ボンバルディア1号機が沖縄に到着。一方、三菱航空機は納入を延期

ボンバルディア商業航空機(BCA、本社・トロント)は、昨年12月31日に2つの記者発表を行った。

最初の発表は「Q400旅客・貨物機」の第1号機を琉球エアーコミューター(RAC)に納入したという内容で、合計5機の注文を同社から得ているという。RACはこの機種に関して色々な注文を出す特権を有する「最初の(ローンチ)顧客」である。

BCAはこの機種を「21世紀のターボプロップ機」と呼んでいる。貨物は重量で最大4,082キロ、容量で32立方メートルまで積み込め、乗客数は50人まで。Q400機の確定注文は547機と発表された。

第2の発表は、昨年11月に国産のARJ90第1号機を納入したという中国の市場にボンバルディアが進出していることを裏付ける内容だった。BCAは中国国内で地域内運輸を担う華夏航空(チャイナ・エクスプレス)がCRJ900地域ジェット10機の確定注文を出したと発表。これで同機種の受注は合計38機となった。特徴は燃料消費を同社の従来機に比べ5.5%削減したという点。

BCAは、しかしながら、開発が遅れているCシリーズに関して、エアバス社に共同開発を提唱したが断られた、とエコノミスト誌(11月7日)が報じた。10月29日にはケベック州政府が10億ドルを出資する見返りに、Cシリーズ機計画の権益を49.5%取得するという合意に達した、と同誌は伝えた。これまで開発に要した資金は54億ドル。

一方、三菱航空機は地域内ジェット機(MRJ)の納入開始を2017年第1四半期よりも遅らせ、2018年央になる、と発表した。飛行試験に成功したのは昨年11月だった。

遅れは航空機業界にとって珍しくはない。世界の業界資料を見れば、MRJはテスト飛行から納入開始まで30ヵ月ほどの期間になるが、ブラジルのエンブラエルはE190機で18ヵ月、ボンバルディアはCRJ900で23ヵ月、中国のARJ21機では84ヵ月を要している。

話を沖縄に戻そう。沖縄県内を市場とするRACは、沖縄と日本各地を結ぶ日本トランスオーシャン航空(日本航空の子会社)が74.5%を、沖縄県が5.1%を出資して1985年に創立された。

RACの伊礼恭(いれい たかし)社長は、BCAによると「Q400貨物・旅客機の最初の使用者となったことに非常に興奮している。我が社がサービスを進化させるのに理想的な機体である」と述べている。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

2016年、カナダ公共放送CBCは復活できるか

カナダの公共放送CBC (カナダ放送協会)にとって2015年はひどい年だった。

前保守党政権による交付金の削減と、それによる大幅な人員カット、ニュース番組の縮小、プロスポーツやドキュメンタリー部門からの撤退、そしてキャスターや人気番組の司会たちを巡る一連のスキャンダルはカナダ国民の信頼を失墜させ、視聴率の低下を招き、コマーシャルの収入の急落につながっている。「トロント・スター」は「カナダの最も偉大な公共文化機関であるCBCは死にかかっている」とまで宣告した(11月19日)。「CBCの危機」がここ何年かいわれてきたが、それほど事態は深刻に見える。

しかし、2016年が明けて、トルドー新政権の国内政策がいよいよ動き出すのに向けて、CBCの前途にも希望の光が見えるかもしれない。

実際に、「ハフィントン・ポスト(カナダ版)」が先月掲載した通信社「カナディアン・プレス」の記事は「自由党政権のおかげでCBCの2016年の見通しはよくなるだろう」の見出しで、「CBCに友好的な自由党政府が財布の紐を握ることになったので、苦境に立つ公共放送にとって状況は上向くだろうか?オブザーバーの多くはそう考えているようだ」と述べている。(12月7日)

すでにトルドー首相は、マスコミ嫌いのハーパー前首相の保守党政権で削減されてきたCBCへの交付金、年間1億5千万カナダドルを復活させると約束している。

それでも政府がCBCを救済したいと思うか、救済する価値があると判断して交付金を約束通り復活させるかどうかはまだわからない、と警告するオブザーバーもいる(「トロント・スター」11月19日)。また、実際に復活されたとしても、1億5千万ドルでCBCが立ち直るのに十分ではないというCBCの支持者たちもいる。

カナダ納税者連盟のアーロン・ワドリック氏は、厳しい財政状況のもとで政府がCBCのために交付金を増額する余裕があるのかどうか、自由党政府は見直さざるを得なくなるだろうと、「カナディアン・プレス」に語っている。「CBCへの1億5千万ドルの追加支出が、自由党が挙げた多くの優先課題よりも重要だと国民の多数が考えるかどうか私にはわからない。CBCは政府の優先事項リストのトップにあるとは思わない」と述べている。(「ハフィントン・ポスト」12月7日)

一方、CBCの救済、前政権で削減されてきた交付金の復活が必要だとする人たちの中でも、その資金をどう使うのか、その資金で何をするのかが重要だという人たちは少なくない。

