トルドー首相初めての訪日、「日本の休日」

ジャスティン・トルドー首相が就任以来初の本格的外国訪問として、先週5月26-27日伊勢志摩で行われたG7主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席のため、日本を訪問した。安倍首相との二国間首脳会談だけでなく、G7の錚々たる首脳の面々の前でのデビューになった。

7カ国の首脳の中では、一番「新米」のトルドー首相だが、サミット会場以外にも、東京や伊勢志摩の行く先々でトルドーらしさを随所に発揮した。トルドー首相夫妻の訪日を日本のメディアは好意的に写真入りで伝えていた。

他の主要国首脳に先駆けてソフィー・グレゴワール夫人とともに23日月曜日東京に着いたトルドー首相は、早速その日のうちに、日本の自動車メーカー3社、トヨタ、ホンダ、富士重工業の社長や自動車部品メーカーの首脳と会談、カナダへの投資と現在ある工場の維持拡大を呼びかけた。

中でも最大のターゲットは、北米で人気のスバルを作る富士重にあったようだ。青山にあるカナダ大使館の大使公邸に吉永泰之富士重社長を招いてカナダへの投資を要請した。吉永社長は、当面は生産能力を拡大する計画はないが、将来あるかもしれない、と実に日本的に丁重に答えた、とカナダの通信社「カナディアン・プレス」は伝えている。(「CBCニュース」5月24日)

翌日のカナダの新聞には、ホンダの本社でトルドー首相が、出迎えてくれた「アシモ」ロボットと握手する写真が大きく掲載されていた。トルドー首相はツイッターで「ホンダの外交プロトコルはユニークだ」と言って、ロボットとの出会いが気に入った様子だった。

オンタリオ州はトヨタとホンダのほかに、クライスラー、GM、フォードが生産工場を置いていて、関連の自動車部品メーカーも多数工場をもって、北米で最大級の自動車生産クラスターを形成している。ホンダは1986年にアリストンに日本の自動車メーカーで初めてカナダに製造工場を開設、その後2番目の工場、エンジン工場を増設して、北米でのベストセラー小型車「ホンダ・シビック」の海外での生産拠点となっている。昨年11月には次世代「シビック」の生産に備えて8億5700万ドルを投資することにした。

トヨタも昨年、オンタリオ州のケンブリッジとウッドストックにある両工場に4億2100万ドルを投資して次世代レクサス車の生産に備えると発表した。

しかし、これはむしろ例外的で、近年自動車の生産拠点がカナダから、ますます南に、メキシコや米国南部のよりよいビジネス環境の地域に移り、カナダは新しい自動車生産工場の投資誘致合戦に負けているという背景がある。

一方、特に北米で人気のスバルは、昨年の米国の販売台数が582,675台と、2010年から倍増、カナダでの販売台数も過去最高の46,609台と2010年から68%も伸びている。インディアナ州ラファイエットにある同社の北米唯一の工場では、年間30万台以上に増産するようにすでに生産施設拡張の投資を行ったばかりである。それでも、スバルはさらにカナダに増設の可能性が考えられる候補の自動車メーカーだとカナダのアナリストや政府関係者はみている。

今回、富士重からは、工場建設投資に何らコミットは得られなかったけれども、カナダの売り込みをできただけでまず第一歩を踏み出したみるべきだろう。トルドー首相自身、「実りが多い」会談だった、とツイートで言っている。今回の日本訪問、特に自動車業界との面談は、「関係構築のためのプロセス」の中でカナダを日本の企業にアピールするのが狙いで、具体的な成果を一夜であげることは考えていないと出発前からカナダのメディアに語っていた。

今回の訪日では、安倍首相との首脳会談やG7首脳会議もさることながら、トルドー首相にとっては日本の自動車業界幹部と会ってカナダへの投資を呼びかけるほうが、国内向けにははるかに、カナダのために仕事をしているとアピールできるのかもしれない。

