モントリオールに野球が戻ってくる日

モントリオールに再びメジャーリーグの球団を呼び戻そうとする機運が急速に盛り上がっている。

ここ3年くらい、そういう期待が膨らんでいたところに、今年に入って特にモントリオール市がMLBに積極的に働きかける一連の動きをカナダのマスコミが報道してきた。先週には、米国の「ニューヨークタイムズ」も、モントリオール発の長い記事でこのことを報じている。

一度もリーグ優勝したことがなかったけれども、かつてモントリオールの野球ファンを30年以上に渡って熱狂させ多くの観客を集めた「モントリオール・エクスポズ」を、経営不振でオーナーが放り出してから10年余、モントリオールは、都市圏人口が400万を超えるのにメジャーリーグ球団を持たない、北米で最大の都市になっている。

成績低迷や、それに伴う人気の落ち込み、観客動員の減少のため経営不振に陥り、2005年に米国の首都ワシントンに「ワシントン・ナショナルズ」として移転した。それ以来モントリオールでは、メジャーリーグの球団は存在しないし、MLBの公式戦も行われていない。公式戦を見るためにはトロントまで行かなければならない。京都から東京に行くような距離だ。

それでもモントリオールの野球への情熱が薄れたわけではない。昨年のトロント・ブルージェイズ対ニューヨーク・メッツのオープン戦2試合に合わせて9万6,000人を超える観客が、かつてのエクスポズのホーム球場、「オリンピック・スタジアム」を埋めつくした。熱狂的なエクスポズファンでモントリオールにMLB球団復活を推進しているデニス・コデール市長が始球式を行った。

今年4月のブルージェイズのオープン戦(対シンシナティ・レッズ)2試合にも、同じように多くの観客が押しかけて、モントリオールに再びMLBの球団を夢みる人びとを勇気づけた。その上に、フランス語のスポーツテレビ局が2社、いつでも野球中継できるよう手ぐすね引いて待っているという。11年前エクスポズが苦闘していたころとは、観客動員や球団経営の環境がはるかに改善されているということだ。

今年、MLBの新しいコミッショナーにロブ・マンフレッド氏が就任したことも、楽観的な見方をするもう一つの理由になっている。マンフレッド氏はメディアとのインタビューで、MLBの球団数を30から32に増やす場合でも、どこかの球団が移転を考える場合でも、「モントリオールは最も実行可能な候補地だ」と述べて、モントリオールが将来MLB球団の本拠に再びなる可能性に前向きな発言をしている。4月にはカナダにもう1球団できるのを見てみたい、と踏み込んでモントリオールの市民を喜ばせたが、最近は少し慎重になっている。(「スポーツネット」、7月14日)

コデール市長は5月に、マンフレッドコミッショナーと会談、MLBが球団数を増やした場合でも、現在ある球団が移転する場合でも、モントリオールを本拠地とする球団を獲得するための市の戦略を説明している。手始めに、来年から公式戦を数試合モントリオールで開催するように要請した。また、市が1,100万ドルを投じてモントリオール市内の野球のグラウンドを整備して野球少年を育てる計画を説明し、この2年で若者の野球人口が25%も増えたことを強調したという。

これに対して、マンフレッド氏は来年からの公式戦開催については前向きに検討すると約束したという。また、モントリオールがMLBの球団を呼び戻すことに強い関心を示していることで、第一関門はパスしたけれども、これが実現するまでにはまだ数多くのハードルを越えなければならない、とコメントしている。特に、モントリオールが新しい球場の建設を約束することが重要だと述べている。エクスポズが使っていたオリンピック・スタジアムは文字通り、1976年のモントリオール・オリンピックで建てられて、1977年からエクスポズの本拠地(45,757人収容)として使用されてきた。(「カナディアン・プレス」5月28日、31日)

MLB球団の本拠地となるには、オープン戦や公式戦を年に数試合開催して球場をいっぱいにしたぐらいでは、まだまだ十分ではない。MLBの本拠地になるということは、ホーム球場で年間81試合を開催して球団経営をやっていけるだけの観客を集めなければならないのだ。モントリオールやケベック州のマーケットがこれを支えることができるかどうかまだ不透明な部分も残っている。

しかし、このような「野球フィーバー」や「願望」をもっと着実で現実的な方法で裏付けようとするのが、1974年から1983年までエクスポズの外野手で5番打者として活躍したウォレン・クロマティだ。1983年エクスポズからフリーエージェントで90年まで7年間在籍し、巨人軍史上最強の助っ人と呼ばれてファンからも絶大な人気のあった、あの「クロウ」である。

現在は故郷米国のマイアミに住むクロマティ氏は、自分が活躍したモントリオールに再びメジャーの球団を復活させるための組織、「モントリオール・ベースボール・プロジェクト」を2012年に設立した。すでに、錚々たる顔ぶれのスポンサーを集め、モントリオールで野球の球団が成功し得るという結論の調査報告を40万ドルかけて作成した。この報告書には、モントリオール市の中でもおしゃれなウォーターフロントのピール・ベイスン地区を新球場の建設候補地として提案している。

「今では、モントリオールが再びMLBの球団の本拠地になれるかどうかの仮定の問題ではなくて、いつそうなるかという時間の問題なのだ」とクロマティ氏は強気である。そして、球団がモントリオールに戻ってきたら、マイアミから引っ越してきて、今度はモントリオールに永住するよ。そして始球式で投げさせてもらうのを楽しみにしている」と語っている。(「ニューヨークタイムズ」8月19日)

モントリオールが再びMLBの球団の本拠地になるとしたら、球団数を増やして新球団を作るより、最も現実的なのは、タンパベイ・レイズが新しい観客とマーケットを求めて移転してくることだというのが多くの専門家の見方だ。2012年以来レイズは毎年最悪の観客数に悩まされており、今年も1試合の観客数が平均1万5,903人で30球団の中でも最低だという。もちろん球団オーナーは移転の可能性を否定しているが、本音はわからない。オークランド・アスレチックスもモントリオールへの移転の候補として名前があがっているが、どちらの場合もことはそう簡単ではない。

モントリオールに野球チームが戻ってくれば、モントリオールやMLBだけでなく、カナダの経済やスポーツの風景にも、モントリオールの人々のライフスタイルや文化にも大きな影響を与えることは間違いない。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

