小粒でも、ぴりりと辛い展覧会


昨年末から今年にかけて、気になる展覧会がちらほら開催されています。上野の国立西洋美術館では「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」(終了)が開催され、ゴヤの『着衣のマハ』が出品されましたし、同じく上野の東京国立博物館では「北京故宮博物院200選」が開催中(~2/19)、中国歴代王朝の名品が開陳されています。渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムでは「フェルメールからのラブレター展」が開催中(~3/14)で、このところファンを増やしつつあるフェルメールの『手紙を読む青衣の女』などが観られます。

ちなみに来月以降も、東京国立博物館で「ボストン美術館 日本美術の至宝」が開催されます(3/20~)。また、東京都美術館はリニューアルオープン後の展覧会一発目にフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』をもってきて、「マウリッツハイス美術館展オランダ・フランドル絵画の至宝」(6/30~)を開催します。

見ごたえのありそうなファインアートの展覧会が続く一方、小規模ながら個人的にぜひ観ておきたい展示もありましたので、ちょっとその感想でも書いてみます。

汐留まで足をのばして観てきたその展覧会は、パナソニック電工汐留ミュージアムで催されている、「今和次郎 採集講義」(~3/25)。今和次郎、聞いたことのない方も少なくないと思いますが、ある意味で”タモリ倶楽部”や”ブラタモリ”的なるもののルーツともいえる、「考現学」を創始した人物です。

(下の写真はその展覧会図録。山田五郎も「ミニスカートと考現学―服装史家としての今和次郎」という一文を寄せています。)

正確にいうと、”タモリ”的な風俗研究的遊戯を先駆けた試みの一つとして、赤瀬川源平たちによる「路上観察学」というものがありまして。「マンホール、エントツ、看板、ハリガミ、建物のカケラ…。路上から観察できるすべてのものを対象とし」、「隠された街の表情を発見する喜びとその方法をご披露する」という遊び心満載の”学”ですが、この赤瀬川は今和次郎の「考現学」にたいへん影響を受けています。ちなみに、学術面においても、現代風俗や都市民俗を研究するうえで、今の仕事を避けて通ることはできないでしょう。

人物事典ふうに紹介すると、今和次郎(こん・わじろう、1888-1973)。

青森県出身、美術図按を学んで早稲田大学の建築学科の助手となり、柳田國男の調査旅行に同行したことをきっかけに民俗学、民家、服装の研究も始めました。今の提唱する「考現学」は、同時代の世相や人びとの生活、風俗、それらの変化をひたすら採集(観察し、スケッチやメモ等で記録をとる)・分析するというもの。今回の催しはその成果の一端を紹介するものでした。

いやあその”ひたすら”ぶりは徹底していましたね。著作権が有効なので、ビジュアルで展示品をそのまま紹介することができないのが残念ですが…たとえば、銀座のいろいろなカフェのウェイトレスの制服を逐一スケッチした一覧や、「丸ビルモダンガール散歩コース」(尾行したのでしょうか、ある女性が辿ったルートを地図に落とし込んだもの)、「某新婚家庭物品一切調べ」(新婚ほやほやの夫婦の持ち物の一切合財をスケッチ。家の間取りまで紹介。当時としても、よく取材に応じた夫婦がいたもんだと思いますが…)。某食堂の茶碗の欠け方を網羅したもの。女子10歳17人の冬の服装、上着から下着まで。「上野公園労働者露台利用休息状態」等々…挙げたらきりがありません。

こうしたスケッチの描線も、建築とかデザイン畑出身のせいか端的で、記録の取り方(観察の眼差し)も、生活に即しているのでやたら細かくてどこかフェティッシュ。神は細部に宿るというか、愛は細部に宿るというか…。小さいながら、見ごたえのある展示でした。

もっとひろく知られていい人・仕事だと思ったので、紹介してみました。

いま生きていたら、私たちの暮らしぶりをどのように切り取ってくれていたでしょうかね。

(TM)

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