翌24日の早朝、「日本への敬意を表するために」明治神宮を夫人と二人で参拝したトルドー首相は、神官に迎えられ、本殿の前で深々と頭を下げて手を合わせたあと神殿の中に案内されて、お神酒をいただき、絵馬に願い事を書いて奉納した。トルドー首相は、「カナダと日本のすばらしい友好関係が両国の、そして世界の人々に恩恵をもたらすように」と書いた。夫人は、フランス語で、「勇気、愛、光と平和」と書いて奉納した。トルドー首相を見つけたカナダからの参拝客たち数人とハグを交わして、彼らに、「素晴らしい訪問になりそうだ。深い友好関係があって、まだまだ大きくなる」と言ったと、「ナショナルポスト」(5月24日)は報じている。

皇居を訪れて天皇皇后と親しく会話を楽しんだあと、首相官邸で儀仗兵による歓迎式典に出席、安倍首相との首脳会談、公邸での公式晩さん会と、スケジュールをこなした。安倍首相とは、就任以来、半年の間に今回がもうすでに3回目の二人での会談になるが、相手国を訪問しての公式の首脳会談はもちろん初めて。(昨年11月のAPEC、今年3月の米国核セキュリティ・サミットに続く3回目)

首脳会談では、トルドー首相が選挙中から約束してきた、インフラ整備の公共投資を推進して赤字容認の財政政策でカナダ経済の成長を図るという立ち位置は、来年の消費増税を延期しさらなる積極的な財政支出で日本経済のデフレ脱却を達成しようとする安倍首相と、大いに意気投合したと思われる。一方で、安倍首相が、南シナ海、東シナ海での中国の一方的な行動がいかに地域の安定にとって脅威であるかを強調したのに対して、中国との関係が悪くなることを心配するトルドー首相は、同意しなかったと、カナダの新聞は伝えている。コラムニストのマシュー・フィッシャーは、それでも日本の対中貿易は、カナダの対中貿易よりはるかに大きいではないか、と皮肉っている。(「ナショナルポスト」5月24日)カナダが、中国のカネがほしいドイツ、フランス、イタリアと同じく、南シナ海での中国の横暴に強く出られないでいるのを、米国と日本は懸念している、とフィッシャーは、同紙5月27日付紙面でも指摘している。それでも、ウォータルー大学の専門家の見方を引用して、トルドー首相は日米の強硬路線に「なんとか協力しようとしているようだ」とフィッシャーは言う。帰国後カナダの姿勢がどう変わるのか変わらないのか。

ここまでは、初めて日本を訪れた他の外国の首脳とそう変わらないが、そのあとの行動には、やはり、父親ピーエル・エリオット・トルドー首相の伝統に恥じない、ジャスティン・トルドーらしいものがみられた。

特に、翌日(25日)は、トルドーらしい「日本の休日」だった。一切の会合も仕事も入れないで、日本の伝統的な旅館に滞在し、夫妻の11回目の結婚記念日(28日)をお祝いしたのだ。昼間は、ほとんど警護もつけず、プライベートで、Tシャツを着て東京の街を散歩する首相夫妻の姿が日本のテレビで報じられた。

「私たちは今日は極めてハードに仕事をしました。そして木曜日、金曜日はG7首脳会議でまたハードに仕事をします。ですから、その谷間に、少し時間をとって、私と妻の結婚を祝います―(もちろん)個人のおカネで」と、トルドー首相は、記者会見で答えている。「これは、個人のベストの能力を発揮して国に仕えることができるようにするためには絶対不可欠なもの、と私がしばしば言ってきた、ワーク・ライフ・バランスというものです。そして、私はこれを必ず続けます」と述べている。(「CBCニュース」5月25日)

カナダ本国では、たちまち「日本まで行ってトルドー首相は仕事もしないで何をしてるんだ」という批判がメディアの一部や保守党議員から挙がったが、これは選挙中から首相が主張してきたワーク・ライフ・バランスの考えについて国民的議論をおこすための、計算づくの戦略なのだとCBCはいう。だから、首相の「挑発的な休暇作戦」に大きな反発や批判が出た方が首相の目的にかなうし、トルドー政権が連邦政府の公務員たちに導入しようとしているフレックスタイム制の推進につながるのだという。