カナダ・日本の大学が男女均等を目指す国連女性機関のパートナーに

男女均等と女性助力を目指すUN Women(国連女性機関)は、「男女均等に協力する18の勇敢なパートナー」を選んだと6 月18日に発表した。

これら18人のなかには安倍晋三首相、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領などの政治指導者とともにウォータールー大学のフェリダン・ハムジュラフー学長・副総長、名古屋大学の松尾清一総長など教育者の名前もあった。

カナダのオンタリオ州ウォータールー市にある同名の大学は、同国で最大の工学部により最もよく知られている。マクリーンズ誌が23年間で23回、同大学を「最も革新的な大学」に、18回「カナダで最善の大学」に、16回「明日の指導者を育てているトップ大学」に選んだと同大学は発表している。

社会全体の男女均等となると、エコノミスト誌(5月15日号)の「ガラスの(見えない)差別指標ランク2014年版は、カナダを11位とした。前年は9位であった。米国は17位で前年と同じ。日本は韓国よりも上位だったが、27位となった。

エコノミスト誌は9組織(OECD、世界経済フォーラムなど)のデータを用いて、このランク付けを計算している。最高は100点で、北欧3カ国(フィンランド・ノルウェー・スウェーデン)は80点前後で常に上位に立つ。カナダは60点以上となり、日本は20点強で「女性の職場での均等性となるとOECD加盟国では最悪クラスにいる」と説明された。

人事院の6 月19日の発表によると、4月に仕事を始めた事務系総合職の国家公務員のうち、女性は過去最高の38.8%となった。総合職は省庁の次官まで昇進する可能性がある。

人事院は次官・局長・審議官のうち、女性は2.2%だとも発表した。

名古屋大学は「ウェルビーイングinアジア:女性リーダー育成」プログラムを2014年10月に立ち上げた。大学院の副専攻科目だ。最初の20人のうち、男性大学院生は4人。

名古屋大学はまた2009年に学童保育所を学内に設けた。日本の大学では初めての同種施設だと説明された。教員などの学童は午後9時まで、ここで時間を過ごすことができ、希望者は夕食と入浴を済ませることもできる。

佐々木成江さん(理学系大学院の准教授)の小学校6年生の娘は保育所利用者の1人。成江さんの夫は名大の教授であり、彼女の直接の上司でもある、と朝日新聞(7月19日付)は伝えた。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

静かなるテレビゲームの巨人 – 米日に次いで世界3位のカナダのゲーム産業

バンクーバーの10代の若者2人が4,000ドルを資本にしてカナダ初のテレビゲームを開発したのが1983年。このテレビゲーム産業は、やがてカナダの経済に毎年23億ドル以上の寄与をする一大産業に成長したのだ。

あまり知られていないことだが、ゲーム企業の業界団体、カナダ・エンターテインメント・ソフトウエア協会(ESAC)によると、カナダのゲーム産業は、2年前英国を抜いて、米国、日本に次ぐ世界第3位のゲーム大国になった。ESAC加盟の329社で1万6,500人を雇用するカナダのゲーム産業は、1人当たりのテレビゲーム生産高でみれば、米国、日本を抜いて世界最大になる。(もちろん、カナダ人は世界で最もテレビゲームをよくプレイする国民の中に数えられることはいうまでもない。)

最新の報告書、「カナダテレビゲーム産業に関する基本的事実2014年版」によると、最も新しい統計が得られる2012年に、ESAC加盟社は910件のテレビゲームのプロジェクトを完成している。

そのうち、48%の加盟社は、ゲーム機用(コンソール型)ゲームを開発し販売している一方、84%の加盟社は携帯電話ゲームを開発・販売している。ゲーム機用ゲームは、多額の開発費を必要とするので、ゲーム業界の全投資額の88.6%を占め、全収益の66.5%を占めている。

カナダで開発された人気ゲームのタイトルには、ご存じの「マスエフェクト」(Mass Effect)、「ファークライ4」(Far Cry4)、「アサシン クリード」(Assassin’s Creed)、「FIFAシリーズ」(FIFA series)、「ニード・フォー・スピード」(Need for Speed)などがある。

日本のメーカーもカナダに会社を設立して、アメリカやヨーロッパのライバルとの競争に飛び込んでいる。世界的なゲーム会社が、カナダ政府が惜しみなく提供する補助金と、優秀な技術と独創力を持った豊かなカナダの労働力に惹かれて進出しているのだ。

ESAC加盟の日本企業には、ディー・エヌ・エー、任天堂、ソニー、スクウェア・エニックスなどが入っている。2013年には、バンダイナムコスタジオが、携帯用ゲーム開発のスタジオをバンクーバーに設立して大きなニュースになった。彼らは、すでにカナダに進出して大規模なビジネスを展開しているアメリカのエレクトロニック・アーツやフランスのユービーアイソフトらのゲームコンテンツメーカーとの競争に参戦するというのだ。その一方で、有名なソーシャル・ネットワーク・ゲーム会社のグリーは、好調の波に乗っていた2012年に設立したバンクーバーのスタジオを閉鎖すると最近発表した。

カナダには、テレビゲーム産業の三大センター(クラスター)があることで知られている。ケベック州とブリティッシュ・コロンビア(BC)州とオンタリオ州だ。1996年に気前のよい優遇税制を使ってユービーアイソフトを誘致したケベック州はゲーム機のゲームを専門にしている。BC州は3州の中で一番古いゲーム産業のクラスターだ。携帯用のゲームが専門で、スタートアップの会社にとっては主要な拠点となっている。

オンタリオ州も携帯ゲームが専門だが、ここに拠点を置くゲーム会社のほとんどは社員が100人未満の比較的小さな企業だったり、5人以下の零細企業だ。その一方で、同州には専門大学や4年制大でこの関連のコースが38もあるのがすごい。ケベック州とBC州ではその半分以下の15コースしかない。

オンタリオ州政府のオンタリオメディア開発公社(OMDC)は、州内でゲームのコンテンツを開発する会社に対して、開発スタッフやアーティストたちの人件費やマーケティング費用を最高40%まで返還する奨励措置で、ゲーム産業の育成を支援している。さらに、オリジナルで高度なインタラクティブ(双方向)デジタル・メディアのコンテンツに対して、OMDCは、アイディアだけでも最高5万ドル、製品には25万ドルを補助金として提供して、助成している。