2014年の人員削減の中で引退した、CBCの番組「第5の権力」(Fifth Estate)の元司会リンデン・マッキンタイアー氏は、度重なる人員削減の結果、残ったCBCの優秀な記者を含め職員たちの士気は危機的なレベルまで下がり続けていると指摘する。ハーパー首相の保守党政権下で、歳出削減策の一環として大幅な交付金削減計画によってここ数年、予算縮小・経費削減に追い込まれ、大規模人員削減も2009年、2012年に続いて2014-15年で3度目となっている。その間、要員は25%も削減が行われたと報道されている。

CBCは職員総数が約7千人で年間収入(2012年度)は約18億カナダドル、そのうち64%を政府交付金に頼り、残りを広告収入などでまかなっているが、商業放送局との競争で視聴率も低迷し、広告収入も伸び悩んでいる。そのため、カナダで人気の高い全米アイスホッケーリーグの2014年度以降のカナダ国内での放送権を失ったことから、広告料収入が大きく減少すると見られている。スポーツ中継については今後放送権の高騰するプロスポーツからは撤退し、オリンピックや大きなアマチュア競技に限ると発表している。

マッキンタイアー氏は、CBCはかつて世界一流を誇り、米国のPBSでも英国のBBCでも毎回自国で放送していたような優れた調査報道番組に戻るべきだと言う。かつて世界で最も優れたドキュメンタリー部門の一つであったものをCBCは廃止してしまったが、CBCはそういう優秀な番組でもう一度復活すべきだ、と彼は考える。(「ハフィントン・ポスト」12月7日)

元カナダ通信省副次官でCBCやいくつかのテレビ関係団体のトップを務めたリチャード・スタースバーグ氏は「より大きな問題は、新政権がCBCを救いたいと思うかどうかだ。これは、金の問題ではない。CBCはどんな放送局を目指そうとするのかというもっと基本的な問題なのだ」として、いくつかの具体的な提案をしている。(「トロント・スター」11月19日)

中でも、CBCがそのモデルとした英国のBBCに倣って、カナダも政府とCBCの間で結ぶ「特許状」(ロイヤル・チャーターといって国王から与えられるということになっている)を作るべきだという。英国政府とBBCが公共放送BBCのあり方や事業範囲を規定してあって、契約の期間(通常10年ごとに改定)にBBCが受け取る政府の補助金の額を決める。特に、その「特許状」にあたるもので、CBCの役割は何か、何を目指すのかを明確に規定することが大事だとスタースバーグ氏は述べている。

多種多様な民間のデジタルメディアの出現があるからこそ、「カナディアン・コンテンツ」を相当量含んだ放送サービスが公共放送のCBCに求められているし、商業目的に走る民間のメディアがカバーしきれない高度な文化プログラムに重点を置き、カナダ国民がますます広告付きの放送を見なくなっている時代にCBCはテレビコマーシャルを廃止して、民放との視聴率競争に陥り番組の質の低下を招くのをやめるべきだ、などと提言している。

果たして設立80年を迎える2016年がCBCの大きな転機になるか、トルドー政権はCBCの救済に乗り出すだろうか。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

高レベル核廃棄物処分場の土地探しで日本はカナダに遅れ

「使用済み」核燃料を再処理した後に出てくる「最終的な」つまり高レベル放射能の核廃棄物を処分するための土地探しは、どこの政府にとっても至難のわざである。原発先進国のアメリカでもネバダ州ユッカ・マウンテンへの立地で失われた10年間を経験しながら解決に至っていない。

ところが、フィンランド政府は2015年11月12日に処分場に許可を出す世界最初の政府となった。最終処分場を運営するポシバ社に廃棄物を容器につめる工場と処分場の建設を認可したのだ。

ヘルシンキ発のこのニュースは、処分場の立地探しに一歩前進したカナダの実情を忘れさすような、大きな出来事だった。ワールド・ニュクリアー・ニュースは2015年11月3日号で、カナダの核廃棄物処理機構(NWMO)がオンタリオ州セントラル・ヒューロン市の申し出に応じて初期の第1段階評価を終えたと報じた。

日本人にとって驚きであるのは、21もの地方政府(多くは原発が多いオンタリオ州)が評価に手を挙げたということだ。「うちの裏庭ではダメ(Not-in-my-backyard)」というNIMBYの感情は、これらの自治体には存在しないようだ。このうち第2段階の評価に進んだのは11の自治体。

日本の原子力環境整備機構(NUMO)は経産省の許可を得て2000年10月に設立された。NWMOと同じく立地探しを目的にしている。早くも15年の歴史を有することになったNUMOがかつて見つけたのは高知県の東洋町だけだ。これが2007年1月のことで、町長は4月の選挙では再選を逃す羽目に至った。

経産省の資源エネルギー庁は、2015年に地方自治体への他力本願から同庁とNUMOによる自主的立地探しに舵を切った。

最終処分場は概ね、地下300メートルの地層に処分する。

資源エネルギー庁は、まず2年間、地震などに関する歴史的な一般的調査を実施することにしている。

その著書「なぜ再処理するのか?」で大和愛司(元動力炉・核燃料開発事業団)は、日本列島が北欧やカナダとは異なり、「変動帯」に位置すると言う。しかし、NUMO創設前に8年間をかけて実施された研究は「十万年程度の安定な地質環境は国内に広く分布する」という結論に達した、と彼は書いている。

