トロントと日本では喫茶店も進化する

「どのゲーム喫茶店でも、分けて食べる料理は共通だが、客が選べる飲み物は店によって異なる。店にあるのは紅茶、ビール、ワイン、エスプレッソなどだ。どのゲーム喫茶店でも耳に入るのは、早口のおしゃべり、笑い声、ころがるサイコロなど、陽気な様子。さらに、スマートフォンはめったにないという点も共通している」

これはニューヨーク・タイムズ(NYT)紙の国際週刊版(2016年2月21日号)が伝える、過去2年間で特に増えた、トロントの卓上(ボード)ゲーム喫茶店の様子である。

「ボード」は「将棋盤」や「碁盤」の「盤」に相当するから、トロントで人気を博しているのは将棋にかなり似ているチェスや升目を必要としないサイコロ・ゲームである。すべてアナログだ。日本人が「ゲーム」と聞いて連想しそうなポケモン・カードなどとは異なるわけだ。

記事の見出しは「トロントで人気、卓上ゲーム」。「トロントではボード喫茶店が急激に増えている。トロント地域での大衆文化を伝えるブログTOは、2年前に人気上位20店を発表したが、それ以後もブログを書く人々は新しい店についてあれこれ伝えている。

いくつかの店が紹介されている。スネークス&ラッツ(蛇と横木)別館では、ヨーロッパの「カタンの開拓者」や「人間性に反するカード」などの卓上ゲームの販売もやっている。

スネークス&ラッツ大学は近くのリトル・イタリアにある、広さ700平方メートルを誇る喫茶店で、飲み物はワインが16種で樽入り地ビールもある。バムポット・ボヘミアン卓上ゲーム喫茶店では、アルコール飲料を置いてない。

しかし、これはトロントに限られた流行りではなかろうか。

一方、日本の環境省は、猫喫茶店の規制を夏前には緩めようとしている。猫喫茶店とは、文字通り、客が猫とたわむれる店。これらの店は午後8時までの営業を認められてきたが、これを午後10時まで延長するというのが規制緩和の内容だ。なぜ午後8時までだったのか。ペットショップの営業が8時までだという簡単な理由だ。

緩和前後で変わらないのは、猫が十分に動きまわれるスペースを確保しなければならないという条件だ。

環境省の規制緩和を決めるまでの経緯は科学的だった。実験により、午後8時と午後10時まで勤務した猫のストレスを調べてみたら、両群に差はなかったという。

日本にある猫喫茶店は約300店。

猫に限らずペットの喫茶店内への立ち入りを許すだけでなく商売に利用するという日本の現状は、文献を見る限り、日本独自である。

猫はずっと自国産だったと思いがちだが、実は他のものと同様に朝鮮・中国から古代に日本にやってきた。

猫は、歴史家によると、10世紀くらいまでは珍しく、珍重されてきたそうだ。日本の家庭で普通のペットになるまでに、それ以後、さらに約2世紀を要したという。

日本に進出してきたカナダの喫茶店もある。バンクーバーを拠点とするブレンズ(Blenz)コーヒーで、1992年の創立以来、100%アラビカ豆を売り物にし、ブリティッシュ・コロンビア州が主だが、フィリピンにも進出し、東京では3店を開いている。

話をトロントに戻そう。NYTによると「タイ、南アフリカ、英国、インド、メキシコの起業家が、トロントに電話をよこしたり訪れたりしている。どう経営すれば非デジタルで完全にアナログの卓上(ボード)ゲームで楽しませる店が成り立つのか知りたがっているのだ。」

 

潮 昭太(東京在住フリーランス記者)

カナダで大規模な二酸化炭素回収・貯留設備が商業運転に

地球温暖化に関する良い大ニュースといえば、2015年12月のパリ協定だった。温暖化を摂氏1.5度以内に抑えようという合意だ。世界中の196カ国・地域が参加した。

このような野心的な目標が、唯一の手段によって達成できるとは誰も考えないであろう。発電所などでの化石燃料、特に石炭の消費を減らすという方法は、多くの人が思いつきそうだ。また、消費者に省エネをすすめてください、と政府はずっと依頼し続けている。

原子力発電は二酸化炭素(CO2)を発生しないという特徴を有しているが、支持する人は日本では少数派だ。

日本の政府のなかには、発光ダイオード(LED)がCO2削減に貢献すると考える官庁もある。日本の目標は2030年度までに2013年度比で26%の削減となっている。

CO2回収・貯留(CCS)計画が大きなニュースになっていたことを思い出す人もあるだろう。これらのプロジェクトは死に絶えたのだろうか。とんでもない。電力・石油などCO2に関係する業界の長期企画担当者は計画進展に注目している。

シェルの2015年末の発表によると、カナダ・アルバータ州のクエストCCS計画は、商業運転の段階に入った。計画では年間、100万トン以上のCO2を回収することになっている。CO2をシェルの精油所(改質所)から65キロ離れた貯油施設まで運び、地下2,000メートルの岩層に貯蔵する。