このような州レベルのさまざまの支援策を、連邦政府は産業研究支援計画とか科学研究・実験開発優遇税制などという独自の先端技術会社支援策で補完する仕組みを作っている。このほかに、カナダ事業開発銀行はテレビゲームのスタートアップを積極的に資金面で支援している。

しかし、チャレンジする人たちがいなければ、このような支援策がいくらあっても使いようがない。カナダでも、プログラマーとかデザイナー、デジタル・アーティスト、クリエイティブ・ディレクターなど、ゲーム業界に経験を積んだ人材は不足しているのだ。

「カナダの情報通信技術(ICT)とデジタル・メディア産業におけるグローバルワーカーの重要性」という、ESACとカナダ情報技術協会(ITAC)が共同でまとめた白書によると、カナダのテレビゲーム産業には、2016年1月までに埋めなければならない空きのポジションが、主に中級および上級のポストで、約2,100人分もあると指摘されている。カナダの大学は初級レベルの人材は十分すぎるほど多くを毎年社会に送り出すけれども、経験を積んだスタッフはめったに得られない。

このような人材不足を補うのに、ICTもゲーム産業も、完全雇用の状態にある(つまり、失業率が2-3%の状態だ)けれども、ECT、ITACの両協会は連邦政府に対して、情報技術産業の労働者計画を見直して、加盟企業が外国人のプロを採用しやすくするように政府に働きかけているところだ。

ダニエル・フェイス、トークス バイスプレジデント

カナダが環太平洋経済連携協定を必要とするわけ

ハワイのマウイ島で行われていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、7月31日(日本時間8月1日)最終日(4日目)ぎりぎりの交渉を続けたが、目指していた大筋合意に至らないまま閉幕した。

最後まで難航したのは、新薬の特許期間を中心にした知的財産権と乳製品の市場開放の問題。閣僚全体の協議を短時間にとどめ、二国間の協議を重ねたが、これらの問題を巡る合意は得られなかった。

米通商代表部のフロマン通商代表は閉幕後の共同記者会見で「今回の協議で大きな進展があった」と強調、日本の甘利TPP担当相は「もう一度閣僚会合が開かれればすべて決着する」との見通しを示し、8月末までに次回の会合を開くのが各国の共通認識だと述べた。しかし、閣僚会合が開けるかどうか、開いても最終合意ができるかどうか、見通しは立っていない。

交渉に参加する太平洋の12か国の閣僚は、先週28日からマウイ島のリゾートラハイナに集まり、5年(日本が参加してからでも2年)に及ぶ交渉を大筋合意につけようと協議を重ねていた。今回は、TPP交渉妥結の前提とされる米大統領貿易促進権限法(TPA,いわゆるファースト・トラック)が6月末に成立したのを受けて開かれ、最後の閣僚会合にするという期待が膨らんでいた。

TPPは、世界1位、3位の経済大国、米国、日本を含む参加12か国を合わせると世界のGDPの40%を占める、アジア太平洋地域でできた史上最大の自由貿易協定となるものだ。オバマ米大統領にとっては、中国の台頭に対応するアジア戦略(ピボット)を経済面から支えるべきものとなる。

今回の最終合意失敗は、強硬な要求に終始したニュージーランドやオーストラリア、まとめるための指導力を発揮できなかった米国や日本などの責任が問われている。それぞれの国が自国の政治事情や国益を背負ってぎりぎりの交渉をする貿易交渉とはこういうものだから、どこだけが悪いと決めるのは難しい。

このマウイ島での閣僚会合まで、TPP交渉への対応が遅れ、消極的なカナダは、参加国の間で悪者扱いだった。米国やニュージーランド、オーストラリアから乳製品市場開放の圧力をかけられていても、カナダが絡む交渉がほとんど進んでいなかった。

カナダは長年「サプライ・マネジメント・システム」によって、乳製品や鶏肉の価格維持のために生産量や輸入量を制限している。補助金を出さないで(財政の負担はないが国民の負担によって)価格を維持することで国内の生産者を保護するのだ。TPP参加国中、最初の国政選挙を10月に控えたハーパー政権としては、TPPの海外市場はほしいが、業界の反発を招くような譲歩はできないというジレンマにある。

業を煮やした米国では、議会や政権の中から、米国製品に市場を開放しないカナダはTPPに入れるななど、カナダ抜きでTPPをまとめることを要求する声が高まっていた。ニュージーランドの乳製品に米市場開放を迫られた米国が、日本とカナダにそれぞれの乳製品市場の開放を要求している構図でもある。7月半ばまでは、日本の甘利大臣でさえ、「合意する意思がない国は、あとからTPPに加盟してもらう選択肢もある」と述べて、カナダ外しを示唆したことがあった。

それでも、先週27日の会見では、甘利大臣は「カナダは切迫感をもって踏み込んだカードを切り出した」と評価を一転させた。本当に重要なカードを切るのはこれからだが、マウイ島での閣僚会合でエド・ファースト(Ed Fast)国際貿易相も、大枠合意ができずに終わった協議のあとで、「次の閣僚会合でも、カナダは建設的なパートナーとして、この交渉を完結させたいという真摯な願望をもって、参加する」と述べている。

カナダがTPPから外されては困る理由は日本にあるのだ、とカナダの全国紙は指摘する。TPPに入る真の狙いは世界第3位の経済大国日本の市場なので、米国でもなければ、日本と比べれば「取るに足らない」アジアの加盟国の小さな市場でもないのだ、とグローブ・アンド・メール(7月24日)は解説している。

カナダの昨年の対日製品輸出は106億カナダドルで、カナダにとって日本は、米国、中国、英国に次ぐ4番目の輸出市場であった。日本との自由貿易協定がまとまれば、年間27億米ドルのカナダの対日輸出増につながり、カナダ経済にとって38億ドルの拡大が見込まれる(日加経済連携協定の効果に関する2012年の両政府の調査)のだと同紙は指摘している。

TPP参加国のうち、すでにカナダは米国、メキシコ、ペルー、チリとは自由貿易協定があるし、オーストラリア、ニュージーランドとの経済関係は特に問題ない。残るマレーシア、ベトナム、シンガポール、ブルネイは、有望な市場だが日本とは比べものにならない。