資源エネルギー庁は、さらに次の4年間で地方自治体の許可を得て具体的な地質調査をやり、その後の14年間に詳細調査を実施する意向である。

つまり、日本はカナダに14年ほどの後れを取っていると言えそうだ。NUMOの失われた15年間に匹敵する時間だ。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

筑波大学が専門分野での世界ランキングを発表

ランク付けは今やブームと呼べるような事業あるいはゲームとなった。「フォーチュン500社」は多くの国のビジネスマンにとって馴染みのランク付けである。もちろん、世界のトップ企業500社の業績をまとめたものである。世界中で誰が大金持ちかに興味ある人は、やはりアメリカの雑誌であるフォーブスを購読すれば詳しい情報を読める。

ランク付けはどんどん増えている。化粧品業界では、どこの地域に美肌の女性が多いかを調べる会社まである。通常、秋田県の女性が美肌だと考えられがちだが、ポーラによる調査では島根県だそうである。

国立の筑波大学までランク付けに進出した。同大学は「スポーツ科学・体育教育・運動科学における世界大学比較2015年版」を2015年10月30日に発表した。これは通常のランク付けとやや異なり、トップの大学名を発表する形をとった。また、米国の大学が高位を占めていないという点でも風変わりである。

体育教育(全体の35%)、研究(50%)、競技実績(15%)の3分野に分けて評価し、総合点を計算した。

教育分野では、イギリスのラフバラ大学、国立台湾師範大学、ポルトガルのポルト大学、筑波大学の4校がトップとされた。研究ではラフバラ大学、カナダのカルガリー大学の2校が上位となった。競技分野はオークランド工業大学(ニュージーランド)、カルガリー大学、ポルト大学、筑波大学、早稲田大学の5校が選ばれた。

筑波大学の評価担当者はトムソン・ロイター社の協力を得て、同社が保有するビブリオメトリックス(学術論文発表数と影響力調査)と学術評判データを参照した。

調査では35の指標が使われた。たとえば、競技分野での2指標はオリンピック、国際競技大会でのメダル獲得数だ。

筑波大学は2015年1月から6月まで世界の98大学にアンケート調査票を送り、その内19校からのみ回答を得たと認めている。

回答を寄こした19校の内訳は北米が4校(カナダのマギル大学など)、ヨーロッパが7校、アジアが5校(鹿児島県にある鹿屋体育大学など)、オセアニアが3校であった。

総合評価でトップ3校となったのはラフバラ大学(英国)、カルガリー大学(カナダ)と筑波大学だと発表された。

 

潮昭太 東京在住フリーランス記者

カナダにシリア難民がやってくる

シリア難民2万5千人を今年中にカナダに受け入れるというトルドー首相の選挙公約は、受け入れの最終期限こそ来年に延期されたけれども、自由党政権下で最初のシリア難民第一陣がクリスマス前にもカナダにやってくる。

世界はいまこの大胆な難民受け入れ策、「カナダモデル」が成功するかどうか、そして彼らもカナダに倣って難民受け入れを拡大できるのか、その行方を見守っている。フランスをはじめ難民が押し寄せて対応に困っている欧州各国や、カナダと同様に難民受け入れの方針をオバマ大統領が確認している米国などから注視されている。

10月の選挙中にトルドー党首が約束した、今年中に2万5千人のシリア難民を受け入れるというのは、さすがに急すぎて政権発足から2か月足らずではさまざまの手続きや受け入れ準備が間に合わないとして批判が出ていたが、政府は受け入れ期限を来年までに先送りしながらも、受け入れ人数は変わりなく、政権発足以来公約の実行に作業を急いでいる。

11月24日に発表された変更案では、今年12月末まででなく来年2月末までに、政府がすべての費用を負担して受け入れる難民2万5千人のうち1万5千人と、民間の団体NGOや個人がスポンサーして受け入れる難民1万人が、カナダにやってくる。そしてさらに残り1万人は2016年中に受け入れるというもの。

受け入れ態勢の問題なども理由にあげられるが、何よりも大きいのがセキュリティの問題。11月13日のパリ同時多発テロ事件の犯人の一人が難民としてフランスに入国したシリア人であったことがわかった後も、トルドー政府は毅然としてシリア難民の受け入れの約束に変更はないとしていることもあり、テロリストが紛れ込むのを未然に防ぐのに、念には念を入れることになる。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はヨルダンで登録された63万3千人のシリア難民の中からカナダの受け入れ基準に合った難民1万1千人のリストを作成中で、これをもとに、カナダから派遣された担当官らが審査してさらに絞り込む。その上で、現地で面接して最終的に受け入れに適当かどうかを決める。トルコでは現地政府が作成した同様の難民リストをカナダの担当官が審査して、さらに難民への面接を経て確定する。レバノンでも同様の審査が行われ、最終的に審査をパスした難民たちが、カナダに送られる。新政権発足以来すでに、500人の担当官をこれらの国に送り、膨大で遅れがちなスクリーニングの作業に当たらせている。テロリストが紛れ込むのを防止するのと並んで、病気をカナダに持ち込まないように、伝染病に罹っていないかをチェックするのが面談での大きな目的だ。