シェル・シェブロン・カナダのマラソン社が参加しており、アルバータ州政府が7億4,500万カナダドル、連邦政府が1億2,000万カナダドルを負担する。

日本政府もCCS計画を進めている。ただし、規模は小さい。

資源エネルギー庁が組織した検討委員会は、日本CCS社が実施した実証調査の結果を2016年2月に承認した。これは2016年度以降に、北海道苫小牧の沿岸部で年間10万トン以上のCO2を貯蔵する計画の実現につながる。

CCSだけではCO2問題を解決することにはなりそうもない、と地球環境産業技術研究機構の茅陽一・理事長は説明する。もしも、世界の化石燃料使用が大幅に減って、CO2全体の10%程度しか排出しないことになっても、全量をCCSによって処理しようとすると、アルバータ級の施設3,000か所を要するという。

環境省は日本の照明すべてをLED電球に取り換えたら、温暖化ガスの排出を年間に1,100万トン以上減らせると試算している。目標は2030年度だ。

 

潮 昭太(東京在住フリーランス記者)

トルドー首相、カナダ首相として19年ぶりのワシントン公式訪問。オバマ大統領の熱烈な歓迎で、対米関係を強化

ジャスティン・トルドー首相は3月9~11日の3日間、ワシントンを公式訪問、オバマ大統領の友情あふれる温かい歓迎を受けた。カナダの首相を大統領の賓客とした、19年ぶりにホワイトハウスで催された華やかな晩餐会は、トルドー首相の就任直後の国際首脳会議で意気投合した二人の首脳の友好関係がさらに強固なものになることを確認するものになった。

オバマ大統領のトルドー首相への期待と惚れ込みようは尋常ではない。今回の公式訪問が始まる前から、ホワイトハウスのスポークスマンは、進歩的でリベラルな価値観、多国間関係や多様性を重要視し、地球温暖化に取り組む決意を共有する二人の間には「特別な関係」ができつつあると記者たちに語っていた。

大統領の執務室で行われた首脳会談では、二人は二酸化炭素より温室効果のはるかに強いメタンガスの排出を大幅に削減し、北極の海の環境保護のため規制を強化、両国の国境を通る人と物の往来をより活発にすることなどで合意。一方、難題のカナダ産ソフトウッドの木材の対米輸出の問題では、100日以内に合意を目指すとして深入りせず、オバマ大統領と前任者ハーパー首相との関係をこじらせていたカナダからの石油パイプラインの問題は、トルドー首相が初めから持ち出す気がないのだから、これでは番狂わせは起こりそうにない。

だから、トルドー首相の訪米は、初めから二人の強い個人的関係を両国の国民に、そして世界にアピールするものになるはずだった。

首脳会談から出てきたオバマ大統領は、記者団を前に、トルドー首相の進歩的な政治の課題や目標がいかに素晴らしいかをほめ称え、自分の気候変動と社会正義に関するリベラルの遺産を引き継ぐのはトルドー首相が最適だと、世界に向けて、自分の後継者に指名した形だと、カナダの全国紙「グローブ・アンド・メール」は述べている。(3月10日)

「彼は希望と変革のメッセージを掲げて選挙を戦った。彼の前向きで楽観的なビジョンは若者たちを元気づけた」とオバマ大統領は記者たちに言った。そこには8年前、希望と変革と若さを体現して大統領選を戦った自分の姿を見ていたのだ。トルドー首相とソフィー・グレゴワール夫人と、8歳と7歳と2歳の3人の小さな子供たちがワシントンに到着するのを熱烈に歓迎したアメリカ国民の多くも、8年前のオバマ大統領のイメージを見ていたのだ。「ニューヨーク・タイムズ」と「ボーグ」誌は好意的な特集を訪問前に組んだし、CBSの人気番組「60ミニッツ」では日曜日の何百万人もの視聴者にトルドー首相のプロフィールやインタビューを紹介していて、米国のマスコミの歓迎ぶりがよくわかる。

朝の歓迎式典でも、大統領は、「首相は、選挙中や首相就任後の2、3か月の間に、私たち両国の関係にも、新しいエネルギーとダイナミズムを吹き込んでくれた」とトルドー首相が、選挙中から米国との関係強化を公約し、就任するやパリの気候変動会議で米国の温室効果ガス削減案と歩調を合わせて会議をリード、米加関係を短期間で大きく改善するのに貢献したことを称えた。

それに対して、トルドー首相はこう応じている。

「(政治や選挙のことで)オバマ大統領から多くを学んだ。そして、これから政治の世界で、国際政治の舞台で、私が遭遇するだろう多くの問題を乗り越えてきたオバマ大統領をこれからも頼りにすることができると思うと、心強い」。そして晩餐会では、米国とカナダの関係は、友人以上だ、と語り、ホワイトハウスでの歓待の返礼としてオバマ大統領がこの夏、米、加、メキシコ3か国の北米首脳会議がカナダで開催されるとき、オバマ大統領にオタワの議会で演説するよう招待した。米国大統領としては21年ぶりのカナダ議会での演説になる。

年齢では10歳しか年上でしかないのだが、あと10か月で2期8年の大統領から退任する「レイムダック」のオバマ大統領と、昨年10月の選挙で圧勝、11月に首相に就任したばかりの44歳の首相とでは、まるで、オバマ大統領に政治のメンター(師匠)として教えを乞うプロティジェ(弟子)の新米首相との関係のようだと、カナダの新聞は伝えている。