TPPに参加しないで、日本との自由貿易協定ができない場合の輸出への影響は、韓国とのFTAで、米国や欧州連合(EU)に2年の遅れをとったことで失ったものを考えれば、TPPによって米国やオーストラリアが得る日本との自由貿易の恩恵をカナダが得られない事態は決して起こってはならない、というのだ。ハーパー首相が、カナダがTPPに入っていることは「絶対不可欠」なのだというのは、彼の本心なのだ、という。

それでも、この地域最大の自由貿易協定の大枠合意とTPPへのカナダの参加を高らかに発表して今月から本格化する10月の総選挙へのテコ入れにしようとしていたハーパー政権にとっては、ちょっと思惑が外れたことになる。今月中にTPP閣僚会合が再開されることになれば、選挙運動中でカナダの業界がますます監視を強める中で、市場開放の交渉をしなければならないのはあまり都合のよいことではない。

TPP交渉が遅れると困るのは、カナダの次に、参議院選挙を来年に控えた安倍政権も同様だ。選挙が近づけばそれだけコメや牛肉、乳製品の輸入拡大は難しくなる。

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

世界の観光旅行、カナダ・日本は2軍で大いに努力

「中国はカナダを訪れる観光客の数でイギリスを抜いて、2位と3位が逆転しそうである」とグローブ・アンド・メール紙は7月1日に伝えた。「この逆転が実現しそうなのは今年末で、中国を上回るのは米国だけとなりそうだ」。

エコノミスト誌(3月28日号)は日本での「外国人観光が本格的ブームになったのは昨年からであり、政府が期待していた数字をはるかに上回っている。2014年の外国人観光客は1,200万人を超し、このうち1,100万人がアジア諸国からで、前年比30%弱という伸び率になった。中国人観光客の日本訪問は前年比80%以上の増加で、中国の旧正月中には45万人が中国大陸から日本にやってきた」と伝えた。

同誌はこの大幅増加を「大きな動機」のためだ、と報じた。つまり、日本円が人民元に比べ40%も下落したことだ。

中国の観光旅行での飛躍は、他の関連統計を見ても明白である。

2014年に中国を訪れた外国人観光客は5,560万人で世界第4位だった。上位3カ国はフランス(8,370万人)、米国(7,480万人)とスペイン(6,500万人)。世界観光機関(WTO)の発表であり、中国はイタリア(4,860万人)を上回った。

同じくWTOの発表で、観光客が旅行先で落とす国別収入金額では、中国(569億ドル)はアメリカ(1,772億ドル)とスペイン(652億ドル)に次ぐ第3位で(1位と2位の金額の大差に注目したい)、フランス(554億ドル)、中国のマカオ(508億ドル)とイタリア(455億ドル)を上回った。

これらのトップ10カ国ランキングにはカナダも日本も登場しない。

しかし、両国は世界経済フォーラム(本部はスイス・ダボス)がまとめ、7月6日に公表した観光競争力2015年版ではトップ10カ国に入っている。

ここでは日本は第9位(前年は14位)で、カナダは第10位(前年は8位)となった。トップの8カ国はスペイン(前年4位)、フランス(7位)、ドイツ(2位)、アメリカ(6位)、英国(5位)、スイス(1位)、オーストラリア(11位)とイタリア(26位からの躍進)だった。

WTOによる、観光客が外国旅行の際に費やす国別支出額統計では、カナダは338億ドルで世界8位だった。中国はアメリカをかなりの差で負かし1位だった。中国の1,640億ドルに対し米国は1,041億ドルだ。カナダ人が観光旅行で落とした金額は、日本で観光客が費やした189億ドルを大きく上回った。日本の数字はエコノミスト誌による。だが、日本が得た金額は2012年に比べ、ほぼ2倍だった。

グローブ・アンド・メール紙が政府統計などに基づきまとめた、今年1~4月にカナダを訪れた国別観光旅行者数は、アメリカ(220万人、前年同期比5.9%増)、イギリス(134,392人、4.8%増)、中国(107,351人、20.4%増)、フランス(100,010人、2.9%増)と日本(58,143人、2.7%増)という順位だった。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

州政府が引っ張るカナダの温暖化対策、オタワ政府にプレッシャー ― オンタリオ、ケベック、BCにアルバータも参加 ―

地球温暖化の対策は複雑だ。政治家は産業界の意向も無視できないが、選挙民の意思にも配慮しなければならない。政治信条もからむし、国際評価さえ気になるところだ。ヨーロッパの各国と比べて、そして最近では、米国と比べても、カナダの温暖化対策は見劣りする。日本と並んで、先進国の間では低い評価を受けてきた。

これには、エネルギー産業や経済界に配慮する保守党ハーパー首相の意向が大きく働いていると見られている。保守であるだけでなく、ハーパー首相の選挙区はオイルサンドの石油産業で成り立つアルバータ州最大の都市カルガリーだからだ。そのうえ、9年間のハーパー保守党政権に国民の審判が下る総選挙を10月19日に控え、その前にあまり世論が割れるような、支持層を怒らせるような政策は取りたくないのが本音のところだ。

5月にドイツ南部のリゾート地エルマウで行われたG7先進国首脳会議(サミット)では、欧州や米国の積極姿勢に引っ張られて、カナダも今世紀末までに化石燃料からの完全な撤退を約束する宣言に合意したが、具体的なカナダの対策はまだ見えない。

しかし、11月30日からパリで始まる国連気候変動会議(COP21)に向けて、ほとんどこの問題に関心を示さないハーパー首相の連邦政府の重い腰を上げさせようと躍起なのが、カナダの各州政府だ。これをリードしているのが、カナダ最大の州オンタリオと第2位ケベックの州首相、キャスリン・ウィン(自由党)とフィリップ・クイヤール(ケベック自由党)の二人のリベラル指導者だ。

今月8‐9日にトロントで行われた「米州気候変動サミット」“Climate Summit of the Americas”でケベックのクイヤール州首相は、温室効果ガス排出規制の責任は、何もしようとしない国のリーダーたちでなく、今や州レベルのリーダーの肩にかかっている、と演説。連邦政府がやらないなら、われわれ州や準州が協力して、世界に向かってカナダは気候変動で行動していることを示さなければならない、と呼びかけた。(「トロント・スター」7月13日)