カナダ政府の今回の難民受け入れは、子供などがいる家族で特に医療の手当が必要な人たち、性的暴行を受けたり危険にさらされている女性、LGBTと呼ばれる性的マイノリティの弱者たちがUNHCRの方針で優先される。この優先順位には、異論を唱える人たちもいて、「カナダにはすべての人が難民として受け入れられるべき」で、こういう人たちが優先的に受け入れられた後は、せめて次は、「シングルで、ヘテロセクシャルの男性も難民として受け入れるべきだ」と「グローブ・アンド・メール」(11月24日)は社説で主張している。

トルドー政権はシリア難民の受け入れを「カナダ国民すべてが関わる国家プロジェクト」だとして力を入れている。難民受け入れ大国のカナダが、通常の受け入れ人数の倍以上のシリア難民を引き受けることで、シリア国内の混乱から逃れて中東や欧州に数十万の難民が押し寄せている「難民危機」を緩和するのに貢献でき、他の国々にも難民受け入れに動く勇気を与えられるのではないかと期待している。

カナダ政府は難民をカナダに民間航空機で連れてくる費用は、政府受け入れの難民だけでなく民間団体・個人が受け入れる難民の分も政府が負担し、2万5千人の政府受け入れ難民が定着するための住宅や生活支援などの費用は全額政府が負担する。その額は、6年間で5億6,400万~6億7,800万カナダドル(564億円~678億円)と見積もられていて、その多くは最初の2年間に集中するとされる。

筆者などは、NGOなど民間の団体や個人(シリア系カナダ国民で難民の親戚も含まれる)が1人の難民を受け入れるのに1年目だけで1万2,600ドル、4人家族だと2万7,000ドルもの定住のための費用を負担するということに感心してしまう。そして、カナダ政府によると、今回の政府のシリア難民受け入れ計画発表に伴って何千もの難民受け入れ申請がNGOや個人から出されていて、彼らが数千、数万ドルを負担して難民を助けようとする責任感や寛大さ、人道的な連帯感は感動的である。

入国審査が慎重で、時間がかかる分、一旦入国審査をパスした難民たちは、カナダに到着すれば直ちに永住権をもった外国人として受け入れられる。

クリスマス前にもシリア難民第1陣のカナダ到着が見えてきた最近は、各州政府の首相や市長が、政府が受け入れるシリア難民は、モントリオールやトロントのようなシリア系やその他の国の移民が多く住む大都市にばかりでなく、カナダの全国各地に万遍なく定住させるべきだと連邦政府にプレッシャーをかけている。シリア難民の定住先は到着時期とともにまだ何も決まっていないのだが、大きなシリア系カナダ人コミュニティが存在するモントリオール、トロントの大都市に、民間団体・個人受け入れによる何千人ものシリア難民の多くが向かうと見られているので、政府受入れの難民も多くがこれらの大都市に定住することになるのではないかとみられている。

カナダのシリア人の約60%、なんと5万人もが、モントリオールを中心とするケベック州に住んでいる。19世紀後半に当時のオスマン帝国からの移住者がケベック州に着いたのがシリア系カナダ人の始まりだという。また、グレーター・トロントの一部を構成するミシソガ市はカナダで最もシリア系カナダ人の密度が高い地域だという。

そこで大西洋側の州などが、難民をもっと均等に配分してくれれば、東部地域の人口減少の問題に対応することができるとして、連邦政府に、要望を出しているのだ。ノバスコシア州の州都ハリファックスの市長は、難民問題を単に人道問題、思いやりの問題としてだけでなく、受け入れ国の人口問題への対応や経済の問題(労働力や消費者の問題)としての手段として考えなければならないと主張している。大都市ばかりでなく、小さい町も州もみんなが、自分たちも難民のために何か役割を果たすことができるのだから、そういうチャンスを与えてほしい、という。文化の違いとは言え、難民に扉を閉ざした日本から見れば、これも感動的である。

カナダはすでに、自由党政権がスタートした11月4日以降で102人のシリア難民を受け入れている。2013年以降では、カナダが受け入れたシリア難民は3,000人以上になるという。

これまでに出ている数字だけでも、今月から来年末までにカナダが受け入れる予定のシリア難民は政府2万5千人、民間1万人で3万5千人と、トルドー首相が公約した2万5千人を1万人も上回っているが、ジョン・マッカラム移民大臣によると、来年末までに他の国からの難民を加えるとカナダが受け入れる難民の数は何と5万人にもなるという。これは1979~80年にいわゆる「ボートピープル」と言われたインドシナの難民6万人をカナダが受け入れたのに次ぐ多さである。米国についで難民の受け入れ大国とみられるカナダの通常の受け入れ数は、2014年で1万2千人以上であった。

しかし、受け入れる難民の数が増えると、住宅や生活支援などの難民への待遇(あるいは厚遇)が社会福祉を受ける生活レベルのカナダ国民に、自分たちよりも難民の方がよい待遇を受けていると感じさせると、国民の間に不満や妬みなどを引き起こし国民の連帯感に亀裂が入ることが懸念され、政府は注意深く進めるつもりだ。政府は国民の理解を呼びかけていて、今のところ、シリア難民受け入れには広い支持が得られているという。