伊勢神宮に到着するG7首脳の車列に、沿道から熱い歓迎の声が上がったが、トルドー首相の乗る車に対する沿道の声援が一番大きかったと日本のテレビは伝えていた。トルドーらしい日本デビューであった。日本の休日を満喫したかどうか、彼らしい印象を残して離日した。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

最新型車両の納入が大幅に遅れるトロントの路面電車

カナダ最大の都市トロントの路面電車は、利用者や車両の数、軌道の距離で、南北アメリカで最大のシステムである。19世紀半ばに馬車による運行を開始してからの歴史を誇る、北米でも数少ない現存する路面電車のひとつだ。

そのトロントの路面電車に、最新型の大型で、より安全で超低床で乗りやすいライトレール式車両で、カナダの国旗を思わせる赤のボディーの上と下に白のラインが入った、21世紀モデルが加わった。今年4月で、17台が市内を走っている。17台しか走っていない、というべきか。

本当なら今年の今頃は、少なくともこの4倍以上の数のかっこいい新型路面電車がトロントの通勤客や通学の学生、買い物客など、1日平均29万人以上の利用客を乗せて走っているはずだった。

もともとトロント交通局(トロント・トランジット・コミッションTTC)は、2019年までに市内の路面電車にこの新型車両を投入する計画で2009年モントリオールに本拠を置く世界3位の民間航空機メーカー、ボンバルディアの鉄道部門に204両を12億5千万カナダドルで発注したのだ。

そして、最初の計画では、2015年末までに、73台の新型路面電車がトロント市内を走るはずだったのが、実際にTTCに納入されたのは、やっと14台。今年1月以降に3台が納入されたがそれでも全部で17台だ。

納入のたびたびの遅れに対する市当局やTTC、市民の批判をうけて、ボンバルディアは4月末に納入計画の変更、納入台数の下方修正を発表したけれども、これがまた、同社が今年初めに約束した下方修正もさらに下回る納入計画で、市長やTTC会長は怒り心頭の様子。ついにトロント側はボンバルディアを契約違反で損害賠償の訴えを起こした。

4月25日に発表された計画変更では、路面電車車両の製造を「大幅に加速する」結果、同社は、TTCに2016年末までに計30台を納入するというもの。ということは、すでに、17台が納入されているのだから、今後年末までに納入されるのは13台ということになる。これは1月平均2台にもならない。納入の遅れを考えたらちょっと考えられない驚くべき生産ペースである。

直前の3月に修正された生産計画では、4月以降毎月4台を製造・納入して、今年末には全部で54台が納入されことになるとしていた。これでも当初の計画の2015年までに73台と比べれば、大幅な遅れだが、それが4月のさらなる変更で、約束通り行ったとしても、たった30台にしかならないのだから、トロント市や利用者、納税者である市民が怒るのもむりはない。

この大幅な納入遅れのため、TTCはサービスのレベルを維持するために、すでに古くなった200台以上の古い型の路面電車を改装、整備して電車の寿命を延ばし、路線によってはバスを追加投入して新型車両が入るまで何とか持ちこたえなければならない。さらに利用者にとっては、本来ならば今ごろはゆったりした最新型車両に乗って移動できるところを、小さい旧型の電車に詰め込まれて通勤したり通学したりしなければならない。

ついには、TTCはボンバルディアを契約不履行で訴え損害賠償を要求しているが、裁判で認められれば、12億5千万カナダドルの発注額の上限5%、5,100万カナダドル(約46億円)が支払われる。しかし、納入遅れによって生じた現有車両のメンテナンスなどあらゆるコストをカバーするのには十分ではない。

ボンバルディア側も全く何もしていないわけではない。最近北米地域鉄道担当社長を交代させ、TTC向け路面電車の納入ペースの加速のためケベック州ラ・ポカティエールの製造工場を第2工場として使うことを決定した。(「トロント・スター」4月25日)さらに、別の工場の組み立てラインを使って、現在オンタリオ州サンダーベイだけで製造されている生産ペースを上げるとしている。

