静かなるテレビゲームの巨人 – 米日に次いで世界3位のカナダのゲーム産業

バンクーバーの10代の若者2人が4,000ドルを資本にしてカナダ初のテレビゲームを開発したのが1983年。このテレビゲーム産業は、やがてカナダの経済に毎年23億ドル以上の寄与をする一大産業に成長したのだ。

あまり知られていないことだが、ゲーム企業の業界団体、カナダ・エンターテインメント・ソフトウエア協会(ESAC)によると、カナダのゲーム産業は、2年前英国を抜いて、米国、日本に次ぐ世界第3位のゲーム大国になった。ESAC加盟の329社で1万6,500人を雇用するカナダのゲーム産業は、1人当たりのテレビゲーム生産高でみれば、米国、日本を抜いて世界最大になる。(もちろん、カナダ人は世界で最もテレビゲームをよくプレイする国民の中に数えられることはいうまでもない。)

最新の報告書、「カナダテレビゲーム産業に関する基本的事実2014年版」によると、最も新しい統計が得られる2012年に、ESAC加盟社は910件のテレビゲームのプロジェクトを完成している。

そのうち、48%の加盟社は、ゲーム機用(コンソール型)ゲームを開発し販売している一方、84%の加盟社は携帯電話ゲームを開発・販売している。ゲーム機用ゲームは、多額の開発費を必要とするので、ゲーム業界の全投資額の88.6%を占め、全収益の66.5%を占めている。

カナダで開発された人気ゲームのタイトルには、ご存じの「マスエフェクト」(Mass Effect)、「ファークライ4」(Far Cry4)、「アサシン クリード」(Assassin’s Creed)、「FIFAシリーズ」(FIFA series)、「ニード・フォー・スピード」(Need for Speed)などがある。

日本のメーカーもカナダに会社を設立して、アメリカやヨーロッパのライバルとの競争に飛び込んでいる。世界的なゲーム会社が、カナダ政府が惜しみなく提供する補助金と、優秀な技術と独創力を持った豊かなカナダの労働力に惹かれて進出しているのだ。

ESAC加盟の日本企業には、ディー・エヌ・エー、任天堂、ソニー、スクウェア・エニックスなどが入っている。2013年には、バンダイナムコスタジオが、携帯用ゲーム開発のスタジオをバンクーバーに設立して大きなニュースになった。彼らは、すでにカナダに進出して大規模なビジネスを展開しているアメリカのエレクトロニック・アーツやフランスのユービーアイソフトらのゲームコンテンツメーカーとの競争に参戦するというのだ。その一方で、有名なソーシャル・ネットワーク・ゲーム会社のグリーは、好調の波に乗っていた2012年に設立したバンクーバーのスタジオを閉鎖すると最近発表した。

カナダには、テレビゲーム産業の三大センター(クラスター)があることで知られている。ケベック州とブリティッシュ・コロンビア(BC)州とオンタリオ州だ。1996年に気前のよい優遇税制を使ってユービーアイソフトを誘致したケベック州はゲーム機のゲームを専門にしている。BC州は3州の中で一番古いゲーム産業のクラスターだ。携帯用のゲームが専門で、スタートアップの会社にとっては主要な拠点となっている。

オンタリオ州も携帯ゲームが専門だが、ここに拠点を置くゲーム会社のほとんどは社員が100人未満の比較的小さな企業だったり、5人以下の零細企業だ。その一方で、同州には専門大学や4年制大でこの関連のコースが38もあるのがすごい。ケベック州とBC州ではその半分以下の15コースしかない。

オンタリオ州政府のオンタリオメディア開発公社(OMDC)は、州内でゲームのコンテンツを開発する会社に対して、開発スタッフやアーティストたちの人件費やマーケティング費用を最高40%まで返還する奨励措置で、ゲーム産業の育成を支援している。さらに、オリジナルで高度なインタラクティブ(双方向)デジタル・メディアのコンテンツに対して、OMDCは、アイディアだけでも最高5万ドル、製品には25万ドルを補助金として提供して、助成している。

このような州レベルのさまざまの支援策を、連邦政府は産業研究支援計画とか科学研究・実験開発優遇税制などという独自の先端技術会社支援策で補完する仕組みを作っている。このほかに、カナダ事業開発銀行はテレビゲームのスタートアップを積極的に資金面で支援している。

しかし、チャレンジする人たちがいなければ、このような支援策がいくらあっても使いようがない。カナダでも、プログラマーとかデザイナー、デジタル・アーティスト、クリエイティブ・ディレクターなど、ゲーム業界に経験を積んだ人材は不足しているのだ。

「カナダの情報通信技術(ICT)とデジタル・メディア産業におけるグローバルワーカーの重要性」という、ESACとカナダ情報技術協会(ITAC)が共同でまとめた白書によると、カナダのテレビゲーム産業には、2016年1月までに埋めなければならない空きのポジションが、主に中級および上級のポストで、約2,100人分もあると指摘されている。カナダの大学は初級レベルの人材は十分すぎるほど多くを毎年社会に送り出すけれども、経験を積んだスタッフはめったに得られない。

このような人材不足を補うのに、ICTもゲーム産業も、完全雇用の状態にある(つまり、失業率が2-3%の状態だ)けれども、ECT、ITACの両協会は連邦政府に対して、情報技術産業の労働者計画を見直して、加盟企業が外国人のプロを採用しやすくするように政府に働きかけているところだ。

ダニエル・フェイス、トークス バイスプレジデント

カナダが環太平洋経済連携協定を必要とするわけ

ハワイのマウイ島で行われていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、7月31日(日本時間8月1日)最終日(4日目)ぎりぎりの交渉を続けたが、目指していた大筋合意に至らないまま閉幕した。

最後まで難航したのは、新薬の特許期間を中心にした知的財産権と乳製品の市場開放の問題。閣僚全体の協議を短時間にとどめ、二国間の協議を重ねたが、これらの問題を巡る合意は得られなかった。

米通商代表部のフロマン通商代表は閉幕後の共同記者会見で「今回の協議で大きな進展があった」と強調、日本の甘利TPP担当相は「もう一度閣僚会合が開かれればすべて決着する」との見通しを示し、8月末までに次回の会合を開くのが各国の共通認識だと述べた。しかし、閣僚会合が開けるかどうか、開いても最終合意ができるかどうか、見通しは立っていない。

交渉に参加する太平洋の12か国の閣僚は、先週28日からマウイ島のリゾートラハイナに集まり、5年(日本が参加してからでも2年)に及ぶ交渉を大筋合意につけようと協議を重ねていた。今回は、TPP交渉妥結の前提とされる米大統領貿易促進権限法(TPA,いわゆるファースト・トラック)が6月末に成立したのを受けて開かれ、最後の閣僚会合にするという期待が膨らんでいた。