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

カナダから日本向けの液化天然ガス輸出に進展

出光興産によるカナダから日本に向けた液化天然ガス(LNG)輸入は2018年に開始できると見込まれる。これは石油天然ガス・金属鉱物機構(JOGMEC)の幹部が11月19日、都内で開催された公開セミナーで明らかにした見解だ。

JOGMECの山田剛士・バンクーバー事務所長によると、カナダ西海岸地域にあるLNGプロジェクトは20件。また、同国の天然ガス可採埋蔵量は600兆立方フィートである。

出光興産はブリティッシュ・コロンビア(BC)州のダグラス・チャンネルLNG企業体の3分の1の権益を保有している。他の参加企業はアルバータ州カルガリーを拠点とする大手のアルタガス、EDFトレーディング(フランス電力公社の子会社)とベルギーのLNG運送業者、EXMAR社だ。

企業体は2015年末までに最終投資決定(FID)を実施する予定、と山田氏とカルガリー・ヘラルド紙(2015年1月28日号)は言う。FIDにより企業体からの最初の輸出が2018年に可能となろう。EXMAR社がBC州キティマトに近いダグラス・チャネル{水路}でバージ上に(浮かぶ)液化設備を建設する。当初の生産能力は年産55万トンである。

カナダのジャスティン・トルドー新首相は日本からのLNG関連投資を歓迎するという声明を発表している、と山田氏は言う。

トルドー首相と閣僚が勢ぞろいしてから2日しか経過していない時に、バラク・オバマ大統領はキーストーンXLパイプライン計画を認めない、と発表した。これはすでに存在しているキーストーン1期パイプライン(カナダ産タールサンドから取れる重質原油をアルバータ州ハーディステイからネブラスカ州スティールまで運んでいる)に1,899キロの短いルートを加えようとする計画であった。

トルドー首相は「保守党の前任者よりも緑の政策をという公約を破ることなく、原油輸出を続ける新方策を生み出す必要に迫られている」とエコノミスト誌は伝えた(2015年11月14日号)。同誌はさらにこう報じた。「オバマ氏によるトルドー氏の就任直後でのキーストーンXL計画つぶしは、トルドー氏への親切心であった。トルドー首相がXL計画をダメにしたという避難を浴びないですむからだ。だが、その一方で、トルドー首相はカナダ州政府の首相に対し説得しやすくなる。石油輸入国側から気候変動助長を理由にして差別を受けないよう、XL計画ご破算のような二酸化炭素削減を目指す全国的な計画を作成する必要があると州政府に訴えやすくなる」と。

LNGは燃焼時に石油よりも少量の二酸化炭素を発生する。

カナダ産LNGの日本への輸入には、オーストラリア産と同様に、海上輸送に要する期間が8日程度と短いという利点がある。これに対して中東からの原油輸入は18日ほどかかると山田氏はセミナーで指摘した。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

外交デビューを果たしたトルドー首相、オバマ米大統領と米加関係改善へ意気投合

ジャスティン・トルドー首相の誕生とともに、カナダが世界の舞台に戻ってきた。

11月初め(11月4日)に首相に就任してすぐに世界の大きな首脳会議を2つ無事にこなしてきた―トルコ・アンタルヤで行われた20か国・地域(G20)首脳会議(15-16日)と、フィリピン・マニラでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議(18-19日)だ。

この1週間で、トルドー首相は世界がカナダを見る見方を変えてしまった、という高い評価をする報道も出ている。(「グローブ・アンド・メール」11月21日)

43歳とカナダ首相として史上2番目に若くて、その上ハンサムで、今でも人気の高い元首相の息子というセレブのトルドー首相は、これら2つの首脳会議で出席者たちの注目の的であった。他の首脳からも好意的な評価を得られたと「ロイター通信」(11月20日)は報じている。

選挙期間中、トルドー氏は保守党のハーパー首相(当時)の内向きだとされた外交を批判して、自由党が政権につけば、カナダは世界でより大きな役割を果たすと約束してきたことも、会場の外国首脳はみんな知っている。

彼らは、選挙中トルドー首相が「サニーウエイ」(「北風と太陽」のイソップの話にある太陽のやり方、11月4日のブログ参照)を説くことでどうしてあれほどの圧勝を収めることができたのか興味津々だったという。(「ロイター通信」11月20日) 他国の首脳たちも政治家、みんな選挙に勝つ方法ほど気になることはないのだ。

首脳会議の会場では、セルフィー(自撮り写真)をトルドー首相と撮ろうとする若いジャーナリストや会議のスタッフたちが殺到し、まるで選挙運動中のようだったという。APECの会場では100人以上のフィリピンのジャーナリストやスタッフに囲まれた首相は、はじめにこやかだったがついにはボディガードに守られて会場を出なければならなかったと、熱狂ぶりが報じられた。もちろん会議場内でトルドー首相とセルフィーを撮る外国首脳の姿も報道されていた。「オタワ・サン」(11月19日)などカナダのメディアの中には「セルフィー首相」(”Prime Minister Selfie”)と揶揄も交えてこの現象を報じていた。