これを見て、カナダの新聞だけでなく、あの「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」、「USAトゥデー」など米国の大新聞までもが「ブロマンス」という言葉を使ってオバマ大統領とトルドー首相の親密ぶりを伝えたほど、オバマ大統領は胸襟を開き、首脳会談後の記者会見でも、公式晩餐会のスピーチでも互いを称え合い、冗談を言い合い、笑顔を絶やさなかった。トルドー首相をホワイトハウスに迎えて、心を許せる友人が来てくれて嬉しくてたまらない、という風情であった。(ブロマンスとは、男の熱い友情とか男が互いを好き合っている感情をいう言葉だ。Brother とRomanceを組み合わせた単語だといわれる。)

任期もあと1年を切って、環境でレガシーを残したいオバマ大統領にとって、トルドー首相は、気候変動のチャンピオンとして自分が引退した後も、世界で気候変動のリーダーを務めてくれると期待しているのだ。ホワイトハウスの歓待は気候変動問題のリーダーの後継者の世界へのお披露目だったのだというカナダのコラムニストもいる。

オバマ大統領が、環境問題だけでなく、トルドー首相のリベラルな政策、移民や難民を歓迎する多文化主義を称えるとき、大統領には、国内で自分の後任を選ぶ選挙運動で起こっていること ― 移民や難民の受け入れを拒否し、女性蔑視の発言を繰り返すドナルド・トランプが共和党の大統領候補指名争いで多くの支持を得ていること ― に対して強いメッセージを送るという、もう一つの目的があるのは誰の目にも明らかだ。

(トランプが大統領候補になったら、あるいは大統領に当選したら、カナダに移住するという米国人が増えていて、移住の手続きを調べるインターネットのサーチが300%増えたという冗談とも言えない報道もある。)

1969年に当時のニクソン大統領のホワイトハウス公式晩餐会と1977年カーター大統領の晩餐会と2度もホワイトハウスで晩餐会のもてなしを受けた父親のピエール・トルドー首相と同じホワイトハウスのイーストルームで晩餐会に臨んで、ジャスティンはどんなことを思っていただろうか。この日の晩餐会には、1977年の晩餐会に夫トルドー首相とその場にいたジャスティンの母親マーガレットも出席していて、オバマ大統領から紹介されている。父親が母親と並んで立って手を振ったホワイトハウスのバルコニーから、息子のジャスティン・トルドー首相は、ソフィー・グレゴワール夫人と一緒に、オバマ大統領夫妻と並んで、手を振った。晩餐会で、オバマ大統領は、44年前、オタワを訪問したニクソン大統領が、将来のカナダのリーダーのために、と生まれて4ヶ月にしかならないジャスティンのために乾杯してくれたことを、紹介した。

 

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

カナダのサイクロトロン加速器は放射性同位元素生産の王様

福島第一原発の事故から早くも5年が経過した。同原発から放出された膨大な量の放射能はベクレルの単位で計測された。

しかし、原子力は発電のためにだけ使われるものではない。

科学者と技術者は放射性同位元素(RI)をがんの放射線治療・医療研究・材料開発など多様な目的のために応用することを可能にした。

カナダはRI生産でずっとトップ級だった。その地位を象徴する機械がバンクーバーに近い場所にある。その機械とは、ブリティッシュ・コロンビア大学内で活動するトライアンフ国立研究所の520メガ電子ボルト(MeV)もの主要サイクロトロンだ。

機械の活動40周年を記念する式典には、連邦政府のキルスティ・ダンカン科学大臣などが集まった。機械の生みの親は現在の連邦政府トップの父親、故ピエール・トリュドー氏だった。運転開始は1976年2月9日だったとオンライン通信のワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)が伝えている。

大臣はトライアンフを粒子・原子物理学、分子・材料科学、核燃料などの専門家を引き寄せる「メッカ」だと呼んだ。

日本原子力研究開発機構(JAEA)の前身が、熱出力50メガワットの材料試験炉(JMTR)を1968年に茨城県大洗で起動させた背景には、医療診断用のRI、モリブデン90を国産化したいなどという背景があった。トライアンフ関係者は最近、モリブデン100を照射してテクネチウム99mの生産に成功しているとWNNは報じた。医療用RIのうち80%はテクネチウム99mになったともいう。

日本のイオン照射施設にはJAEAが群馬県高崎市で運営する高崎高度放射線開発イオン加速器(TIARA)もある。4つの機械によって構成される施設で、内訳は70MeVのサイクロトロン、2種の加速器、イオン注入設備である。

国会はJAEAのTIARAなどの機械と放射線医学総合研究所の医学資産を組み合わせて、量子科学技術研究開発機構を4月1日に発足させる政府の計画を承認している。目標とする課題には重粒子線によるがん治療や核融合などがある。