TPPは、世界1位、3位の経済大国、米国、日本を含む参加12か国を合わせると世界のGDPの40%を占める、アジア太平洋地域でできた史上最大の自由貿易協定となるものだ。オバマ米大統領にとっては、中国の台頭に対応するアジア戦略(ピボット)を経済面から支えるべきものとなる。

今回の最終合意失敗は、強硬な要求に終始したニュージーランドやオーストラリア、まとめるための指導力を発揮できなかった米国や日本などの責任が問われている。それぞれの国が自国の政治事情や国益を背負ってぎりぎりの交渉をする貿易交渉とはこういうものだから、どこだけが悪いと決めるのは難しい。

このマウイ島での閣僚会合まで、TPP交渉への対応が遅れ、消極的なカナダは、参加国の間で悪者扱いだった。米国やニュージーランド、オーストラリアから乳製品市場開放の圧力をかけられていても、カナダが絡む交渉がほとんど進んでいなかった。

カナダは長年「サプライ・マネジメント・システム」によって、乳製品や鶏肉の価格維持のために生産量や輸入量を制限している。補助金を出さないで(財政の負担はないが国民の負担によって)価格を維持することで国内の生産者を保護するのだ。TPP参加国中、最初の国政選挙を10月に控えたハーパー政権としては、TPPの海外市場はほしいが、業界の反発を招くような譲歩はできないというジレンマにある。

業を煮やした米国では、議会や政権の中から、米国製品に市場を開放しないカナダはTPPに入れるななど、カナダ抜きでTPPをまとめることを要求する声が高まっていた。ニュージーランドの乳製品に米市場開放を迫られた米国が、日本とカナダにそれぞれの乳製品市場の開放を要求している構図でもある。7月半ばまでは、日本の甘利大臣でさえ、「合意する意思がない国は、あとからTPPに加盟してもらう選択肢もある」と述べて、カナダ外しを示唆したことがあった。

それでも、先週27日の会見では、甘利大臣は「カナダは切迫感をもって踏み込んだカードを切り出した」と評価を一転させた。本当に重要なカードを切るのはこれからだが、マウイ島での閣僚会合でエド・ファースト(Ed Fast)国際貿易相も、大枠合意ができずに終わった協議のあとで、「次の閣僚会合でも、カナダは建設的なパートナーとして、この交渉を完結させたいという真摯な願望をもって、参加する」と述べている。

カナダがTPPから外されては困る理由は日本にあるのだ、とカナダの全国紙は指摘する。TPPに入る真の狙いは世界第3位の経済大国日本の市場なので、米国でもなければ、日本と比べれば「取るに足らない」アジアの加盟国の小さな市場でもないのだ、とグローブ・アンド・メール(7月24日)は解説している。

カナダの昨年の対日製品輸出は106億カナダドルで、カナダにとって日本は、米国、中国、英国に次ぐ4番目の輸出市場であった。日本との自由貿易協定がまとまれば、年間27億米ドルのカナダの対日輸出増につながり、カナダ経済にとって38億ドルの拡大が見込まれる(日加経済連携協定の効果に関する2012年の両政府の調査)のだと同紙は指摘している。

TPP参加国のうち、すでにカナダは米国、メキシコ、ペルー、チリとは自由貿易協定があるし、オーストラリア、ニュージーランドとの経済関係は特に問題ない。残るマレーシア、ベトナム、シンガポール、ブルネイは、有望な市場だが日本とは比べものにならない。

TPPに参加しないで、日本との自由貿易協定ができない場合の輸出への影響は、韓国とのFTAで、米国や欧州連合(EU)に2年の遅れをとったことで失ったものを考えれば、TPPによって米国やオーストラリアが得る日本との自由貿易の恩恵をカナダが得られない事態は決して起こってはならない、というのだ。ハーパー首相が、カナダがTPPに入っていることは「絶対不可欠」なのだというのは、彼の本心なのだ、という。

それでも、この地域最大の自由貿易協定の大枠合意とTPPへのカナダの参加を高らかに発表して今月から本格化する10月の総選挙へのテコ入れにしようとしていたハーパー政権にとっては、ちょっと思惑が外れたことになる。今月中にTPP閣僚会合が再開されることになれば、選挙運動中でカナダの業界がますます監視を強める中で、市場開放の交渉をしなければならないのはあまり都合のよいことではない。

TPP交渉が遅れると困るのは、カナダの次に、参議院選挙を来年に控えた安倍政権も同様だ。選挙が近づけばそれだけコメや牛肉、乳製品の輸入拡大は難しくなる。

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

世界の観光旅行、カナダ・日本は2軍で大いに努力

「中国はカナダを訪れる観光客の数でイギリスを抜いて、2位と3位が逆転しそうである」とグローブ・アンド・メール紙は7月1日に伝えた。「この逆転が実現しそうなのは今年末で、中国を上回るのは米国だけとなりそうだ」。

エコノミスト誌(3月28日号)は日本での「外国人観光が本格的ブームになったのは昨年からであり、政府が期待していた数字をはるかに上回っている。2014年の外国人観光客は1,200万人を超し、このうち1,100万人がアジア諸国からで、前年比30%弱という伸び率になった。中国人観光客の日本訪問は前年比80%以上の増加で、中国の旧正月中には45万人が中国大陸から日本にやってきた」と伝えた。

同誌はこの大幅増加を「大きな動機」のためだ、と報じた。つまり、日本円が人民元に比べ40%も下落したことだ。

中国の観光旅行での飛躍は、他の関連統計を見ても明白である。

2014年に中国を訪れた外国人観光客は5,560万人で世界第4位だった。上位3カ国はフランス(8,370万人)、米国(7,480万人)とスペイン(6,500万人)。世界観光機関(WTO)の発表であり、中国はイタリア(4,860万人)を上回った。

同じくWTOの発表で、観光客が旅行先で落とす国別収入金額では、中国(569億ドル)はアメリカ(1,772億ドル)とスペイン(652億ドル)に次ぐ第3位で(1位と2位の金額の大差に注目したい)、フランス(554億ドル)、中国のマカオ(508億ドル)とイタリア(455億ドル)を上回った。