製造・納入遅れの原因の一つであった、ボンバルディアが同社のメキシコ工場で作っている部品の欠陥問題や品質管理の問題は、ラ・ポカティエール工場で部品を製造することで、解決できると説明している。

これで、ボンバルディアは契約どおり、2019年末までに204台すべてを完全に納入することができると言うが、これまでのボンバルディアの「実績」を考えたら、トロントでは誰もあまり本気にはしていない。TTCのアンディ・バイフォードCEOはボンバルディアが本当に契約を履行できるのか、最後の電車が届くのを見るまで約束を信じられない、として「我々は怒り心頭だ」と述べて不信感を露わにしている。ジョン・トーリー市長は、「愕然としている。ビジネスのやり方としてなっていない」と怒りが収まらない。

このトロントの路面電車での納入遅れは、さらにグレータートロントとオンタリオ州ハミルトン地域をつなぐ地域間鉄道システムであるメトロリンクス(Metrolinx)の新しいライトレール計画に影響が出そうな様相を示している。

「グローブ・アンド・メール」(4月26日)によれば、2021年開通予定の2路線に使う新しい車両の7億7千万カナダドルに上る購入計画についても、メトロリンクスの首脳陣の間には、ボンバルディアから予定通り車両が納入されないで、新路線開通ができなくなるのではないかと不安が広がっている。昨年中に納入されるはずの新型車両の試作車がいまだに納入されていないというのだ。試作車両が納入されても、これから開通までにボンバルディアは契約の182両を期限までに製造して納入できるのだろうか。

カナダの主要紙がいうまでもなく、カナダ最大の都市で起こっている路面電車納入の大幅遅れは、ボンバルディアの評価を大いに下げることになっている。資金繰りの問題を抱えたボンバルディアの航空機部門が、次世代ジェット旅客機Cシリーズ機計画に対しカナダ連邦政府に10億米ドルの支援を求めている。

「トロント・スター」は社説(4月26日)で、「路面電車の問題が航空機計画と関係がないという議論は通らない。路面電車の納入が予定通りできなければ、航空機でも契約通りの納入ができるという保証はない。これは信頼の問題だからカナダ政府はよく考えなければならない」と述べている。

(最新のニュースによると、ボンバルディアは5月2日、デルタ航空がCS100の125機購入を正式契約したと発表した。2月にエア・カナダがCS300(Cシリーズの大型機)75機の購入を発表したのに次ぐもので、最大の契約数だ。昨年末まで1機の契約も取れなかったボンバルディアにとっては、これは喜ばしいニュースではある。契約通り納入できればの話だが。)

 

石塚嘉一、トークス シニア・コンサルタント

※参考:グローブ・アンド・メールの路面電車の納入遅れに関する記事(英語)。車両の写真が掲載されています。

マリファナの完全合法化に進むカナダ

カナダでは自由党政権が選挙で公約した嗜好品としてのマリファナの合法化に向けた動きが進んでいる。

合法化のための法制化には、多くの問題をクリアしなければならないので、嗜好品としてのマリファナ(recreational marijuana)が今すぐ簡単に買えるようになるのでないことは誰にでもわかるが、それでも、マリファナ解禁を歓迎する国民やマリファナ生産業者の中には、今年中にもマリファナの全面的な合法化ができるような期待が盛り上がっている。

昨年10月の選挙でジャスティン・トルドーの自由党政権ができることになった時には、マリファナ関連株が急騰した。すでに合法化されている医療用マリファナの製造会社の株がトロントベンチャー取引所で、一時7%高まで急伸した。

就任直後、トルドー首相は公約実現のための検討を指示、そのためのタスクフォースを設置して責任者としてビル・ブレア国会議員(元トロント警察署長)を法務政務次官に任命した。ブレア氏は今後、合法化にあたって、さまざまの問題への対応を考えて合法化への道筋をつける。どこで売るか、誰が栽培できるか、規制はどうするか、消費税などの課税は、などだ。そして何よりも、合法化によって規制を厳しくしてマリファナが子供の手にわたらないようにすることと、闇社会へマリファナの資金が流れないようにすることが、トルドー党首がマリファナ合法化を公約した大きな理由なのだ。