「量子ビーム」は多種多様である。ミュオン、中性子、陽子、電子、イオン、中間子、放射、光量子など。供給源も加速器、高出力レーザー、研究炉と多様だ。

日本で圧倒的に研究に使われるRIはコバルト60で、モリブデン99やテクネチウム99mは少量に留まっていると政府が発表したことがある。

これらRIの量もベクレルで表わされる。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

英語圏の留学生獲得競争でカナダは優位に立ちそうだ

日本政府は1964年に外国為替管理を緩めて、留学志望の学生のために、たとえば円の米ドルへの換金額を無制限にした。当時の日本人留学生は卒業後の帰国を当然のことと考えていた。

時は移って2016年。カナダで学ぶ、特に中国とインドの留学生は、永久滞在ビザを獲得するケースが増えている、とエコノミスト「紙」(実際にはどう見ても週刊「誌」の2016年1月30日号)が伝えている。英語圏の主要4カ国で学ぶ留学生の多くが卒業後も滞在し仕事を得たいと願っている。この観点から、カナダとオーストラリアはより多くの留学生を迎え、アメリカとイギリスは競争に負けそうだ、とエコノミスト紙は予測する。

4カ国のうち、カナダに滞在する留学生は2013年現在で最小の19万5,000人だが、学生全体に占める比率は10%と比較的高率だった。アメリカは2014年現在、97万5,000人と最大数の留学生を誇っているが、全在籍者の比率は5%と4か国のうち最低だった。

イギリスは日本の皇室に人気がある留学先だが、31万2,000人の留学生を受け入れていた。比率は15%弱。オーストラリアはエコノミスト紙によれば教育を「第2位の輸出産業」と見なしており、鉱山業に続く有望業種だという。同国には2014年現在、34万8,000人の留学生が在籍しており、25%という高い比率を保っていた。

カナダ政府は、大学の財政状態を向上させるのに、自国の学生よりも高額の授業料を払ってくれる外国人学生数を増やすのが有効な策だ、と約10年前に判断した。

アメリカ政府は2001年9月の同時多発テロ事件以来、ビザ発給の規則を厳しくしたのに対し、カナダは外国人卒業生を「立派な資格のある貴重な若年労働者」と見なしている。新卒の留学生が職を得さえすれば、自動的に3年間の滞在を許している。

日本はどうか。政府は在日留学生を2020年までに30万人に増やす目標を掲げている。今のイギリスに近い数字である。

日本にいる留学生は2014年5月1日現在で18万4,155人だった、と文部科学省が2015年2月に発表した。中国からの留学生が9万4,399人、ベトナムから2万6,439人、韓国から1万5,777人だった。

海外で学ぶ日本人学生は2012年現在、6万138人で、主な留学先は中国が2万1,126人、アメリカが1万9,568人、イギリスが3,633人だった。エコノミストは「英語は習得に値するもっとも役に立つ言語」だと言うが、かなり多数の日本人学生が中国語を学ぼうとしている様子が、上記の数字から判断できる。

1960年代半ばにアメリカ西部のオレゴン大学にいた日本人学生は数十人程度。2人か3人の例外はあるが、大半は学位を得ても得なくても当たり前のように帰国した。例外組の1人は、同大学で日本語・文学を学んだアメリカ人女性と結婚し、残留したけれども後に離婚された。

 

潮 昭太(東京在住フリーランス記者)

気候変動でカナダ先住民の魚の漁獲量が半分になる

気候変動の影響でカナダ沿岸地域にすむ先住民が1,000年以上にわたって伝統的な食料としてきたサケやニシンなどの漁獲量が2050年までに半減するだろうと警告する最新の研究が先月発表された。

この研究はブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の研究チームが行ったもので、地球温暖化がこのまま進むとブリティッシュ・コロンビア州沿岸の水温が上がり、同地域に居住する先住民(ファーストネーションズ)が主食としてきただけでなく、さまざまの伝統的な儀式や商取引に使ってきたサケやニシンなどが、他の多くの魚介類と一緒に、水温の低い北の水域に移動するため、彼らの漁獲量の半分が2050年までに失われてしまうとしている。(「ワシントン・ポスト」1月13日)

生息地の環境の変化によって、そこで獲れる魚の種類が変わり、カナダの先住民の伝統的な食事や儀式に使われてきた魚類が獲れなくなれば、彼らの生活だけでなく、先住民が何千年も守ってきた伝統やライフスタイルを維持するのが困難になるし、先住民の多くは漁をする魚類が北に場所を変えるからといって、それを追いかけて居住地域を変えることはしないので、これは大きな問題なのだと調査チームは述べている。

「これは何千年にわたってこれらの魚や貝などを漁獲してきた先住民のコミュニティに大きな影響をもたらすでしょう」と同大学院生としてこの調査を行ったローレン・ウエザードンさんは、その文化的、経済的、栄養学的インパクトの大きさを説明している。そうなれば、低く見積もっても、ブリティッシュ・コロンビア沿岸地域の先住民は2050年には年間670万から1,200万カナダドルの損失を被るだろうと見積もっている。気候変動が大規模漁業に与える影響についての調査は数多くあるが、このような先住民社会での漁業への影響を調査したものは極めて少ない。この研究は日本財団の資金援助で実施された。(「サイエンス・デイリー」1月13日)