おかげでトルドー首相はマニラのメディアによって「APECホッティ」(APECに来た最もセクシーな首脳)に選ばれた。そして2位は49歳のエンリケ・ペーニャ・ニエト・メキシコ大統領。ついこの間まで世界で最もクールな指導者と言われていたオバマ大統領は3位に転落してしまった。マニラの新聞「フィリピン・デイリー・インクワイヤラー」(Philippine Daily Inquirer)はトルドー首相とニエト大統領の写真を1面にでかでかと載せ、オバマ大統領や習近平中国主席の写真は小さく隅っこに追いやられてしまった。

しかし、外交デビューのこの段階では、中身なんかいらないのだ、とにかく首脳会議などをこなして、他国の首脳と顔合わせをして、彼らに好印象を与えてくることができれば大成功なのだ、と言ってトロントの世論調査専門家のジョン・ライトはトルドー首相の世界デビューを評価している。

中でも、オバマ米大統領との初会談は大成功だった。オバマ大統領からの配慮もあり初めから打ち解けた雰囲気の中で行われた首脳会談では、補佐官だけを入れて20分ほど2人で話したあと、ジャーナリストを招き入れて握手をしたり冗談を交わすところを取材させた。保守党のハーパー政権で、冷え切ったワシントンとオタワの関係はすぐにも改善にむけて「リセット」できるのだという二人の首脳の意思がジャーナリストたちにもすぐに伝わった、とカナダのメディアは報じている。(「トロント・スター」11月19日)

APEC首脳会議の合間に行われた会談で、オバマ大統領は、「我々は米国にいてジャスティンがカナダの選挙で巻き起こした信じられないほどの大興奮を見てきた。彼がカナダの政治に大きな活力と改革を吹き込んでくれると信じている」と言ったのを多くの新聞が引用している。「今やカナダに米国の強力なパートナーがいるということは、われわれがグローバルなルールを決める時に大きな力になる」と言ったオバマ大統領のトルドー首相への期待のほどがわかる。

その場で大統領はトルドー首相夫妻をホワイトハウスに招待したが、来年初めにもワシントン訪問が実現しそうだという。

リベラル政治家である二人は馬が合うのだろう。オバマ大統領は、トルドー首相への就任後初めての電話で、「国のリーダーになったら黒い髪もすぐに白髪になるよ。ホワイトハウスに来たときは黒かったのが今ではこんなに白くなった。白髪がいやだったら今から黒く染めておいた方がいいぞ」と首相にアドバイスしたことを自分から言い出して冗談を言い合ったという。

馬が合うだけで、外交はすべてうまくいくわけではない。それでも初会談では両首脳は米加間の難問である、カナダの石油を米国に送るキーストーンXLパイプラインの建設問題(環境団体に配慮してオバマ大統領は承認を拒否)とトルドー首相の選挙公約であるイスラム国空爆からカナダの戦闘機を来春で引き上げる方針を横に置いて、二人の共通の関心事であるシリア難民のそれぞれの国への受け入れと月末から始まるパリでの国連気候変動会議(COP21)の対策を突っ込んで話したと伝えられている。

G20首脳会議の直前に起こったパリでのイスラム国のテロ攻撃で130人もの死者が出てフランスや米国、ロシアが報復爆撃を開始したのにもかかわらず、G20では、トルドー首相のイスラム国爆撃からカナダが抜ける方針に、特別反対は出なかったといわれる。(代わりに、イスラム国テロリストたちと戦うイラク軍の訓練を、カナダ軍がさらに強化すると約束している。)

この後、今週末(27-29日)マルタで英連邦諸国首脳会議、そして月末30日からはCOP21が控えている。COP21にはカナダ各州首相や野党の代表ら大デリゲーションを引き連れてトルドー首相自身参加、オバマ大統領とも連携して気候変動の対策を打ち出すのに取り組むのだという。これで、カナダは再び結束して世界の問題の解決に貢献するのだという強い姿勢を世界に示すことができる、と外交や環境の専門家は言う。世界の問題でトルドー首相の真価を問われるのは本当はこれからだ。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

カナダと日本の少数者の言語が滅亡の危機に

たいていの人はイヌイット語とアイヌ語が同じようなものだろうと思っているだろう。両者ともに寒い地域で生きてきたのだし、海洋動物や鮭を主食としていたのだから。

その考えは部分的には正しいと私は思う。しかし、両言語の細部については重要な違いがある。エコノミスト誌11月7日号の記事と日本の百科事典を併せて読むと相違が分かってくる。

アイヌ語の最大の特徴は話し言葉であることだ。英国人宣教師のジョン・バチェラー(1854~1944年)、金田一京助(1882~1971年)、知里真志保(1909~1961年)が著名なアイヌ研究者で、おかげで口承されてきた言語や詩が文字になって記録された。

「現在、59,500人のイヌイットが9通りの書き言葉を使っており、互いに意思を伝えるのも困難であり、その言語を保持するのも困難になっている」とエコノミスト誌は伝えている。