このような動きを見て、カナダのマスコミも年初には、マリファナが今にも合法化されそうな記事を書いていたが、ここにきてそのトーンはより慎重になっている。州政府との調整なども考えると、2年はかかるのではないか、悪くすると4年先の次の国政選挙までかかるのではないかという見方も出ている。

それでも合法化への期待は高まっている。最近の世論調査によると、68%の国民が「大いに」または「ある程度」マリファナの合法化に賛成していることがわかった。(「グローブ・アンド・メール」2月29日)州別ではブリティッシュ・コロンビアが75%と最も高い支持を示している。「反対」または「ある程度反対」は30%。

「グローブ・アンド・メール」とナノス・リサーチが1,000人のカナダ国民に行ったこの調査では、もう一つの大きな問題である、どこで売るのがよいかについて、44%がマリファナ専門の薬局(ディスペンサリーと呼ばれる)を支持、一般の薬局がよいとするのが43%で、キャスリーン・ウィン・オンタリオ州首相(と業界)が提案している政府規制の酒販売店は36%の支持しか集められなかった。コンビニがよいと答えたのは3.2%。もちろん、連邦政府は、ブレア担当官も保健省大臣もどこがよいと思うか、まだ明らかにしていない。

カナダでは、すでに2001年に、保守党政権下で医療用マリファナ(medical marijuana)が合法化されており、50,000人の正式に許可を受けた医療用マリファナ使用者がいて認可を受けたマリファナ製造業者26社がマリファナを栽培して製品を供給している。彼らはすべて保健省の規制を厳しく受けている。(「グローブ・アンド・メール」1月5日)マリファナの合法化を公約する自由党政権になって、これらの数字が上がるものとみられているが、嗜好としてのマリファナが非合法な現在の制度でも、保健省によると、マリファナ利用者はカナダ全国で50万人もいるという。(「グローブ・アンド・メール」2月26日)

病気や怪我をした人が苦痛を和らげる目的で医療用として医者の処方箋があれば、認可されたマリファナ専門の薬局(いわゆるマリファナ薬局、marijuana dispensary)で合法的に買うことができる。この医療用マリファナの市場規模は、8,000万から1億カナダドルと推定されているが、嗜好品マリファナが合法化されれば、20億~50億カナダドルにもなる可能性がある。だから、薬局の業界や酒販売業界が、自分たちに売らせろと躍起になってロビー活動を繰り広げている。

保守党政権が医療用マリファナを合法化した当初、医療用マリファナを処方される患者は、自宅でマリファナを栽培するか、誰かに栽培を委託してマリファナを手に入れることが認められていた。その制度のもとでマリファナ栽培・生産の許可は2002年の500程度から2012年には2万2,000にまで膨れ上がった。(「グローブ・アンド・メール」2月26日)

マリファナ使用者と栽培者の増加に危機感を抱いた保守党のハーパー政権は計画を変更、栽培者や製造会社の規制をより厳しくし、安全で品質の高いマリファナ製品を供給できるように個人のマリファナ栽培者・業者を排除、製品はメールオーダーで注文して入手しなければならなくなった。その結果、コストが、まともなマリファナユーザーには法外なものに高騰、これに不満なユーザーたちが集団提訴をして、今年2月に連邦裁判の差し止めを認める判決を獲得した。

その結果、古い制度と新しい制度の両方が残ることになり、この隙をついてライセンスを持たないマリファナ薬局がバンクーバーなどブリティッシュ・コロンビア州に次々に出現、それがトロントなどに広がっていると報じられている。保守党政権下で医療用マリファナの処方を出すのを自主規制気味だった医師たちも、マリファナの合法化を約束している自由党政権では、マリファナの処方箋が増えると見られている。確かに、からだのどこかが痛いと言えば簡単に医師からマリファナの処方箋がもらえるし、バンクーバーの不法なマリファナ・ディスペンサリーに行けば、処方箋なしでも頭が痛いと言えば(あるいは言わなくても)売ってくれるので、カナダのマリファナ人口はどんどん膨れている。