これらのトップ10カ国ランキングにはカナダも日本も登場しない。

しかし、両国は世界経済フォーラム(本部はスイス・ダボス)がまとめ、7月6日に公表した観光競争力2015年版ではトップ10カ国に入っている。

ここでは日本は第9位(前年は14位)で、カナダは第10位(前年は8位)となった。トップの8カ国はスペイン(前年4位)、フランス(7位)、ドイツ(2位)、アメリカ(6位)、英国(5位)、スイス(1位)、オーストラリア(11位)とイタリア(26位からの躍進)だった。

WTOによる、観光客が外国旅行の際に費やす国別支出額統計では、カナダは338億ドルで世界8位だった。中国はアメリカをかなりの差で負かし1位だった。中国の1,640億ドルに対し米国は1,041億ドルだ。カナダ人が観光旅行で落とした金額は、日本で観光客が費やした189億ドルを大きく上回った。日本の数字はエコノミスト誌による。だが、日本が得た金額は2012年に比べ、ほぼ2倍だった。

グローブ・アンド・メール紙が政府統計などに基づきまとめた、今年1~4月にカナダを訪れた国別観光旅行者数は、アメリカ(220万人、前年同期比5.9%増)、イギリス(134,392人、4.8%増)、中国(107,351人、20.4%増)、フランス(100,010人、2.9%増)と日本(58,143人、2.7%増)という順位だった。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

州政府が引っ張るカナダの温暖化対策、オタワ政府にプレッシャー ― オンタリオ、ケベック、BCにアルバータも参加 ―

地球温暖化の対策は複雑だ。政治家は産業界の意向も無視できないが、選挙民の意思にも配慮しなければならない。政治信条もからむし、国際評価さえ気になるところだ。ヨーロッパの各国と比べて、そして最近では、米国と比べても、カナダの温暖化対策は見劣りする。日本と並んで、先進国の間では低い評価を受けてきた。

これには、エネルギー産業や経済界に配慮する保守党ハーパー首相の意向が大きく働いていると見られている。保守であるだけでなく、ハーパー首相の選挙区はオイルサンドの石油産業で成り立つアルバータ州最大の都市カルガリーだからだ。そのうえ、9年間のハーパー保守党政権に国民の審判が下る総選挙を10月19日に控え、その前にあまり世論が割れるような、支持層を怒らせるような政策は取りたくないのが本音のところだ。

5月にドイツ南部のリゾート地エルマウで行われたG7先進国首脳会議(サミット)では、欧州や米国の積極姿勢に引っ張られて、カナダも今世紀末までに化石燃料からの完全な撤退を約束する宣言に合意したが、具体的なカナダの対策はまだ見えない。

しかし、11月30日からパリで始まる国連気候変動会議(COP21)に向けて、ほとんどこの問題に関心を示さないハーパー首相の連邦政府の重い腰を上げさせようと躍起なのが、カナダの各州政府だ。これをリードしているのが、カナダ最大の州オンタリオと第2位ケベックの州首相、キャスリン・ウィン(自由党)とフィリップ・クイヤール(ケベック自由党)の二人のリベラル指導者だ。

今月8‐9日にトロントで行われた「米州気候変動サミット」“Climate Summit of the Americas”でケベックのクイヤール州首相は、温室効果ガス排出規制の責任は、何もしようとしない国のリーダーたちでなく、今や州レベルのリーダーの肩にかかっている、と演説。連邦政府がやらないなら、われわれ州や準州が協力して、世界に向かってカナダは気候変動で行動していることを示さなければならない、と呼びかけた。(「トロント・スター」7月13日)

ケベック州が米国カリフォルニア州と一緒に組んで「キャップ・アンド・トレード」方式による温室効果ガスの削減を図ろうとする取り組みに、人口で最大、温暖化ガス排出量では第2のオンタリオ州も、この排出権取引制度のグループに参加することを4月に決定。キャップ・アンド・トレード方式には、その排出削減効果については懐疑的で、排出する二酸化炭素に直接税金をかける炭素税方式の方が排出削減効果は大きいとする意見も多いのだが。

これで、炭素税による排出削減を図ろうとするブリティッシュ・コロンビア州を加えると、カナダの人口の70%が何らかのまともなCO2削減対策のもとに入ることになる、とクイヤール州首相は演説で指摘した。これらの州のほかに、サスカチュワン州は、新しい環境技術であるCO2分離回収技術(Carbon Capture)を使って排出削減を目指すことを検討中だ。(「グローブ・アンド・メール」4月12日、ほか)

何よりも大きな変化は、アルバータ州だ。これまでのエネルギー産業寄りの進歩保守党(PC)政権のもとで、ほとんど自由にといえるくらい好き放題に排出し続けてきたこの州で、5月の選挙で44年ぶりに政権交代が実現して左翼の新民主党(NDP)レイチェル・ノトリー新首相が誕生、選挙公約の炭素税引き上げを発表した。

新政権発足後まだ間がないノトリー州首相は、まだまだ慎重だが、CO2を大規模に排出する企業などに課す炭素税については、公約通り、石油業界に甘い現行の二酸化炭素(CO2)1トンの排出に対して15カナダドルを、2016年に20ドル、2017年からは30ドルに引き上げることを先月決めた。これでも、選挙前に懸念されていたほどの厳しい措置ではなく、支持者からは失望の声も出ているが、アルバータ州の経済を支えるエネルギー業界に配慮した現実的なものといえる。それはBC州の炭素税はすでに1トン当たり30ドルだというのを見ればわかる。(「フィナンシャル・ポスト」7月13日)

オンタリオのウィン州首相はケベックのクイヤール首相とともに、11月末からのCOP21パリ会議にはもちろん出席するつもりだ。しかし、カナダ政府が、なぜもっと真剣に、まともな削減計画を出せないのか言い訳しに行きたくはない、行くならカナダの州がみんなこんなにいろいろ強力な対策をだして、連邦政府もこういうことをやろうとしているのだ、と言いたいのだ、とウィン首相は言っている。(「トロント・スター」7月13日)

はたして、気候変動の対策についてこれらの州政府の熱意は連邦政府を動かすことができるのか。多分10月の連邦議会選挙を待たなければならないだろう。

石塚嘉一、トークス シニア・コンサルタント

古い冷蔵庫を買い換える理由とは

日本の典型的な家電製品販売担当者は、潜在的なお客さんに説明をする際、新型の冷蔵庫などの諸製品がいかに電力消費を減らせるかという点を力説しがちである。

販売員は日本の電力・ガスの値段がいかに高いか、国際的な比較を引用してセールス・トークに説得力を持たせることが出来そうだ。電力業界の研究組織である電力中央研究所(電中研)は、主要工業国のエネルギー価格をデータベースに収めている。