「音の重なりを表す文字群が地域によって異なり、“あなた”という単語はibbit, ivvit, illitという異なる表記になる」とも言う。

エコノミスト誌はまた、「言語表記が統一されていないから、カナダのイヌイット指導者は同じ内容の文書を別の表記で繰り返して準備しなければならない」とも報じている。

英語とフランス語が公用語であるカナダにとっても、イヌイット語の種類の豊富さは独特な問題であろう。

イヌイットの10代の若者は「IT機器では英語を使っている。イヌイット語で会話できる人の割合は2011年には63%に減ってきた」と伝え、「ゆっくりではあるが、イヌイット語は滅亡に向かっている」と警告する。

9通りの書き言葉は9つの方言の存在を意味し、広大な北極圏のなかに村落が散らばっている様子を思わせる。この状況に比べるとアイヌの人々(1854年には人口は18,805人にまで減った)は主に比較的小さな北海道で生きてきた。

話し言葉のアイヌ語は日本語に似ている。両言語ともに、いわゆるSOV(主語・目的語・動詞)という語順になる。「ぼくは・君を・好きです」となり、英語のような「ぼくは・好きです・君を」とは異なる。

だが、音素はアイヌ語のほうが簡単である。母音は日本語と同じ5つだが、子音は12だけである。

日本人との同化、つまりアイヌ人と日本人が一緒になる結婚はアイヌ語という少数者言語をやがて消滅させることになるかもしれない。アイヌ人の43%が1960年代に日本人と結婚し、アイヌ人・日本人夫婦はアイヌ人全体の88%となった。

言語が消滅することは文化的多様性が減ることにつながると考えられる。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

6,500万年前の地球上の生物を想像

古生物学のクイズ。次の文章は正しいか誤っているか。――恐竜が人々を食べようとして、あるいは他の目的のために追いかけたなどということはありえない。小説(SF)は別として。

世界の3大恐竜博物館のうち、1つはカナダ、残る2つは日本と中国にある。これら博物館はいずれも絶滅した巨大動物の骨格が発見された内陸部に近い場所につくられた。

中国の自貢恐竜博物館(四川省自貢市)は大きなスペース(62平方キロメートル)を持つ公園内の一角で1987年1月に開館した。所有する化石の数は「数千」に及ぶという。

カナダのロイヤル・ティレル(古生物学)博物館は「1985年9月25日に開館、それ以後1年間の入場者は50万人以上で私たち関係者の予想を上回りました」と同博物館のウェブサイトは記している。

アルバータ州立の同博物館を運営するのはアルバータ州文化・コミュニティ・スピリットと呼ばれる組織で、古生物学の教育に貢献しているようだ。およそ2万6,000人の生徒が毎年セミナー類に参加している。ただし、入場者数は初年度の熱狂ぶりの後、年間40万人弱に減ってきた。

子供は巨大な恐竜の骨格を見て畏怖し夢中になる。ティレル博物館が所有する完全な恐竜の骨格は50体を超える。科学的な説明では、13万の標本を保持し、毎年2,000点ほど増やしている。

近年のメディア発表の見出しを見ただけでも活況がうかがえる。「角付き恐竜の新標本を発見」(日付不明)、「新恐竜(ハドロサウルス)をアルバータ州ルヅク近辺で発見」(日付不明)、「当博物館が化石化した魚の新標本を発見」(2013年3月)、「フォート・マクマレイの道路建設現場で海洋爬虫類の化石を発見」(2012年12月)といったふうである。

この博物館は地質学者ジョセフ・バー・ティレル(1858~1957年)の名前を冠している。彼はカナダ地質調査所の仕事で石炭を探索している時、同国初の肉食性恐竜の頭蓋骨を偶然発見した。

ティレル博物館は福井県勝山市にある県立恐竜博物館と2000年11月に姉妹博物館の協定を結んでいる。

福井県立恐竜博物館の前史は1982年にさかのぼる。ワニの化石化した歯が川の崖で発見されたのが、この年だった。ワニの骨格とともに恐竜の骨もやがて発掘され2000年の博物館開館となった次第。今では草食性のフクイサウルスを始め42体の恐竜の全身骨格を有している。ティラノサウルスのロボットもある。

博物館の県庁での担当部門は観光営業部である。最近2年度の入場者数は各70万人を超えた。

クイズの答え。正しい。恐竜と人類は別の時代に存在。恐竜は白亜紀まで生きていたと推察される。これはおよそ6,500万年前までである。人類(ホモサピエンス)が地球に姿を現したのは300万年前から700万年前程度なのだから。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

ジャスティン・トルドー首相の自由党政権がスタート ― 米のメディアも大きく報道

水曜日(日本時間木曜日)、カナダの23代首相に自由党のジャスティン・トルドー党首が就任する。カナダで最も偉大な政治家の一人といわれる元首相、ピエール・エリオット・トルドーを父親にもつハンサムで人気の高いトルドー氏(43歳)はカナダ史上2番目に若い首相となる。ほぼ10年ぶりの政権交代で、中道左派の自由党政権とともに、かつてのよき時代の「カナダらしいカナダ」が戻ってくる期待が膨らむ。

同じ日に発足するトルドー首相の内閣にはベテランよりもカナダの将来を担う有能な若手政治家やカナダの多様な人種の連帯と多文化主義を反映した男女の人材がまんべんなく選ばれるとカナダの新聞は伝えている。(「グローブ・アンド・メール」11月1日)