ケベック州が米国カリフォルニア州と一緒に組んで「キャップ・アンド・トレード」方式による温室効果ガスの削減を図ろうとする取り組みに、人口で最大、温暖化ガス排出量では第2のオンタリオ州も、この排出権取引制度のグループに参加することを4月に決定。キャップ・アンド・トレード方式には、その排出削減効果については懐疑的で、排出する二酸化炭素に直接税金をかける炭素税方式の方が排出削減効果は大きいとする意見も多いのだが。

これで、炭素税による排出削減を図ろうとするブリティッシュ・コロンビア州を加えると、カナダの人口の70%が何らかのまともなCO2削減対策のもとに入ることになる、とクイヤール州首相は演説で指摘した。これらの州のほかに、サスカチュワン州は、新しい環境技術であるCO2分離回収技術(Carbon Capture)を使って排出削減を目指すことを検討中だ。(「グローブ・アンド・メール」4月12日、ほか)

何よりも大きな変化は、アルバータ州だ。これまでのエネルギー産業寄りの進歩保守党(PC)政権のもとで、ほとんど自由にといえるくらい好き放題に排出し続けてきたこの州で、5月の選挙で44年ぶりに政権交代が実現して左翼の新民主党(NDP)レイチェル・ノトリー新首相が誕生、選挙公約の炭素税引き上げを発表した。

新政権発足後まだ間がないノトリー州首相は、まだまだ慎重だが、CO2を大規模に排出する企業などに課す炭素税については、公約通り、石油業界に甘い現行の二酸化炭素(CO2)1トンの排出に対して15カナダドルを、2016年に20ドル、2017年からは30ドルに引き上げることを先月決めた。これでも、選挙前に懸念されていたほどの厳しい措置ではなく、支持者からは失望の声も出ているが、アルバータ州の経済を支えるエネルギー業界に配慮した現実的なものといえる。それはBC州の炭素税はすでに1トン当たり30ドルだというのを見ればわかる。(「フィナンシャル・ポスト」7月13日)

オンタリオのウィン州首相はケベックのクイヤール首相とともに、11月末からのCOP21パリ会議にはもちろん出席するつもりだ。しかし、カナダ政府が、なぜもっと真剣に、まともな削減計画を出せないのか言い訳しに行きたくはない、行くならカナダの州がみんなこんなにいろいろ強力な対策をだして、連邦政府もこういうことをやろうとしているのだ、と言いたいのだ、とウィン首相は言っている。(「トロント・スター」7月13日)

はたして、気候変動の対策についてこれらの州政府の熱意は連邦政府を動かすことができるのか。多分10月の連邦議会選挙を待たなければならないだろう。

石塚嘉一、トークス シニア・コンサルタント

古い冷蔵庫を買い換える理由とは

日本の典型的な家電製品販売担当者は、潜在的なお客さんに説明をする際、新型の冷蔵庫などの諸製品がいかに電力消費を減らせるかという点を力説しがちである。

販売員は日本の電力・ガスの値段がいかに高いか、国際的な比較を引用してセールス・トークに説得力を持たせることが出来そうだ。電力業界の研究組織である電力中央研究所(電中研)は、主要工業国のエネルギー価格をデータベースに収めている。

電中研が公表する10カ国の比較では、水力発電所と豊富なガスに恵まれたカナダが、料金の低さで抜群だ。

産業用の電気料金で、カナダはキロワット時当たり9.51円だから、韓国(7.41円)とアメリカ(7.43円)に次ぐ低さである。ただし、韓国のこの数値のみ2009年現在、カナダは2013年、米国は2014年である。

カナダの家庭用電力料金は10カ国の内、もっとも安い10.26円。同国に続くのは韓国(2014年に11.60円)とアメリカ(13.23円)。産業用電気料金では、イタリア(34.68円)に次いで、日本(19.91円)が高い。

韓国国民が低料金を享受できるのは、電中研によると、家庭用公共料金を抑えるという政府の方針のおかげである。

家庭用電気料金がもっとも高いのはデンマーク(42.67円)で、後に続くのはドイツ(40.99円)、イタリア(32.46円)、スペイン(29.80円)。さらに英国(27.08円)と日本(26.81円)が続く。

ガス料金ではカナダは、産業用・家庭用ともに、10カ国の内、もっとも低料金となっている。産業用は立方メートル当たり14円、家庭用は34.50円だから、アメリカ(各々20.26円、46.67円)よりも格安だ。

産業用ガス料金の最高値は韓国(104.73円)で、接近しているのが日本(89.96円)だ。電中研の説明によると、日本のガス料金の高値は2011年3月の福島第一原発事故以来ずっと続いている。

韓国だけは例外だが、家庭用のガス料金は産業用よりも高値になっている。日本が最悪(182.42円)でスペイン(152.85円)とデンマーク(152.62円)が続く。

東京の家電販売担当者は、エアコンが現代風(そして金のかかる)生活の象徴であるけれども、冷蔵庫が家電製品のなかで、もっとも電力を消費するものだと説明する。一日24時間稼動しているからだ。最新型を買えば、年間の電気料金は1万円以上から6,000円程度に減らせるとも教えてくれる。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

カナダ先住民の同化教育の実態に関する「歴史的」報告書、カナダの和解を呼びかけ

120年以上にわたってカナダの先住民の子どもたちがカナダ政府の同化政策によって差別や虐待を受けてきた事実に関する報告書が6月初めに出された。

現ハーパー政権が2008年に設立した「真実と和解の委員会」(Truth and Reconciliation Commission)が、同化政策を進めるために作られた「インディアン・レジデンシャル・スクール」(Indian Residential Schools、寄宿学校)で先住民の子どもたちに対して行われた虐待などの実態について、元生徒7,000人から6年かけて聞き取り調査をした結果をまとめたものである。

この328ページにのぼる膨大な報告書は、寄宿学校での実態を明らかにするとともに、94項目の提言を政府やカナダ社会に突き付けている。主な柱は、「先住民族の権利に関する国連宣言」の完全実施、ローマ法王のカナダ訪問と謝罪(カトリックや英国国教会、プロテスタント長老派などのキリスト教教会が、政府の補助金で、この寄宿学校を運営していた)、この歴史を幼稚園から義務教育のグレード12(高校3年)までの間に必修科目として教えるためのカリキュラム改正、先住民とカナダ国民との「和解の日」の設置などだ。