電中研が公表する10カ国の比較では、水力発電所と豊富なガスに恵まれたカナダが、料金の低さで抜群だ。

産業用の電気料金で、カナダはキロワット時当たり9.51円だから、韓国(7.41円)とアメリカ(7.43円)に次ぐ低さである。ただし、韓国のこの数値のみ2009年現在、カナダは2013年、米国は2014年である。

カナダの家庭用電力料金は10カ国の内、もっとも安い10.26円。同国に続くのは韓国(2014年に11.60円)とアメリカ(13.23円)。産業用電気料金では、イタリア(34.68円)に次いで、日本(19.91円)が高い。

韓国国民が低料金を享受できるのは、電中研によると、家庭用公共料金を抑えるという政府の方針のおかげである。

家庭用電気料金がもっとも高いのはデンマーク(42.67円)で、後に続くのはドイツ(40.99円)、イタリア(32.46円)、スペイン(29.80円)。さらに英国(27.08円)と日本(26.81円)が続く。

ガス料金ではカナダは、産業用・家庭用ともに、10カ国の内、もっとも低料金となっている。産業用は立方メートル当たり14円、家庭用は34.50円だから、アメリカ(各々20.26円、46.67円)よりも格安だ。

産業用ガス料金の最高値は韓国(104.73円)で、接近しているのが日本(89.96円)だ。電中研の説明によると、日本のガス料金の高値は2011年3月の福島第一原発事故以来ずっと続いている。

韓国だけは例外だが、家庭用のガス料金は産業用よりも高値になっている。日本が最悪(182.42円)でスペイン(152.85円)とデンマーク(152.62円)が続く。

東京の家電販売担当者は、エアコンが現代風(そして金のかかる)生活の象徴であるけれども、冷蔵庫が家電製品のなかで、もっとも電力を消費するものだと説明する。一日24時間稼動しているからだ。最新型を買えば、年間の電気料金は1万円以上から6,000円程度に減らせるとも教えてくれる。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

カナダ先住民の同化教育の実態に関する「歴史的」報告書、カナダの和解を呼びかけ

120年以上にわたってカナダの先住民の子どもたちがカナダ政府の同化政策によって差別や虐待を受けてきた事実に関する報告書が6月初めに出された。

現ハーパー政権が2008年に設立した「真実と和解の委員会」(Truth and Reconciliation Commission)が、同化政策を進めるために作られた「インディアン・レジデンシャル・スクール」(Indian Residential Schools、寄宿学校)で先住民の子どもたちに対して行われた虐待などの実態について、元生徒7,000人から6年かけて聞き取り調査をした結果をまとめたものである。

この328ページにのぼる膨大な報告書は、寄宿学校での実態を明らかにするとともに、94項目の提言を政府やカナダ社会に突き付けている。主な柱は、「先住民族の権利に関する国連宣言」の完全実施、ローマ法王のカナダ訪問と謝罪(カトリックや英国国教会、プロテスタント長老派などのキリスト教教会が、政府の補助金で、この寄宿学校を運営していた)、この歴史を幼稚園から義務教育のグレード12(高校3年)までの間に必修科目として教えるためのカリキュラム改正、先住民とカナダ国民との「和解の日」の設置などだ。

カナダのマスコミはこの報告書を「歴史的文書」で、「和解へのロードマップ」(「グローブ・アンド・メール」6月2日)だとして大きく報道した。

「これは、先住民族以外のカナダ国民と3つの先住民族グループ ― ファーストネーションズ(First Nations、米国でnative Americansと呼ばれ、かつてアメリカインディアンといわれた民族と同じ)、イヌイット(Inuit)、主にフランス人と先住民との子孫メティス(Metis)― との間の和解の青写真となるべきものだ」、と英国の国際誌「エコノミスト」も述べている。(6月6日号)

問題のインディアン寄宿学校は、1883年から1998年までの間に、カナダ各地に132校(139校とも)が存在し、先住民の子どもたちは欧米の「文明国」の教育を受けるため、親元から引き離され、強制的に入学させられた。この間、ここに入れられた先住民の子どもたちはおよそ15万人。そのうち今日でも8万人が生存していて、今回の報告書作成のための聞き取りで証言している。幼い彼らが親から離されて、生まれてからの文化的習慣や言葉が禁止され、十分な食べ物も与えられない中で、教師たちからさまざまな肉体的、性的虐待を受けたと報告書は指摘している。病気になって死ぬものや自殺するものも出たという。(「グローブ&メール」6月2日)「エコノミスト」によると、1940年代には、先住民の学齢期の子供たちの3分の1がこれらの施設に入れられ、その半分は、この学校にいる間に虐待をうけ、6千人が死亡したという。報告書は、同化政策の一環としてこれらの寄宿学校で行われたことを、「文化的ジェノサイド」(cultural genocide)と厳しく非難している。

ハーパー首相は、すでに2008年に、議会に先住民のリーダーや寄宿学校の卒業生らを招いて、1874年に始まった同化政策の一環として、先住民15万人を寄宿学校に強制的に入学させて、「カナダ政府は、先住民を深く傷つけてきたことを心から謝罪する」と、公式に謝罪している。

この謝罪の中で、ハーパー首相は、先住民の文化や信仰が劣っているものだという想定で、子どもたちを家族や伝統、文化の影響から切り離し、支配的な(西洋の)文化に同化させようとした政府の方針は間違っていたと明確に認めた。
先住民の子供たちを同化させようとした試みは、「カナダ史における悲しみの1章」だと述べ、先住民族とカナダ国民との和解のために謝罪するとした。(「AFP」2008年6月12日、カナダ政府ウェブサイト)。

カナダ政府は、政府の資金でインディアン寄宿学校で起こったことを調査し記録するために「真実と和解の委員会」を設立した上で、今日までに44億カナダドル(約4,400億円)を補償金として支払っている。

委員会の委員長で、自身先住民の子孫であるマレイ・シンクレア(Murray Sinclair)氏は、ハーパー首相は、この委員会の提言を実行に移してくれるのではないかと、慎重ながら楽観的な見方をしている。その一方で、政府は言葉ではなく提言を実行することで答えてほしいと念をおしている。

大半が2,200以上の居住地域に住む140万人のカナダの先住民は、一般カナダ人と比べて収入は低く、失業率は高いので、その経済的ギャップを縮めようとする努力がなされているが、最近の調査によると、そのギャップは逆に広がっているという。先月発表になった「先住民プログレス・レポート」によると、雇用や所得、教育、生活水準などを一般カナダ人と比較すると、イヌイットやメティスは雇用である程度改善したが、居留地に住むファーストネーションズ(インディアン)では、雇用のほかにも、政府補助金への依存度、大学終了率、住居など多くの点で、さらに悪くなっている。彼らの自立能力は、政府による彼らの土地の収用や(ハーパー首相が謝罪の中で認めたように)子供の時の寄宿学校での体験によって極めて弱くなっていると、カナダ先住民経済開発委員会(National Aboriginal Economic Development Board)のクラレンス・ルイ委員長(ブリティッシュ・コロンビア州のオソヨソ・インディアン・バンドのチーフ)は指摘している。