今回の研究は、カナダの617の先住民部族の中から、太平洋岸地域にいる78のファーストネーションズ(First Nations)と呼ばれる先住民のうちの16の部族が居住する地域に焦点を当てて行ったもの。ファーストネーションズは、米国で現在はネイティブ・アメリカン(Native Americans)と呼ばれ、かつてはインディアンと呼ばれていた民族で欧州から白人が来て土地を奪う何千年も前から住んでいた人たちだ。カナダ政府のサイトによると、現在カナダでインディアンと登録されているのは約54万人、カナダ国民の1.8%である。彼らのうち、約55%が、彼らのために確保された「保留地」と呼ばれる特定地域に住んでいる。

UBCの研究チームは調査にあたって、対象地域の先住民にとって文化的、経済的に重要な98種の魚や貝に気候変動がどのような影響を与えるかを調べ、生息場所の水温や水中酸素のレベルなどがそれら魚介類の生息に適切かどうかなどを検査した。その結果、これらの魚介類は水温の上昇に対応して、現在の生息地・漁場となっている水域を離れ、より水温の低い海域を求めて北に移動して行くことが分かった。この移動のペースは、水温の上昇が0.5℃から1℃の間で、10年間に10.3キロから18キロと見積もられている。(「サイエンス・デイリー」1月13日)

このような漁獲量の減少は、カナダ西海岸地域の先住民居住区域に住むすべてのファーストネーションズに影響を与えるもので、彼らのサケの漁獲量は最高29%減るものとみられ、ニシンにいたっては49%も減少すると見積もられている。2001年から2010年の間にこれらの漁獲から先住民が得た収入は2,800万ドルから3,600万ドルにのぼったとみられるが、今後の気候変動、温暖化の進み具合によってはこの収入が最高90%まで落ち込む可能性があるという見方もある。

昨年、太平洋や米ワシントン州のピュージェット湾とブリティッシュ・コロンビアのコロンビア川の間を移動する間に25万尾のサケが水温の上昇のために罹った病気のために死んだといわれる。25万尾とは春の産卵でカナディアン・ロッキーに源を発するコロンビア川を遡上するサケの数の半分以上なのだ。昨年7月にコロンビア川流域の水温が、サケに適切な15.5℃よりも7.2度も高かったと、米オレゴン州で流域にいるネイティブアメリカン(アメリカン・インディアン)のためにこの川でのサケ漁を管理している団体が警告を出している。

このように地球温暖化はカナダでもさまざまの影響をもたらしていることが報じられているが、温暖化でとけだした氷河によって居住地域の移動にまで追い込まれる先住民のケースなども伝えられている。気候変動の影響を最も大きく受けるのがカナダではこれら先住民のようだ。

 

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

ウナギに関心を寄せるのは日本人だけか

ウナギは古くから栄養のある、あるいは薬効さえある食べ物だと考えられ、猛暑の時期に食べることが何世紀も続いた。日本人は、おそらくボルネオ島に近い海で1億年前に出現したとされるウナギを食べ研究するのが、日本人だけだと考えるかもしれない。
それは誤りである。

アリストテレス(紀元前384-322年)は、ウナギについて熟考した後、「地球の内臓から自然発生する、性別のない生物」だと考えた、とニューヨーク・タイムズ(NYT)国際週刊版(12月 27日号)は伝える。

我々は、この古代ギリシアの哲学者・科学者よりも、ウナギに関しては多くの情報を持っているから、東太平洋・南大西洋以外のどんな海域でも見かける魚だと分る。日本ウナギ(学名はアングイラ・ジャポニカ)はかつて沖縄か台湾沖で産卵すると考えられていたが、今ではグアム島から遠くないマリアナ海溝の西部だという説が有力であることを知っている。

しかし、ウナギは今でも謎の動物である。生涯に一度だけ産卵するという説が有力のようだが、複数産卵説もある。

カナダ水産海洋省の研究担当科学者、デヴィド・ケアンズのおかげで「少なくとも一つの謎は解明に向けて一歩前進した」とNYTは報じた。「アメリカ・ウナギは成長した時期(3-20年間)をグリーンランドからヴェネズエラまでの広い地域にある川や河口で過ごしているが、生殖するのはサルガッソ海だけだという共通点を有している」。これはフロリダ州沖(東)の海である。

ケアンズと同僚は、ウナギに適応できる道具、小型軽量で海洋衛星によって追跡できるタグを開発した。

「2012年から2014年にかけて、研究者達は、衛星につながるタグを付けたウナギを38匹カナダ・ノヴァスコシアの海岸から放流した。データを得られたのは28匹分だったけれども、1匹からは2,400キロに及ぶ旅の経路を証明する成果が得られた。このウナギはノヴァスコシアから東に向けて動き、ニューファンドランド州沖の大陸棚に達すると、急角度で右(南)側に転じ、米国の海岸から東に向けて流れる湾流を横切って、サルガッソ海に直行した」とNYTは伝えている。

このウナギの場合「(2,400キロの)マラソン完走に、わずか45日しか要しなかった」とNYTは言う。

同紙はまたケベック州にあるラヴァル大学のジュリアン・ドドソンのコメントを載せている。「私は魚類の移動を40年間以上研究してきたが、このような軌跡を見るのは初めてだ」。

8月になったら、高価になったウナギを丸ごと、あるいは半身を食べながら、ウナギの長い航海に思いを馳せてみるというのはどうであろうか。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

カナダでいよいよ「安楽死」が実施されるか?