10月19日に行われた選挙では、自由党が4選を目指したスティーブン・ハーパー首相の保守党政を誰も予想しなかった地滑り的勝利で破り、2006年以来の保守党支配に終止符を打った。選挙前第3党の自由党は34議席から184議席に伸ばし圧勝、過半数に必要な議席を14上回った(総議席数338)。

保守党は99議席と60議席も減らし野党に転落。自由党より左派の新民主党は59議席減らして44議席と野党第2党に後退した。選挙直前には、自由党が保守党を数ポイントリードして優勢と伝えられていたが、どちらが勝つにしても、単独過半数には届かないと見られていたのが、ふたを開けてみると自由党の圧倒的勝利となった。

「トルドーが勝利したのには、一つにはハーパーでないという理由があるけれども、思いやりのある、平和を好む、多元的な社会というカナダ的価値に対する彼のコミットメントは本物だということが働いている。彼は私たちのカナダらしさを深く語ることができる」と、ニューヨーク・タイムズに出た記事について、カナダの読者がコメントしているのが紹介されている(「ニューヨーク・タイムズ」10月26日)

その記事の中で、トロント・スター紙のコラムニスト、ヘザー・マリクは、「トルドー氏は、カナダ国民が自分たちについて抱いている、争いを避け、教育があり、情緒的に安定していて、多文化を受け入れる国民だというイメージによりぴったりだ」と言っている。

トルドー氏は10月19日の地元モントリオールでの勝利演説の中で、100年前のカナダの首相ウィルフリッド・ローリエがよく言っていた「サニーウエイ」(太陽のやり方、イソップの太陽と北風の話にある、あたたかい太陽で旅人のコートを脱がせるやり方)が自分の政治のやり方だと述べて、ハーパー前首相の強権的な政治手法を批判した。「サニーウエイはポジティブな政治ができることなのだ。政治家の公的生活にポジティブで、楽観的で、希望に満ちたビジョンを持つことはナイーブな夢ではない。」(「ニューヨーカー」10月20日、「ニューヨーク・タイムズ」10月20日)

「(この選挙で)国民はカナダ全土から、明確なメッセージを私たちに送ったのだ。今やこの国に変化をもたらすときだ、真の変化を起こす時だというメッセージを。」

彼はまた、ハーパー首相の、移民や難民、先住民、イスラム教徒などに対する差別的な発言や政策を念頭に、「カナダ人はだれでもみんなカナダ人に違いはないのだ」(”a Canadian is a Canadian is a Canadian”)と述べて国民に結束と連帯を呼びかけた。

普段カナダのニュースにあまり関心を示さないフィナンシャル・タイムズやニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ニューヨーカーなど多くの欧米のメディアがトルドーの勝利を、数多くの記事や解説、オピニオン記事で報じているのには、中でも、トルドーの(自由党の)経済政策の行方に対する関心にあるようだ。

トルドー首相は、石油価格の下落で低迷している経済を回復させるのに、金利が低い今、3年間で250億カナダドルの(ゆるやかな)財政赤字を容認して、合わせて600億カナダドルの資金をインフラ投資にあて古くなって危なくなったインフラの整備を進めることでカナダの景気を立て直そうという政策を選挙中に公約している。「新しい家を買おうとするとき、銀行から融資を受けるように、自分たちの将来に投資をすることができるのだ。それが、自信に満ちた、楽観的な国ができることなのだ」というのが、選挙期間中に語ったこの政策の理屈だ。

世界中が経済低迷・経済危機に対応するのに緊縮財政、財政均衡に躍起になっている中で、財政赤字のケインズ主義政策を掲げて大勝したトルドー政権の経済政策は成功するのか、米国や欧州の国々から大きな関心を寄せられているということだ。自由党はその上に、中間層の所得減税とそれに見合う富裕層の増税を合わせて公約している。

かねてから積極的な財政政策による景気刺激策を主張しているラリー・サマーズ ハーバード大学教授(元オバマ大統領の国家経済会議委員長)やポール・クルーグマン プリンストン大学教授はこのトルドー首相のインフラ投資による景気刺激策が、本当に責任ある財政政策であるということを世界に示す絶好の機会だとエールを送っている。サマーズは、米大統領選挙の候補者たちがこれを見習え、と言っている。(「ワシントン・ポスト」10月20日、「ニューヨーク・タイムズ」10月23日) 因みに、サマーズは選挙中のトルドー候補の経済アドバイザーだったと言われている。クルーグマンは「アベノミクス」の積極財政策を強く支持していた。

トルドー首相は、首相就任後休む間もなく、11月中にいくつもの国際会議に出て世界の舞台にデビューする予定が詰まっている。再びカナダが国際舞台に戻ってくる。15-16日にG20首脳会議がトルコで行われるのが初舞台になる。18-19日フィリピンでのAPEC(アジア太平洋経済協力)会議、27-29日マルタで英連邦諸国首脳会議、そして、トルドー首相が特に強い関心を持っている気候変動会議(COP21)がパリで30日から始まる。新しいカナダが戻ってくる。

石塚嘉一 トークス、シニアコンサルタント

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