カナダはすでにマリファナ部門で世界のリーダーだといわれる所以だ。

合法化は、連邦政府、州政府の税収にも影響する。CIBC(カナダ帝国商業銀行)の調査によると、合法化された場合の嗜好品としてのマリファナからの税収は年間50億カナダドルに上ると見積もられる。これは、カナダの嗜好品マリファナの消費傾向から計算した合法化後の消費傾向を、ひと足先に2012年にマリファナを合法化した米国コロラド州のケーススタディによって出している。税率は、酒類やたばこなどにかけるいわゆる「シン・タックス」(sin tax悪行税)のレートを当てはめている。あまり税率を高くすると、合法なのにマリファナ商品の価格が高くなりすぎて、マリファナのユーザーたちはより安いマリファナを求めてブラックマーケットに行くため、犯罪組織に資金が流れることになる。

コロラド州では、合法化によって州の税収が大幅に増えたといわれるが、トルドー首相は、合法化されたマリファナの売上や税収は、精神衛生問題や薬物依存問題のために使うので、金もうけが主眼ではないことを強調している。

コロラド州や、ワシントン州、オレゴン州などの例に見られるように、合法化されれば、マリファナの売上だけでなく、マリファナが合法化されていない国などからマリファナを買って楽しむための「ポット(マリファナ)・ツーリズム」でカナダに来る観光客が増えることも期待される。

嗜好品としてのマリファナの、酒類、タバコの場合のような未成年への販売の年齢制限や、健康への影響や薬物依存、飲酒運転のようなマリファナを吸ってハイになった状態での自動車の運転、マリファナを吸えるコーヒーショップのような場所、など数多くの問題がこれから解決されなければならない。

果たして、これらの問題をうまく解決するマリファナ合法化の日は近いのか。合法化はカナダの社会やライフスタイルにどんな影響を与えるのか、マリファナ先進国としてのカナダのケーススタディも興味深い。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

トロントと日本では喫茶店も進化する

「どのゲーム喫茶店でも、分けて食べる料理は共通だが、客が選べる飲み物は店によって異なる。店にあるのは紅茶、ビール、ワイン、エスプレッソなどだ。どのゲーム喫茶店でも耳に入るのは、早口のおしゃべり、笑い声、ころがるサイコロなど、陽気な様子。さらに、スマートフォンはめったにないという点も共通している」

これはニューヨーク・タイムズ(NYT)紙の国際週刊版(2016年2月21日号)が伝える、過去2年間で特に増えた、トロントの卓上(ボード)ゲーム喫茶店の様子である。

「ボード」は「将棋盤」や「碁盤」の「盤」に相当するから、トロントで人気を博しているのは将棋にかなり似ているチェスや升目を必要としないサイコロ・ゲームである。すべてアナログだ。日本人が「ゲーム」と聞いて連想しそうなポケモン・カードなどとは異なるわけだ。

記事の見出しは「トロントで人気、卓上ゲーム」。「トロントではボード喫茶店が急激に増えている。トロント地域での大衆文化を伝えるブログTOは、2年前に人気上位20店を発表したが、それ以後もブログを書く人々は新しい店についてあれこれ伝えている。

いくつかの店が紹介されている。スネークス&ラッツ(蛇と横木)別館では、ヨーロッパの「カタンの開拓者」や「人間性に反するカード」などの卓上ゲームの販売もやっている。

スネークス&ラッツ大学は近くのリトル・イタリアにある、広さ700平方メートルを誇る喫茶店で、飲み物はワインが16種で樽入り地ビールもある。バムポット・ボヘミアン卓上ゲーム喫茶店では、アルコール飲料を置いてない。