カナダの最高裁判所が医師のほう助による自殺(physician-assisted suicide またはdeath/dying)つまり、安楽死を合法として認める判決を下すとともに、連邦政府と州政府に、12か月以内に判決に基づいた法制化をするように命じたのが、1年前の2月6日だった。法制化までの1年間はそのような合法的な安楽死の実施は停止されてきた。

一年前、最高裁は、その画期的判決で、「(死ぬことに)同意した成人で、耐えられない肉体的または精神的苦痛に苦しんでいる人が医師の助けを得て自らの命を終わらせる権利」を認めた。

その期日が1か月足らずに迫った先月15日、最高裁は、法制化を6か月延長し、その間は安楽死も認めないという連邦政府の要請に応えて4か月延長を認めたが、同時に、法制化まで停止していた昨年の合法の判決をこの日から直ちに条件付きながらカナダ全国に適用する決定を下した。1年間安楽死の合法化を待ち続けてきた、不治の病やひどい苦しみに耐えている人たちのことを考慮したのであろう。

4か月延長の根拠は、昨年8月に当時の保守党政権下、ハーパー首相が11週間も大幅に前倒しして下院を解散してから、10月19日の投票を経てトルドー首相の下、新しい自由党政権が成立した11月4日まで議会が停止していた間、安楽死の法制化作業が遅れていた分を考慮したというものだ。

法制化を検討する議会の委員会には、先に発表された5人の上院議員に加えて11人の下院議員が新たに選ばれて、自由党政権になって初めて委員会が先月行われた。自由党6人、保守党3人、新民主党2人。最高裁の判決にどう答えるのか、安楽死を実際に選択して死を選ばないといけない弱者のことや、どのような理由にしろ、人の命を終わらせることが宗教的に、または個人の良心として受け入れられない医師たちにどう配慮するか、など法制化までに解決しなければならない問題は多くて重い。それを考えると4か月どころか6か月あっても十分ではない。

しかし、カナダ国民は圧倒的に安楽死の合法化に賛成のようだ。バンクーバーの市場調査・世論調査会社インサイツ・ウエストがカナダの1,035人に聞いた調査では、何と回答者の79%もが昨年の最高裁の判決を「強力に」あるいは「控えめに」支持すると答えている。同社は、判断力があり、命を絶つことに明確に同意する成人から安楽死を施す要請があった場合、そしてその人が、医学的に重篤且つ回復不能な状態にあって、それが長期に続く苦しみをその人にもたらす場合、あなたは「医師のほう助による自殺」に賛成するか反対するかを調査で問いかけたのである。わずか15%が反対と答え、6%はわからない、と答えた。

州別に見ても、あまり大差がなくて、ブリティッシュ・コロンビアが賛成90%で最も支持が高く、ケベック(83%)、アルバータ(82%)、アトランティック・カナダ(ニュー・ブランズウィック、プリンス・エドワード・アイランド、ノバ・スコシア、ニューファウンドランド・ラブラドルの4州、74%)、オンタリオ(72%)、マニトバおよびサスカッチュワン(68%)と続いている。(「ハフィントンポスト・カナダ」12月4日)

先月15日の最高裁の判断で大事なことは、4か月の法制化期限延期と同時に、昨年クリスマス前に、末期患者が医師の助けを借りて死を選ぶ権利を認めるとしたケベック州の法律が同州の控訴裁判所(州の最高裁)によって支持されて、医師のほう助による安楽死が合法となったことを、最高裁が追認、支持したことだ。これは同州議会によって2014年6月に制定された「死を選ぶ権利」の法律が一度同州高等裁判所で違法とされてから、控訴裁判所で合法とされ、昨年12月10日から効力をもっていたものだ。

好むと好まざるにかかわらず、大きな流れはできつつあるようだ。このケベック州の尊厳死法が最終的に認められた直後、オタワ政府のジョディー・ウィルソン=レイボールド法務大臣は、連邦政府もケベック州の先例に倣って、カナダ全体に適用できる安楽死の法制化を進めるという声明を出している。政治的にも、安楽死にあまり熱心でない保守党から、自由党に政権が替わったこともある。

さらにCBCニュースは、同15日にケベック市の末期患者が医師の助けを得て死を選んだことを報じた。カナダで最初の合法的な医師のほう助による安楽死のケースとなった。(「CBCニュース」1月15日)

カナダの全国紙「グローブ・アンド・メール」は、最高裁の判決を受けて早く安楽死を認める法制化を進めよ、と社説で連邦政府を叱咤激励している。カナダも安楽死を認めれば、末期患者が米国のいくつかの州やスイスのような合法的な安楽死をできる場所を求めて移住する「エンドオブライフ・ケア(終末期医療・介護)ショッピング」に終止符を打つことができると述べている。(1月18日)