カナダのマスコミはこの報告書を「歴史的文書」で、「和解へのロードマップ」(「グローブ・アンド・メール」6月2日)だとして大きく報道した。

「これは、先住民族以外のカナダ国民と3つの先住民族グループ ― ファーストネーションズ(First Nations、米国でnative Americansと呼ばれ、かつてアメリカインディアンといわれた民族と同じ)、イヌイット(Inuit)、主にフランス人と先住民との子孫メティス(Metis)― との間の和解の青写真となるべきものだ」、と英国の国際誌「エコノミスト」も述べている。(6月6日号)

問題のインディアン寄宿学校は、1883年から1998年までの間に、カナダ各地に132校(139校とも)が存在し、先住民の子どもたちは欧米の「文明国」の教育を受けるため、親元から引き離され、強制的に入学させられた。この間、ここに入れられた先住民の子どもたちはおよそ15万人。そのうち今日でも8万人が生存していて、今回の報告書作成のための聞き取りで証言している。幼い彼らが親から離されて、生まれてからの文化的習慣や言葉が禁止され、十分な食べ物も与えられない中で、教師たちからさまざまな肉体的、性的虐待を受けたと報告書は指摘している。病気になって死ぬものや自殺するものも出たという。(「グローブ&メール」6月2日)「エコノミスト」によると、1940年代には、先住民の学齢期の子供たちの3分の1がこれらの施設に入れられ、その半分は、この学校にいる間に虐待をうけ、6千人が死亡したという。報告書は、同化政策の一環としてこれらの寄宿学校で行われたことを、「文化的ジェノサイド」(cultural genocide)と厳しく非難している。

ハーパー首相は、すでに2008年に、議会に先住民のリーダーや寄宿学校の卒業生らを招いて、1874年に始まった同化政策の一環として、先住民15万人を寄宿学校に強制的に入学させて、「カナダ政府は、先住民を深く傷つけてきたことを心から謝罪する」と、公式に謝罪している。

この謝罪の中で、ハーパー首相は、先住民の文化や信仰が劣っているものだという想定で、子どもたちを家族や伝統、文化の影響から切り離し、支配的な(西洋の)文化に同化させようとした政府の方針は間違っていたと明確に認めた。
先住民の子供たちを同化させようとした試みは、「カナダ史における悲しみの1章」だと述べ、先住民族とカナダ国民との和解のために謝罪するとした。(「AFP」2008年6月12日、カナダ政府ウェブサイト)。

カナダ政府は、政府の資金でインディアン寄宿学校で起こったことを調査し記録するために「真実と和解の委員会」を設立した上で、今日までに44億カナダドル(約4,400億円)を補償金として支払っている。

委員会の委員長で、自身先住民の子孫であるマレイ・シンクレア(Murray Sinclair)氏は、ハーパー首相は、この委員会の提言を実行に移してくれるのではないかと、慎重ながら楽観的な見方をしている。その一方で、政府は言葉ではなく提言を実行することで答えてほしいと念をおしている。

大半が2,200以上の居住地域に住む140万人のカナダの先住民は、一般カナダ人と比べて収入は低く、失業率は高いので、その経済的ギャップを縮めようとする努力がなされているが、最近の調査によると、そのギャップは逆に広がっているという。先月発表になった「先住民プログレス・レポート」によると、雇用や所得、教育、生活水準などを一般カナダ人と比較すると、イヌイットやメティスは雇用である程度改善したが、居留地に住むファーストネーションズ(インディアン)では、雇用のほかにも、政府補助金への依存度、大学終了率、住居など多くの点で、さらに悪くなっている。彼らの自立能力は、政府による彼らの土地の収用や(ハーパー首相が謝罪の中で認めたように)子供の時の寄宿学校での体験によって極めて弱くなっていると、カナダ先住民経済開発委員会(National Aboriginal Economic Development Board)のクラレンス・ルイ委員長(ブリティッシュ・コロンビア州のオソヨソ・インディアン・バンドのチーフ)は指摘している。

明るいニュースが2つある。ブリティッシュ・コロンビア州では今年の秋の新学期から先住民の歴史と寄宿学校で行われたことについて幼稚園から高校3年までのカリキュラムに入れることになった。これはヌナブト準州とノースウエスト準州に続く、3番目の州として、先住民の歴史を必須科目として教えることになる。たとえば、幼稚園児たちは、先住民が自然の動植物をどのように生活で使っているかを学び、5年生の生徒たちは、先住民の環境を管理する方法について学ぶことになる、と州の教育省スポークスマンは話している。(「ヤフー・ニュース・カナダ」6月17日)」

5月に新民主党(NDP)の政府が誕生したばかりのアルバータ州では、早速、「真実と和解の委員会」の報告書の提言をカリキュラムに反映させ、寄宿学校での負の遺産について義務教育で教えることになった。先住民についての教育の拡充がいつからか明確なタイムテーブルはまだできていないが、州政府の関係者によると、カリキュラムの見直し作業はすでに開始したということだ。(「CBCニュース」6月5日)

7月1日はカナダ建国記念日「カナダ・デー」だった。2017年には建国150年を迎える。カナダが真の国民的和解(national reconciliation)に向かって、長い道のりだが、正しい方向に進んでいることを祈ろう。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

日本は原発による発電を2年近くも中断

日本で原発が全面的に停止したのは2013年9月15日の夜遅くだった。世界の電気事業団体による情報によると、日本での2014年の原発による発電がゼロだったことは、原発を所有する30カ国のなかで例外的で、まさに日本はユニークだ、と確認できる。この年の日本の原子炉は48基だったが、1ワット時の電力にさえ寄与しなかった。

これに比べ19基を持つカナダの原発は、通常通りの運転だった。カナダだけでなく、原子炉が1基しかないアルメニア、オランダ、スロべニアでも核分裂による発電の実績があった。

2011年3月11日、東京電力の福島第一原発が事故を起こす直前まで長らく、発電実績で日本は長年アメリカとフランスに続く第3位だった。昨年はロシアが日本に代わって3位に上がってきた。

3/11の事故まで8位だったカナダは昨年もその順位だった。同国の原発による発電量は51テラワット時(1テラワットは1,000,000メガワットに相当する)を越えた。