しかし、これはトロントに限られた流行りではなかろうか。

一方、日本の環境省は、猫喫茶店の規制を夏前には緩めようとしている。猫喫茶店とは、文字通り、客が猫とたわむれる店。これらの店は午後8時までの営業を認められてきたが、これを午後10時まで延長するというのが規制緩和の内容だ。なぜ午後8時までだったのか。ペットショップの営業が8時までだという簡単な理由だ。

緩和前後で変わらないのは、猫が十分に動きまわれるスペースを確保しなければならないという条件だ。

環境省の規制緩和を決めるまでの経緯は科学的だった。実験により、午後8時と午後10時まで勤務した猫のストレスを調べてみたら、両群に差はなかったという。

日本にある猫喫茶店は約300店。

猫に限らずペットの喫茶店内への立ち入りを許すだけでなく商売に利用するという日本の現状は、文献を見る限り、日本独自である。

猫はずっと自国産だったと思いがちだが、実は他のものと同様に朝鮮・中国から古代に日本にやってきた。

猫は、歴史家によると、10世紀くらいまでは珍しく、珍重されてきたそうだ。日本の家庭で普通のペットになるまでに、それ以後、さらに約2世紀を要したという。

日本に進出してきたカナダの喫茶店もある。バンクーバーを拠点とするブレンズ(Blenz)コーヒーで、1992年の創立以来、100%アラビカ豆を売り物にし、ブリティッシュ・コロンビア州が主だが、フィリピンにも進出し、東京では3店を開いている。

話をトロントに戻そう。NYTによると「タイ、南アフリカ、英国、インド、メキシコの起業家が、トロントに電話をよこしたり訪れたりしている。どう経営すれば非デジタルで完全にアナログの卓上(ボード)ゲームで楽しませる店が成り立つのか知りたがっているのだ。」

 

潮 昭太(東京在住フリーランス記者)

カナダで大規模な二酸化炭素回収・貯留設備が商業運転に

地球温暖化に関する良い大ニュースといえば、2015年12月のパリ協定だった。温暖化を摂氏1.5度以内に抑えようという合意だ。世界中の196カ国・地域が参加した。

このような野心的な目標が、唯一の手段によって達成できるとは誰も考えないであろう。発電所などでの化石燃料、特に石炭の消費を減らすという方法は、多くの人が思いつきそうだ。また、消費者に省エネをすすめてください、と政府はずっと依頼し続けている。

原子力発電は二酸化炭素(CO2)を発生しないという特徴を有しているが、支持する人は日本では少数派だ。

日本の政府のなかには、発光ダイオード(LED)がCO2削減に貢献すると考える官庁もある。日本の目標は2030年度までに2013年度比で26%の削減となっている。

CO2回収・貯留(CCS)計画が大きなニュースになっていたことを思い出す人もあるだろう。これらのプロジェクトは死に絶えたのだろうか。とんでもない。電力・石油などCO2に関係する業界の長期企画担当者は計画進展に注目している。

シェルの2015年末の発表によると、カナダ・アルバータ州のクエストCCS計画は、商業運転の段階に入った。計画では年間、100万トン以上のCO2を回収することになっている。CO2をシェルの精油所(改質所)から65キロ離れた貯油施設まで運び、地下2,000メートルの岩層に貯蔵する。

シェル・シェブロン・カナダのマラソン社が参加しており、アルバータ州政府が7億4,500万カナダドル、連邦政府が1億2,000万カナダドルを負担する。

日本政府もCCS計画を進めている。ただし、規模は小さい。

資源エネルギー庁が組織した検討委員会は、日本CCS社が実施した実証調査の結果を2016年2月に承認した。これは2016年度以降に、北海道苫小牧の沿岸部で年間10万トン以上のCO2を貯蔵する計画の実現につながる。

CCSだけではCO2問題を解決することにはなりそうもない、と地球環境産業技術研究機構の茅陽一・理事長は説明する。もしも、世界の化石燃料使用が大幅に減って、CO2全体の10%程度しか排出しないことになっても、全量をCCSによって処理しようとすると、アルバータ級の施設3,000か所を要するという。