一年前の9-0の全員一致の最高裁判決は、「刑法が定めた(医師のほう助による自殺の)全面的禁止は、弱者の命を保護するためという理由で、重篤且つ医学的に回復不能な状態に苦しんでいる、判断力があり(命を終わらせることに)同意した成人が、いかに生きあるいは死ぬかという重大な決定をすることを阻止しており、行き過ぎであった。(これは)憲法が規定する『生命、自由および身体の安全の権利』の3つの基本的人権に対する侵害であり、自由で民主的な社会において正当化できない」と断じた。この裁判は、脊柱管狭窄症を患ったキャサリン・カーターさん(86歳、2010年スイスで安楽死)の遺族とALS(筋委縮性側索硬化症)を患ったグロリア・テイラーさん(64歳、2012年病死)の遺族が提訴していたため、「カーター対カナダ」のケースと呼ばれている。

末期患者など人生の終末期にある人々が自分の意志で、医師の助けを借りて、死を早めることは、当初「医師のほう助による自殺」と呼ばれてきたが、最近は自殺という言葉の否定的な意味合いを避けて、「医師のほう助による死」という方がより多く使われている。尊厳死(death with dignity)という言葉を好む人たちが世界にいて、カナダにもDying With Dignity Canadaという全国組織がある。日本にも尊厳死協会がある。

これで、カナダも近い将来、スイスやオランダ、ベルギー、ルクセンブルグなどの欧州諸国、米国オレゴン、ワシントン、モンタナ、バーモント、ニューメキシコ、カリフォルニアの各州の仲間入りをすることになるのだろう。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

「黒いダイヤ」と称された石炭は今や主要なエネルギー市場で後退

オンタリオ州政府は石炭火力発電を段階的に廃止する意向である、と日本の電気事業連合会(以下FEPC)は昨年12月22日に公表した。FEPCによると、この方針の一環として、2014年までに停止した石炭火力発電所の再稼働を認めないとする法案が11月25日、議会に上程された。

石炭は数十年前には「黒いダイヤ」と呼ばれ、持てはやされた。特に1469年に日本で初めて石炭が見つけられたとされる九州・三池地方では、その現象は顕著だった。炭鉱所有者は大金持ちとなり、戦後の奇跡的な経済復興の原動力の一つともなった。

しかし、国内での年間生産量は2014年には130万トンに減った、と日本石炭エネルギー・センターは発表している。ピークは1940年の5,630万トンだった。

資源エネルギー庁は、石炭を液化天然ガス(LNG)、原子力、代替可能エネルギー(特に風力と太陽光)とともに重要な電力用資源としている。

同庁の昨年3月の発表によると、日本の石炭火力発電は平均して40%以上の熱効率を誇り、40%以下のドイツなど経済先進国を引き離している。ちなみに日本は1995年にはちょうど40%だった。

熱効率が高いほど、燃料の消費を減らすことが可能になる。日本の原子力発電では熱効率は30%程度である。

FEPCの昨年12月の発表によると、会員会社がこの年に稼働開始したのは水力発電所1基とLNG火力発電所1基だけだった。東北電力が稼働開始した仙台市内の新仙台火力発電所は、LNGを燃料とする49万キロワットの規模で、熱効率は60%を超えると発表している。コンバインド・サイクル方式により、主タービンから出る排ガスで蒸気タービン3基を運転させて高い熱効率を得るのが特徴だ。

オンタリオ州はカナダの原子力発電の中心地であり水力発電も可能だから、石炭火力発電を廃止するという方針は妥当であろう。FEPCによると、州政府は700万台の車両を道路から無くするのと同等の効果を持ち、北米で最大の温室効果ガス削減計画であると説明している。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

13年ぶりのカナダドル安で対応を迫られるトルドー政権

読者の中で、いきなり「ルーニー」(the loonie)と言われてわかる人は、カナダのことに詳しいか、実際にカナダに行ったこと、住んだことがある人に違いない。この「ルーニー」(loonie)はカナダの1ドル硬貨の裏に水鳥ルーン(loon アビ)が描かれていることから、1ドル硬貨をさして、さらにはカナダドルのことを「ルーニー」という。ついでに、2ドル硬貨はシロクマが描いてあるが、「トゥーニー」(toonie)という(ルーニーx2)。

この「ルーン」はもう少し厳密に言うと、Common Loon (ハシグロアビ)という頭からくちばしにかけて黒い、カイツブリのような水潜り鳥(diving bird)で、カナダには広く分布しているのでカナダの国鳥と思われてきたが、公式に国鳥に指定されたわけではない。来年のカナダ建国150年にあわせて正式にカナダの国鳥を選ぼうと、今ウェブサイトで投票する「国鳥プロジェクト」(National Bird Project)が行われている。ブログ執筆の時点でCommon Loon が大きく他の鳥を引き離している。

マクラが長すぎたが、新年早々カナダの新聞をにぎわしたのはこの「ルーニー」の連日の下落を伝える見出しの数々。「ルーニー下落で、対応を迫られるカナダ政府」(”As loonie sags, pressure mounts on Ottawa to act” – Toronto Star, Jan. 13, 2016) とか、「ルーニー13年来の安値で、株式市場も大幅下落」(”Stock markets tumble as loonie falls to new 13-year low” – CBC News, Jan. 13)という具合だ。