明るいニュースが2つある。ブリティッシュ・コロンビア州では今年の秋の新学期から先住民の歴史と寄宿学校で行われたことについて幼稚園から高校3年までのカリキュラムに入れることになった。これはヌナブト準州とノースウエスト準州に続く、3番目の州として、先住民の歴史を必須科目として教えることになる。たとえば、幼稚園児たちは、先住民が自然の動植物をどのように生活で使っているかを学び、5年生の生徒たちは、先住民の環境を管理する方法について学ぶことになる、と州の教育省スポークスマンは話している。(「ヤフー・ニュース・カナダ」6月17日)」

5月に新民主党(NDP)の政府が誕生したばかりのアルバータ州では、早速、「真実と和解の委員会」の報告書の提言をカリキュラムに反映させ、寄宿学校での負の遺産について義務教育で教えることになった。先住民についての教育の拡充がいつからか明確なタイムテーブルはまだできていないが、州政府の関係者によると、カリキュラムの見直し作業はすでに開始したということだ。(「CBCニュース」6月5日)

7月1日はカナダ建国記念日「カナダ・デー」だった。2017年には建国150年を迎える。カナダが真の国民的和解(national reconciliation)に向かって、長い道のりだが、正しい方向に進んでいることを祈ろう。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

日本は原発による発電を2年近くも中断

日本で原発が全面的に停止したのは2013年9月15日の夜遅くだった。世界の電気事業団体による情報によると、日本での2014年の原発による発電がゼロだったことは、原発を所有する30カ国のなかで例外的で、まさに日本はユニークだ、と確認できる。この年の日本の原子炉は48基だったが、1ワット時の電力にさえ寄与しなかった。

これに比べ19基を持つカナダの原発は、通常通りの運転だった。カナダだけでなく、原子炉が1基しかないアルメニア、オランダ、スロべニアでも核分裂による発電の実績があった。

2011年3月11日、東京電力の福島第一原発が事故を起こす直前まで長らく、発電実績で日本は長年アメリカとフランスに続く第3位だった。昨年はロシアが日本に代わって3位に上がってきた。

3/11の事故まで8位だったカナダは昨年もその順位だった。同国の原発による発電量は51テラワット時(1テラワットは1,000,000メガワットに相当する)を越えた。

カナダよりも上位の4カ国は韓国、ドイツ、スウェーデン、スペインだった。僅差でカナダよりも下位にあるのが中国と台湾。

日本では国中に原子力発電所があるけれども、カナダの原発はオンタリオ州が主力である。ケベック州、ブリティッシュ・コロンビア州とニューファンドランド州、従って基本的に国全体でも水力が発電の圧倒的なシェアを占める。

日本の電力会社による2014年度の総発電量は893テラワット時で、前年度比3.1%減だったと電気事業連合会(電事連)が発表している。このうち水力発電は6.7%、再生可能エネルギーは0.2%で、残りはすべて輸入に依存するLNG・石油系燃料・石炭を利用する火力発電だった。

電事連は2015年5月には10電力会社の燃料(LNG・石油系・石炭)費合計が2010年度の3.6兆円から翌年には7兆円に急増し、2013年度に7.7兆円でピークに達したと明らかにした。2014年度は7.3 兆円と減少に転じた。7社が燃料費高騰に対処するため、電気料金率増大を許可された。

新しくできた原子力規制委員会が原発新規制を2013年7月 8日に発効させると、4社が原発再稼動に必要な規制基準審査を直ちに提出し、合計12基の加圧水型(PWR)原子炉の審査を求めた。ちなみに東電の原子炉はすべて沸騰水型(BWR)である。今、九州電力は鹿児島県薩摩川内市にある2基のPWRを9月までには再稼動できると考えている。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

アイスホッケーでカナダはなぜ勝てないのか ―カナダの国技と日本の国技・相撲―

カナダ人と一緒に仕事をしたり暮らしたりすると、ごく自然に、誰でもアイスホッケーがカナダの国民の中に占めている位置についてよく理解できるようになる。何しろカナダで始まり、20世紀の大半を、カナダがそのスポーツを支配してきたのだから。ホッケーは、カナダの精神に固有の気概や根性、意志の強さ、決断、勤勉などを発揮するのにぴったりの競技だ。

相撲は日本でそれとよく似た地位を得ている。そのルーツは常に人気の高い、ロマンチックな江戸時代にさかのぼり、相撲で重視される礼儀作法、質素と厳しい序列という要素がすべて現代の日本人の生活の中にある。

だから、日本とカナダの両国が、それぞれ自分たちのスポーツで優勝が争えるようなそれなりの競争ができるように苦しんでいるのを見るのは大いに悔しいことだ。

北米プロアイスホッケーリーグ(NHL)のスタンレーカップ2015年決勝戦は先週終わったばかりだが、今年も米国チームに優勝をさらわれた(名門「シカゴ・ブラックホークス」が米チーム「タンパベイ・ライトニング」を破り、2010年、2013年とここ6年間で3度目の優勝を果たした)。これでカナダのチームは22年間優勝から遠ざかったままだ。120年以上前に当時のカナダ総督スタンレー卿が寄贈したあの大きな銀の優勝カップは、発祥の地カナダに一度戻り、優勝チームの選手全員の名前を刻んでまた国境を越えて米国(シカゴ)に戻る。1993年に、NHL最古のチーム「モントリオール・カナディアンズ」が優勝したのを最後に、カナダチームは優勝していない。この現象を心配している人などいるだろうか、と思ったら、グーグルで「なぜカナダはスタンレーカップで勝てないのか?」(”Why can’t Canada win the Stanley Cup?”)と入れて、サーチしてみればいい。おびただしい、100をはるかに超える数の記事が、この問題を真剣に考えている。