カナダよりも上位の4カ国は韓国、ドイツ、スウェーデン、スペインだった。僅差でカナダよりも下位にあるのが中国と台湾。

日本では国中に原子力発電所があるけれども、カナダの原発はオンタリオ州が主力である。ケベック州、ブリティッシュ・コロンビア州とニューファンドランド州、従って基本的に国全体でも水力が発電の圧倒的なシェアを占める。

日本の電力会社による2014年度の総発電量は893テラワット時で、前年度比3.1%減だったと電気事業連合会(電事連)が発表している。このうち水力発電は6.7%、再生可能エネルギーは0.2%で、残りはすべて輸入に依存するLNG・石油系燃料・石炭を利用する火力発電だった。

電事連は2015年5月には10電力会社の燃料(LNG・石油系・石炭)費合計が2010年度の3.6兆円から翌年には7兆円に急増し、2013年度に7.7兆円でピークに達したと明らかにした。2014年度は7.3 兆円と減少に転じた。7社が燃料費高騰に対処するため、電気料金率増大を許可された。

新しくできた原子力規制委員会が原発新規制を2013年7月 8日に発効させると、4社が原発再稼動に必要な規制基準審査を直ちに提出し、合計12基の加圧水型(PWR)原子炉の審査を求めた。ちなみに東電の原子炉はすべて沸騰水型(BWR)である。今、九州電力は鹿児島県薩摩川内市にある2基のPWRを9月までには再稼動できると考えている。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

アイスホッケーでカナダはなぜ勝てないのか ―カナダの国技と日本の国技・相撲―

カナダ人と一緒に仕事をしたり暮らしたりすると、ごく自然に、誰でもアイスホッケーがカナダの国民の中に占めている位置についてよく理解できるようになる。何しろカナダで始まり、20世紀の大半を、カナダがそのスポーツを支配してきたのだから。ホッケーは、カナダの精神に固有の気概や根性、意志の強さ、決断、勤勉などを発揮するのにぴったりの競技だ。

相撲は日本でそれとよく似た地位を得ている。そのルーツは常に人気の高い、ロマンチックな江戸時代にさかのぼり、相撲で重視される礼儀作法、質素と厳しい序列という要素がすべて現代の日本人の生活の中にある。

だから、日本とカナダの両国が、それぞれ自分たちのスポーツで優勝が争えるようなそれなりの競争ができるように苦しんでいるのを見るのは大いに悔しいことだ。

北米プロアイスホッケーリーグ(NHL)のスタンレーカップ2015年決勝戦は先週終わったばかりだが、今年も米国チームに優勝をさらわれた(名門「シカゴ・ブラックホークス」が米チーム「タンパベイ・ライトニング」を破り、2010年、2013年とここ6年間で3度目の優勝を果たした)。これでカナダのチームは22年間優勝から遠ざかったままだ。120年以上前に当時のカナダ総督スタンレー卿が寄贈したあの大きな銀の優勝カップは、発祥の地カナダに一度戻り、優勝チームの選手全員の名前を刻んでまた国境を越えて米国(シカゴ)に戻る。1993年に、NHL最古のチーム「モントリオール・カナディアンズ」が優勝したのを最後に、カナダチームは優勝していない。この現象を心配している人などいるだろうか、と思ったら、グーグルで「なぜカナダはスタンレーカップで勝てないのか?」(”Why can’t Canada win the Stanley Cup?”)と入れて、サーチしてみればいい。おびただしい、100をはるかに超える数の記事が、この問題を真剣に考えている。

一方東京では、先月の大相撲夏場所で優勝したのは今注目の関脇照ノ富士。横綱白鵬を破っての優勝で、この点では大きな番狂わせだが、今場所も勝ったのはモンゴル人力士だったということでは番狂わせにはならなかった。日本生まれの力士が賜杯を獲得したのは、2006年の初場所、当時の大関栃東で、それを最後に今年まで55場所続けて日本人力士の幕内最高優勝は出ていない。その間、優勝したのはモンゴル人力士が53場所、東欧出身の力士が2場所。そして、横綱となると、2003年に貴乃花が引退して以来、日本人横綱は生まれていない。このことを、グーグルで検索するなら、「なぜ日本人横綱は生まれないのか?」(Why are there no Japanese yokozuna?”)のキーワードを入れてみるといい。

一体どうなっているのだろうか。スポーツ専門チャンネル「ESPN」の「FiveThirtyEight」ブログの編集長で統計専門家のネイト・シルバーは2013年にこのカナダの問題を考察した長い記事を書いているが、今年のスタンレーカップに合わせて再度ブログに掲載している

シルバー氏はカナダが勝てない理由を4つあげている。不運とNHLの経済構造の不幸な変化、マーケットの需要に比して少ないカナダチーム、それに、怠惰。

不運というのはいつでも起こるものだ。その時あなたならどうするか。

2005年に起こったNHLの経済構造の不幸な変化というのは、2004年から2005年にかけてNHLで経営者側が行った1年に及ぶロックアウトのときに、リーグが厳しい給料の上限(サラリーキャップ)を導入したことであった。1994年から2005年の間、カナダチームは、カナダ通貨の大幅な下落のために、一流選手を獲得するのに強いドルを資金にした米国のチームと苦しい戦いをしなければならなかったが、2005年からカナダドルが強くなり始めると、カナダのチームは年棒の上限があるために人気選手獲得のための思い切ったトレードもできなくなっていたのだ、とシルバー氏は説明する。

3つ目の理由については、カナダ国民のホッケーに対する強い需要・人気やカナダがNHLの収益に貢献しているものに比べるとカナダのアイスホッケーチームの数は十分でないという。「NHLのチームの配分を、米国とカナダの中で、もっとファンの関心に配慮したものになっていたなら、もっと多くのカナダチームがNHLにできていただろうし、非常に高い確率で、少なくとも1回は優勝していただろう」とシルバー氏は述べている。(現在NHLは米国チーム23、カナダチーム7。)

これは賛否両論のある議論だが、4つ目の理由は古典的な需給関係の問題だとシルバー氏は言う。つまり、ホッケーはカナダにおいては、高い人気で、慢性的に供給不足の状態にあって、カナダのチームは利益を上げるためにはそんなに一生懸命やらなくても何とかなるというものだ。一方米国では、競争しない理由は見当たらない。観客から金を集めるのに、競合するスポーツは、フットボール、バスケットボール、野球にサッカーと事欠かない。米国のアイスホッケーの組織が存続し続けるためには氷の上で成功しなければならないのだ。