そのルーニーが、年明け4日から4日連続で、年末から数えると8日連続で安値を更新し続け、翌週の取引では、対米ドル69.71セントと13年ぶりに70セントを切る安値になった。これは2003年4月30日以来の安値。1カナダドルで、わずか70セント足らずの物あるいはサービスしか買えない、それだけの価値しかないということ。(「トロント・スター」1月13日)

カナダドルの下落は、カナダ経済を支えてきた最大の輸出商品、原油の価格が世界的な原油安につれて下がり続け、1月13日にはついに1バレル30.48ドルと12年ぶりの安値にまで落ち込んだことが何よりましての原因だといわれる。(「CBCニュース」1月13日)原油価格はこのブログ執筆の時点では、29米ドルまで落ち込んで、止まるところを知らない。カナダ経済では、天然資源がGDP国民総生産の20%を占め、その半分は石油、そして総輸出の半分が資源輸出である。だから資源の輸出価格の下落はカナダ経済に大きなインパクトがあるのは言うまでもない。その上に、今、日本や世界の市場を襲っている中国発の株価暴落、金融不安がさらに市場の不安を煽ってカナダの株価も急落している。

この異常事態を受けて民間のエコノミストたちは新政権が作成中の2016年度予算(4月から新年度)に、景気刺激策として約束した以上の規模の赤字支出の予算を組んで対応すべきだと呼びかけている。

トルドー首相もすでに、今年の予算で、選挙で公約した赤字支出の上限年間100億ドルを超える規模の予算を組むことを明らかにしているが、どれほどの規模になるかについては明らかにされていない。昨秋の選挙中、自由党は、石油価格の下落で低迷している経済を回復させるのに、保守党の緊縮財政ではなく、3年間で250億カナダドルの緩やかな財政赤字を容認して、合わせて今後10年間で600億ドルの資金をインフラ投資にあて、古くなって危なくなった道路や橋、公共の建物などインフラ整備を進める公共投資でカナダの景気を立て直すと公約している。

カナダの大手銀行CIBCワールド・マーケッツのチーフエコノミスト、アバリー・シェンフェルド氏は赤字支出を100億ドルなどと言わず300億ドルまで増やして財政による景気刺激をすべきだと主張する。300億ドルの赤字支出で経済成長を0.5ポイント押し上げることができるという。300億ドルほどの規模でなくとも、100億ドルを超える赤字財政支出を求めるエコノミストは多い。

4月からの予算を前に政府が考えているのが、今後10年間で600億ドルのインフラ整備投資支出のスピードアップ、前倒しだ。特にこの石油価格の下落とカナダドル安によって落ち込んだ経済を刺激してテコ入れするには、長期的なイノベーションや競争力強化よりも、今は、短期的に効果の出る公共事業でてっとり早く経済に現金を供給して雇用を増やすことが必要だとみている。中でも、公共輸送機関や公共住宅などのインフラ整備、大規模商業ビルや個人住宅の省エネ対策が考えられている。(「グローブ・アンド・メール」1月14日)

選挙期間中の10年間に600億ドルのインフラ投資の公約では、最初の4年間にその半分以下、174億ドルしか支出されないことになっていたのを、もっと前倒ししようというのだ。

1月18日には、カナダ地方自治体連盟が行った調査で全国市町村の道路、橋、公共輸送機関、公共の建物などのインフラの状態は、全国市町村の3分の1で「急速な劣化」の危機にあるという結果が出たことがタイミングよく発表になった。地方自治体のインフラの大半が「重大な岐路」に立っていて、40%の輸送機関が早急な補修を必要としていると、この調査は述べている。(「トロント・スター」1月18日)

昨年4月に保守党政権が提出した国家予算では、2015年の経済成長を2%、2016年の成長を2.2%と予測していた。政権交代直後の11月に自由党政府は民間業界の見通しに基づいて2015年の成長率を1.2%、2016年を2%に下方修正したが、民間のエコノミストたちは2016年の経済成長がさらに落ち込むと予測している。(「グローブ・アンド・メール」1月14日)

しかし、カナダのマスコミや経済界は、ルーニー下落のマイナス面ばかりを騒いでいる感じだが、オンタリオ州を中心にした製造業、輸出業にもたらすルーニー安の恩恵については、まだあまり言及されていないようだ。ルーニー安で、カナダ製品の輸出競争力は高まり、さらに進めば自動車などは低コストのメキシコなどのメーカーと輸出競争、海外からの投資獲得競争に十分太刀打ちできることになるのだが、理屈通りになるのかはまだ見えない。たとえば、ルーニー安の恩恵を受けるべき輸出産業・企業も過去10年間に1万社もがなくなっている。(「トロント・スター」1月13日)

日本円はアベノミクスのもとで3年間に対米ドル20%下落した。この円安が日本の輸出企業をどれだけ潤し、日本経済を元気にしたかを考えれば、カナダドル安がカナダの製造業・輸出企業にもたらす恩恵も計り知れないと思われるのだが。

経済政策で決断を迫られるジャスティン・トルドー首相は19日、スイスのダボスで開催の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で新政権の政策を世界のリーダーたちに語るために飛び立っていった。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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