一方東京では、先月の大相撲夏場所で優勝したのは今注目の関脇照ノ富士。横綱白鵬を破っての優勝で、この点では大きな番狂わせだが、今場所も勝ったのはモンゴル人力士だったということでは番狂わせにはならなかった。日本生まれの力士が賜杯を獲得したのは、2006年の初場所、当時の大関栃東で、それを最後に今年まで55場所続けて日本人力士の幕内最高優勝は出ていない。その間、優勝したのはモンゴル人力士が53場所、東欧出身の力士が2場所。そして、横綱となると、2003年に貴乃花が引退して以来、日本人横綱は生まれていない。このことを、グーグルで検索するなら、「なぜ日本人横綱は生まれないのか?」(Why are there no Japanese yokozuna?”)のキーワードを入れてみるといい。

一体どうなっているのだろうか。スポーツ専門チャンネル「ESPN」の「FiveThirtyEight」ブログの編集長で統計専門家のネイト・シルバーは2013年にこのカナダの問題を考察した長い記事を書いているが、今年のスタンレーカップに合わせて再度ブログに掲載している

シルバー氏はカナダが勝てない理由を4つあげている。不運とNHLの経済構造の不幸な変化、マーケットの需要に比して少ないカナダチーム、それに、怠惰。

不運というのはいつでも起こるものだ。その時あなたならどうするか。

2005年に起こったNHLの経済構造の不幸な変化というのは、2004年から2005年にかけてNHLで経営者側が行った1年に及ぶロックアウトのときに、リーグが厳しい給料の上限(サラリーキャップ)を導入したことであった。1994年から2005年の間、カナダチームは、カナダ通貨の大幅な下落のために、一流選手を獲得するのに強いドルを資金にした米国のチームと苦しい戦いをしなければならなかったが、2005年からカナダドルが強くなり始めると、カナダのチームは年棒の上限があるために人気選手獲得のための思い切ったトレードもできなくなっていたのだ、とシルバー氏は説明する。

3つ目の理由については、カナダ国民のホッケーに対する強い需要・人気やカナダがNHLの収益に貢献しているものに比べるとカナダのアイスホッケーチームの数は十分でないという。「NHLのチームの配分を、米国とカナダの中で、もっとファンの関心に配慮したものになっていたなら、もっと多くのカナダチームがNHLにできていただろうし、非常に高い確率で、少なくとも1回は優勝していただろう」とシルバー氏は述べている。(現在NHLは米国チーム23、カナダチーム7。)

これは賛否両論のある議論だが、4つ目の理由は古典的な需給関係の問題だとシルバー氏は言う。つまり、ホッケーはカナダにおいては、高い人気で、慢性的に供給不足の状態にあって、カナダのチームは利益を上げるためにはそんなに一生懸命やらなくても何とかなるというものだ。一方米国では、競争しない理由は見当たらない。観客から金を集めるのに、競合するスポーツは、フットボール、バスケットボール、野球にサッカーと事欠かない。米国のアイスホッケーの組織が存続し続けるためには氷の上で成功しなければならないのだ。

「ニューヨーカー」誌のアダム・ゴプニク記者はちょっと違った見方をしている。カナダのチームは、(観客の肥えた、厳しい目があって)技術やチーム力をあるレベル以下に落とすことができないので、(早くから優勝をあきらめるとか、はじめからリーグの中で最下位を走るようなことをしないよう)「見苦しくないレベルを維持するのに全力をあげて」、米国のチームがするように、スタンレーカップに勝てるチーム作りのため若手の超優秀選手をドラフト会議で確保することができなくなるのだと言う。

「わかりやすく言えば、カナダのチームは大きく失敗するわけにはいかないので、ある程度勝てる、それなりに強いチームを作らなければならない。今のNHLでは、そういうチームを作るということは、ずば抜けたグレートなチームを作ることができないということになる」(「ニューヨーカー」2013年6月25日)

ゴプニク記者は、「エドモントン・オイラーズ」が彼のこの仮説を証明するテストケースになると期待している。2005-06年のスタンレーカップ決勝戦を戦ったこのカナダのチームが、そのあとこれ以上ないところまで落ちてしまって、過去10年間、プレーオフに一度も進出できなかっただけでなく、いつも最下位あたりをうろついてきた。そのチームが2010年、2011年、2012年、そして2015年に再び、ドラフト1位指名選手を獲得した。(2013年には7位指名選手を、2014年には3位指名選手を獲得。)ゴプニク記者が正しければ、スタンレーカップは、2020年までにはカナダに戻ることになる。

日本の相撲の状況は、タオルを投げ入れてあっさり降参してしまうとか、将来の大器を2、3人ドラフトで指名すればよいというような単純なものではない。それは、ハングリー精神の問題なのだが、ハングリー精神などというのは、日本のほとんどの若者はもはや持ち合わせていない。

筆者が日本に来た1992年9月は、ちょうど相撲の新たな黄金時代の始まりのときだった。当時は、「東と西の対決」の時代だった。すなわち、強い力士を大勢抱えた花田兄弟のいる二子山部屋が、ハワイ出身の巨漢力士3人、小錦、曙、武蔵丸と対決する構図であった。二子山部屋は1993年に藤島部屋と合併して、1990年代の絶頂期には幕内力士が10人もいた。これは驚くべき成功であった。この部屋からは(これまでのところ)日本人最後の横綱2人を生み出すことになる。貴乃花と若乃花である。二子山部屋は、1992年から2001年の間に行われた60場所のうちなんと半分の30場所で優勝している。一方ハワイ3人組は21場所で優勝した。これを最後に、日本の相撲は終わったのだ。かつて日本の相撲の誇りであった二子山部屋は、2005年頃までは50人の力士を抱えていたのが7人にまで減って衰退していった。今では貴乃花部屋に変わって、幕内力士はモンゴル出身の貴の岩一人になってしまった。

モンゴル人力士が大相撲を席巻する前に、横綱武蔵丸が2002年秋場所に天皇賜杯を手にしたのが「東と西」の時代最後のハワイ出身力士となった。その後の場所からは、若くて不作法で生意気な朝青龍が登場して優勝を続ける。白鵬、日馬富士、鶴竜、旭天鵬と続いて、いまは照ノ富士。みんなモンゴル勢だ。

シルバー氏によると、アイスホッケーがカナダで絶大な人気があることがカナダチームの低迷の原因だという。「エコノミスト」誌は、相撲の衰退の原因は2つあるという。1つはハングリー精神をもった日本の若者がいなくなったこと、2つ目は、相撲のもつ悪いイメージ。

「遠い田舎の大家族の、貧しくて、しばしば腹を空かした若者を見つけて連れてくるのが、一昔前までの典型的で、相撲で最も成功した方法だった。しかし、日本の家族は小家族になり豊かになった。外国人力士といえば、貧しい国の、貧しい家庭からの子弟がほとんどで、成功するために必要なものを備えている」。(「エコノミスト」3月17日)