「ニューヨーカー」誌のアダム・ゴプニク記者はちょっと違った見方をしている。カナダのチームは、(観客の肥えた、厳しい目があって)技術やチーム力をあるレベル以下に落とすことができないので、(早くから優勝をあきらめるとか、はじめからリーグの中で最下位を走るようなことをしないよう)「見苦しくないレベルを維持するのに全力をあげて」、米国のチームがするように、スタンレーカップに勝てるチーム作りのため若手の超優秀選手をドラフト会議で確保することができなくなるのだと言う。

「わかりやすく言えば、カナダのチームは大きく失敗するわけにはいかないので、ある程度勝てる、それなりに強いチームを作らなければならない。今のNHLでは、そういうチームを作るということは、ずば抜けたグレートなチームを作ることができないということになる」(「ニューヨーカー」2013年6月25日)

ゴプニク記者は、「エドモントン・オイラーズ」が彼のこの仮説を証明するテストケースになると期待している。2005-06年のスタンレーカップ決勝戦を戦ったこのカナダのチームが、そのあとこれ以上ないところまで落ちてしまって、過去10年間、プレーオフに一度も進出できなかっただけでなく、いつも最下位あたりをうろついてきた。そのチームが2010年、2011年、2012年、そして2015年に再び、ドラフト1位指名選手を獲得した。(2013年には7位指名選手を、2014年には3位指名選手を獲得。)ゴプニク記者が正しければ、スタンレーカップは、2020年までにはカナダに戻ることになる。

日本の相撲の状況は、タオルを投げ入れてあっさり降参してしまうとか、将来の大器を2、3人ドラフトで指名すればよいというような単純なものではない。それは、ハングリー精神の問題なのだが、ハングリー精神などというのは、日本のほとんどの若者はもはや持ち合わせていない。

筆者が日本に来た1992年9月は、ちょうど相撲の新たな黄金時代の始まりのときだった。当時は、「東と西の対決」の時代だった。すなわち、強い力士を大勢抱えた花田兄弟のいる二子山部屋が、ハワイ出身の巨漢力士3人、小錦、曙、武蔵丸と対決する構図であった。二子山部屋は1993年に藤島部屋と合併して、1990年代の絶頂期には幕内力士が10人もいた。これは驚くべき成功であった。この部屋からは(これまでのところ)日本人最後の横綱2人を生み出すことになる。貴乃花と若乃花である。二子山部屋は、1992年から2001年の間に行われた60場所のうちなんと半分の30場所で優勝している。一方ハワイ3人組は21場所で優勝した。これを最後に、日本の相撲は終わったのだ。かつて日本の相撲の誇りであった二子山部屋は、2005年頃までは50人の力士を抱えていたのが7人にまで減って衰退していった。今では貴乃花部屋に変わって、幕内力士はモンゴル出身の貴の岩一人になってしまった。

モンゴル人力士が大相撲を席巻する前に、横綱武蔵丸が2002年秋場所に天皇賜杯を手にしたのが「東と西」の時代最後のハワイ出身力士となった。その後の場所からは、若くて不作法で生意気な朝青龍が登場して優勝を続ける。白鵬、日馬富士、鶴竜、旭天鵬と続いて、いまは照ノ富士。みんなモンゴル勢だ。

シルバー氏によると、アイスホッケーがカナダで絶大な人気があることがカナダチームの低迷の原因だという。「エコノミスト」誌は、相撲の衰退の原因は2つあるという。1つはハングリー精神をもった日本の若者がいなくなったこと、2つ目は、相撲のもつ悪いイメージ。

「遠い田舎の大家族の、貧しくて、しばしば腹を空かした若者を見つけて連れてくるのが、一昔前までの典型的で、相撲で最も成功した方法だった。しかし、日本の家族は小家族になり豊かになった。外国人力士といえば、貧しい国の、貧しい家庭からの子弟がほとんどで、成功するために必要なものを備えている」。(「エコノミスト」3月17日)

最近の親は子どもが、まだ暗いイメージを残しているスポーツには入れたくない。「17歳の少年が入門先の相撲部屋で、親方や兄弟子たちにビール瓶や野球のバットでしごかれて亡くなった」2010年の一連のスキャンダルで多くが逮捕されたことで、相撲の社会的地位をさらに下げてしまった。さらに翌年には八百長相撲が行われていたことが発覚して状況はさらに悪くなった。

日本相撲協会は、落ちた世間の評価を立て直すのに広報を使うのがこれまで以上に巧妙になった。相撲協会のこの努力は、評判の悪い朝青龍にとって代わった白鵬の成功のおかげでより容易になった。

カナダのアイスホッケーか日本の相撲か、どちらが先に国産のチャンピオンを生み出すだろうか。

「シカゴ・ブラックホークス」の成功はドラフト会議で1位指名の有望選手を2、3人とること(このチームの場合は、2006年と2007年)と大金を用意しさえすれば、たちまちのうちにチャンピオンになれる(2010年、2013年、そして2015年)ことを証明した。「エドモントン・オイラーズ」の場合はそれを証明するのはまだ先のことだが。

相撲では、各部屋の外国人力士は1人までという制限は日本人関取にとって有利なルールだ。それでも日本人横綱が誕生するまでにはまだ何年もかかる。(優勝回数が33回で、まだ伸ばし続けている)白鵬は、2000年に入門し2002年初土俵、2004年に幕内に昇進した。しかし初優勝は2006年までなかった。日本人で最後の優勝力士栃東の場合は、1994年入門で、1996年末には幕内に昇進したが、6年後に初優勝して大関に昇進した。しかし、これらは単に一握りの事実でしかない。相撲は一つのライフスタイルである。そして、現在は、そのライフスタイルを魅力と感じる日本人がますます少なくなっているということである。

何が何でも、日本の相撲が英国のテニスと同じ道をたどらないことを願うばかりである。テニスの本家英国は、ウインブルドンで77年間英国人チャンピオンを出せなかった。1936年のフレッド・ペリーのあと2013年にアンディ・マレーが優勝するまでは。

― ダニエル・フェイス トークス・バイスプレジデント

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