めた(医師のほう助による自殺の)全面的禁止は、弱者の命を保護するためという理由で、重篤且つ医学的に回復不能な状態に苦しんでいる、判断力があり(命を終わらせることに)同意した成人が、いかに生きあるいは死ぬかという重大な決定をすることを阻止しており、行き過ぎであった。(これは)憲法が規定する『生命、自由および身体の安全の権利』の3つの基本的人権に対する侵害であり、自由で民主的な社会において正当化できない」と断じた。この裁判は、脊柱管狭窄症を患ったキャサリン・カーターさん(86歳、2010年スイスで安楽死)の遺族とALS(筋委縮性側索硬化症)を患ったグロリア・テイラーさん(64歳、2012年病死)の遺族が提訴していたため、「カーター対カナダ」のケースと呼ばれている。

末期患者など人生の終末期にある人々が自分の意志で、医師の助けを借りて、死を早めることは、当初「医師のほう助による自殺」と呼ばれてきたが、最近は自殺という言葉の否定的な意味合いを避けて、「医師のほう助による死」という方がより多く使われている。尊厳死(death with dignity)という言葉を好む人たちが世界にいて、カナダにもDying With Dignity Canadaという全国組織がある。日本にも尊厳死協会がある。

これで、カナダも近い将来、スイスやオランダ、ベルギー、ルクセンブルグなどの欧州諸国、米国オレゴン、ワシントン、モンタナ、バーモント、ニューメキシコ、カリフォルニアの各州の仲間入りをすることになるのだろう。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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