最近の親は子どもが、まだ暗いイメージを残しているスポーツには入れたくない。「17歳の少年が入門先の相撲部屋で、親方や兄弟子たちにビール瓶や野球のバットでしごかれて亡くなった」2010年の一連のスキャンダルで多くが逮捕されたことで、相撲の社会的地位をさらに下げてしまった。さらに翌年には八百長相撲が行われていたことが発覚して状況はさらに悪くなった。

日本相撲協会は、落ちた世間の評価を立て直すのに広報を使うのがこれまで以上に巧妙になった。相撲協会のこの努力は、評判の悪い朝青龍にとって代わった白鵬の成功のおかげでより容易になった。

カナダのアイスホッケーか日本の相撲か、どちらが先に国産のチャンピオンを生み出すだろうか。

「シカゴ・ブラックホークス」の成功はドラフト会議で1位指名の有望選手を2、3人とること(このチームの場合は、2006年と2007年)と大金を用意しさえすれば、たちまちのうちにチャンピオンになれる(2010年、2013年、そして2015年)ことを証明した。「エドモントン・オイラーズ」の場合はそれを証明するのはまだ先のことだが。

相撲では、各部屋の外国人力士は1人までという制限は日本人関取にとって有利なルールだ。それでも日本人横綱が誕生するまでにはまだ何年もかかる。(優勝回数が33回で、まだ伸ばし続けている)白鵬は、2000年に入門し2002年初土俵、2004年に幕内に昇進した。しかし初優勝は2006年までなかった。日本人で最後の優勝力士栃東の場合は、1994年入門で、1996年末には幕内に昇進したが、6年後に初優勝して大関に昇進した。しかし、これらは単に一握りの事実でしかない。相撲は一つのライフスタイルである。そして、現在は、そのライフスタイルを魅力と感じる日本人がますます少なくなっているということである。

何が何でも、日本の相撲が英国のテニスと同じ道をたどらないことを願うばかりである。テニスの本家英国は、ウインブルドンで77年間英国人チャンピオンを出せなかった。1936年のフレッド・ペリーのあと2013年にアンディ・マレーが優勝するまでは。

― ダニエル・フェイス トークス・バイスプレジデント

ボンバルディア社・三菱航空機の空中戦は2016/2017年に開始

カナダのボンバルディア社の新しいCシリーズ(CSeries; 以下CS)第1号機の運航開始は2016年の前半になる、とブルームバーグ通信社がパリで航空ショーが開催されていた6月2日に報じた。三菱航空機(MAC)と三菱重工業(MHI)は4月10日の共同発表で、三菱リージョナル・ジェット(以下MRJ)の第1号機納入は2017年第2四半期と述べていた。

CS・MRJ計画の類似点は、本格的競争が始まる、このタイミングだけではない。

オプションなどを含むボンバルディア社のCS受注総数は563機で、このうち確定受注は243機だとブルームバーグは伝え、「焦点を鋭く設定する」と題された年次報告書(5月に発表)も同じ数字を記している。MRJの方は、受注総数407機のうち確定分が223機となっている。

CSの客席数は最大で160席、108席から125席までの小型版もある。MRJは70席から90席までとなっている。

ボンバルディアはユナイテッド・テクノロジーズ社(UT)のプラット・ホイットニー(P&W)エンジン部門をCS用エンジンの供給業者に指定している。MRJのエンジンに関しては、日本航空(JAL)が発注を確定した32機分にはP&W社のものを装備する、と両者の1月28日付の共同発表が明記している。納入開始は2021年である。

もちろんCSとMRJには相違点もある。エコノミスト誌の5月23日号は次のように報じた。「ボンバルディア社は、次にくる大型化を巡り、ボーイング・エアバス両者による2社独占体制を破ろうと意気込んでいるものの、同社がブラジルのエンブラエル社とともに享受してきたリージョナル機の分野での2社独占は、日本(つまりMAC)、ロシアと中国からの挑戦に直面している。」

MACの過半数の株式を所有するMHIにとって、飛行機開発の歴史は、太平洋戦争中に使用されたゼロ戦にさかのぼるが、三菱リージョナル・ジェットはMHIや三菱グループの名を冠した初めての飛行機である。戦後の民間航空機YS-11の開発に関わり、今もボーイング社の787ドリームライナー向けの主要部品製造で協力をしているが、その地位は供給業者・協力会社である。

MACは4月にMRJ生産体制に関して発表した。名古屋空港に隣接する土地を取得し、MRJの最終組み立て工場を建設中である。MHIの神戸造船所が主翼の主要部品を生産し、関連会社が小牧市でエンジンを組み立てるという趣旨だった。

ボンバルディア社は、年次報告書によると、北米に飛行機関連の12施設を持ち(列車関連は9施設)、それら21の施設で働く従業員数は3万6,300人。欧州の従業員3万2,900人のほとんど全員が列車事業に関与。同社はビジネス機の従業員2,750人のリストラとリア・ジェット機事業の凍結を発表済みである。

2015年2月にボンバルディア社の社長・CEOに就任したアレイン・ベルマール氏は、「リストラの決定は、もっと機敏に動け、説明義務を果たせる、顧客中心の組織づくりが明白な目的である」と年次報告書で言明した。

ベルマール氏は、ブルームバーグ通信によると「技術者で経営学修士号を有し、ユナイテッド・テクノロジーズ社で18年間、勤務。その間、同社の歴史に残るような大プロジェクトの責任者だった。その中には、ボーイング社の787ドリームライナー向けの統合航空システムが含まれている。」

ブルームバーグはHECモントリオール大学のルイ・エベール教授(経営学)の社長に関するコメントを載せている。「彼はいくつかの大きな決断を直ちにやってのけた。少しは余裕ができただろう。彼が今、直面する最大の課題はCSの売り込みだ。」

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

アルバータ州に44年ぶりに左翼政権誕生、石油業界は戦々恐々で米国も注目

先々週の日曜日、州都エドモントンの議会の前で、レイチェル・ノトリー(Rachel Notley) 党首率いる左翼の新民主党(New Democratic Party, NDP)内閣が、アルバータ州の新しい歴史の始まりを見届けようと各地から駆けつけた支持者や州民に祝福されてスタートした。

州史上2人目の女性首相となったノトリー州首相は就任演説で「アルバータの歴史に新たなる1ページが開かれた」と宣言、新しい内閣は「仕事をして、結果を出す」と約束した。何しろ44年ぶりの政権交代、それもアルバータ州でこれまで一度も政権に就いたことのない万年野党NDPの政権ということで、女性の党首のもと清新なイメージの左翼政権に対する期待が膨らむ一方で、経験不足で石油業界に厳しい政策を公約しているノトリー政権に、産業界からは心配する声が高まっている。

5月4日に行われた州議会選挙では、労働組合に近いNDPが圧勝、進歩保守党(Progressive Conservative、PC)による43年8か月15日に及んだカナダの州政治史上最長の保守政権に終止符を打った。選挙の1か月前にはNDP勝利・PC敗北もあり得るという見方も出されていたが、それでも誰も予想できなかった、これほどのNDPの圧勝とPCの惨敗で、カナダ中は大騒ぎになった。選挙前わずか4議席のNDPが定数87議席のうちの54議席を獲得、保守党PCは議席数を選挙前の70議席から60も減らして、10議席の少数野党に転落してしまったからだ。PCよりさらに右寄りのワイルドローズ(Wildrose)党は16議席も伸ばして21議席を獲得、野党第1党の座を維持した。

アルバータ州のPC政権の崩壊は、カナダの経済界、石油産業だけでなく、今秋の連邦議会の選挙を控えたハーパー首相の保守党政権にとってもその影響が心配な「ショッキング」な選挙結果である。さらにアルバータ州が自身の選挙基盤であるハーパー首相の胸中は穏やかではないだろう。それでも保守党は、議席は激減したが、PCとワイルドローズ党が獲得した得票数を合わせると52%あって、まだ保守の基盤は揺るがないと強がりを言っている。

カナダのこと、それも州の政治などに普段は関心を払わない米国メディアも今回は違った。「ニューヨークタイムズ」は、石油と保守的な市場経済の政治風土のゆえに「カナダのテキサス」とみられてきた、カナダで最も保守的なアルバータ州で保守党が政権の座から追放されたばかりか、カナダの政治の主流からははるかに左翼の政権が誕生したとして、大きく取り上げている。(「ニューヨークタイムズ」5月7日付)(残念ながら、例によって、日本の新聞では、筆者の知る限り1行も報じられなかった。カナダの国政のニュースもめったに出ないのだから、不思議はないか。)

米国の原油輸入の最大の供給先アルバータ州に左翼政権が誕生したことが、ベネズエラ、サウジアラビアに次いで世界3位の石油埋蔵量を誇る同州のオイルサンド産業にどんな影響をもつのか心配しているのだ。NDPは選挙で、石油企業への法人税増税、石油会社から売り上げの一部を州政府に支払うロイヤルティの見直し、温室効果ガス排出量の削減など、石油産業に厳しい政策を掲げて戦って勝利を収めた。炭素税も、期限が切れる6月中に、新しいものに切り替えられる。カナダの他の州が温暖化ガスの排出量削減目標を苦労して打ち出しているところに、その削減分をほとんどアルバータ州だけで帳消しにするほど排出しているのを認めてきたPC政権だから、世界の原油価格の大幅下落で収益が落ちて苦しんでいるところに、そんなことをされたら石油産業はたまったものではない、とアルバータ州の経済界は戦々恐々だ。

ノトリー州首相は、選挙中から、アルバータ州とテキサス州を結ぶ新しいキーストーンXLパイプラインの建設許可を、歴代のPC政権のように、オバマ米大統領に働きかけることはしない、と言っている。パイプラインは環境上も問題だし、ただ原油のままで米国に供給するのでなく、アルバータ州内でもっと付加価値をつけ製品にして雇用も増やして輸出すべきだとも主張している。さらに、労働者の最低賃金を2018年から引き上げ、富裕層への増税も公約している。

保守、左翼にかかわりなく、新政権の「経験不足」を心配する州民からの声は小さくない。早速、新政権のエネルギー大臣に就任したマーグ・マックエイグ‐ボイドに対してアルバータ州だけでなく全カナダの石油・ガス産業界が懸念の声をあげている。元教師でアルバータ州のコミュニティカレッジ副学長をした彼女にはエネルギー産業については何も知識がない。「エネルギー業界というあの巨大で込み入ったビジネス」を扱うのには経験が全くない、と批判や不安の声が出ている。

それでも産業界は、一応、今しばらくは批判を抑えて静観しようとしているようだ。むしろ、新大臣にアドバイスできる作業部会を早速石油産業界の中に設置、それを通して、「石油・ガス経済の難しさを彼女が理解して、その視点から政策を行ってくれること」に期待していると、産業界のスポークスマンは語っている。州首相やエネルギー大臣の方も、まず産業界と対話を重ね理解を深めていくと、経済界を安心させるのに躍起だ。何と言っても、アルバータ州の収入の20%は石油産業頼みなのだから。

今回のNDPの勝利は、前州首相の金銭スキャンダルで6か月前に交代したジム・プレンティス州首相のあからさまな業界重視、州民無視のやり方に州民の積もった不満が爆発した、反PC票によるところが大きかった。その引き金を引いたのが、この3月にプレンティス政権が提出した2015年度の予算だ。原油価格の下落からくる州の収入減を埋めるのに、庶民の社会保障やサービスを削り、彼らに増税を迫る一方で、企業の事業税は低いままになっていると見られたのだ。その上、支持率の下落に、今のうちにとあせって、選挙を1年繰り上げて実施したことも、敗北の原因とみられている。だから有権者は、PC政権の44年間に積もった「ほこり」―汚職や政治に対する傲慢さ、有権者の政治不信など―を一掃して欲しいという願いを清新で清潔そうなノトリー党首のもと、これまで政権を一度も取ったことのないNDPに託そうとしたので、急進的な社会主義政策で混乱をもたらすことを望んではいない、とフィナンシャル・ポストの記事は解説する。(「フィナンシャル・ポスト」オンライン、5月6日)

レイチェル・ノトリーの州首相就任は、父が遣り残した夢を娘が完成させる一歩なのかもしれない。彼女の父、グラント・ノトリーは1970年代から80年代、アルバータ州のNDPが苦闘していた時代に党首を務め、1984年、同党が1986年の州議会選挙で16議席も獲得して初めて野党第1党に進出する2年前に飛行機事故で亡くなった。カナダの13州・準州の中で3人目の女性州首相として(他の2州はオンタリオとブリティッシュ・コロンビア)、支持者には期待や夢が膨らむ理由でもある。(「フィナンシャル・ポスト」、「カルガリー・ヘラルド」他)組合の弁護士出身の彼女は、したたかで現実的な政治家としての評価も高い。そこに政治家としての資質、ポテンシャルを見る専門家もいる。新しい議員たちの就任式は、6月1日に行われ、6月11日初の議会で議長を選出する。前途多難だが、ノトリー州首相の腕の見せ所だ。

― 石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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