環境省は日本の照明すべてをLED電球に取り換えたら、温暖化ガスの排出を年間に1,100万トン以上減らせると試算している。目標は2030年度だ。

 

潮 昭太(東京在住フリーランス記者)

トルドー首相、カナダ首相として19年ぶりのワシントン公式訪問。オバマ大統領の熱烈な歓迎で、対米関係を強化

ジャスティン・トルドー首相は3月9~11日の3日間、ワシントンを公式訪問、オバマ大統領の友情あふれる温かい歓迎を受けた。カナダの首相を大統領の賓客とした、19年ぶりにホワイトハウスで催された華やかな晩餐会は、トルドー首相の就任直後の国際首脳会議で意気投合した二人の首脳の友好関係がさらに強固なものになることを確認するものになった。

オバマ大統領のトルドー首相への期待と惚れ込みようは尋常ではない。今回の公式訪問が始まる前から、ホワイトハウスのスポークスマンは、進歩的でリベラルな価値観、多国間関係や多様性を重要視し、地球温暖化に取り組む決意を共有する二人の間には「特別な関係」ができつつあると記者たちに語っていた。

大統領の執務室で行われた首脳会談では、二人は二酸化炭素より温室効果のはるかに強いメタンガスの排出を大幅に削減し、北極の海の環境保護のため規制を強化、両国の国境を通る人と物の往来をより活発にすることなどで合意。一方、難題のカナダ産ソフトウッドの木材の対米輸出の問題では、100日以内に合意を目指すとして深入りせず、オバマ大統領と前任者ハーパー首相との関係をこじらせていたカナダからの石油パイプラインの問題は、トルドー首相が初めから持ち出す気がないのだから、これでは番狂わせは起こりそうにない。

だから、トルドー首相の訪米は、初めから二人の強い個人的関係を両国の国民に、そして世界にアピールするものになるはずだった。

首脳会談から出てきたオバマ大統領は、記者団を前に、トルドー首相の進歩的な政治の課題や目標がいかに素晴らしいかをほめ称え、自分の気候変動と社会正義に関するリベラルの遺産を引き継ぐのはトルドー首相が最適だと、世界に向けて、自分の後継者に指名した形だと、カナダの全国紙「グローブ・アンド・メール」は述べている。(3月10日)

「彼は希望と変革のメッセージを掲げて選挙を戦った。彼の前向きで楽観的なビジョンは若者たちを元気づけた」とオバマ大統領は記者たちに言った。そこには8年前、希望と変革と若さを体現して大統領選を戦った自分の姿を見ていたのだ。トルドー首相とソフィー・グレゴワール夫人と、8歳と7歳と2歳の3人の小さな子供たちがワシントンに到着するのを熱烈に歓迎したアメリカ国民の多くも、8年前のオバマ大統領のイメージを見ていたのだ。「ニューヨーク・タイムズ」と「ボーグ」誌は好意的な特集を訪問前に組んだし、CBSの人気番組「60ミニッツ」では日曜日の何百万人もの視聴者にトルドー首相のプロフィールやインタビューを紹介していて、米国のマスコミの歓迎ぶりがよくわかる。

朝の歓迎式典でも、大統領は、「首相は、選挙中や首相就任後の2、3か月の間に、私たち両国の関係にも、新しいエネルギーとダイナミズムを吹き込んでくれた」とトルドー首相が、選挙中から米国との関係強化を公約し、就任するやパリの気候変動会議で米国の温室効果ガス削減案と歩調を合わせて会議をリード、米加関係を短期間で大きく改善するのに貢献したことを称えた。

それに対して、トルドー首相はこう応じている。

「(政治や選挙のことで)オバマ大統領から多くを学んだ。そして、これから政治の世界で、国際政治の舞台で、私が遭遇するだろう多くの問題を乗り越えてきたオバマ大統領をこれからも頼りにすることができると思うと、心強い」。そして晩餐会では、米国とカナダの関係は、友人以上だ、と語り、ホワイトハウスでの歓待の返礼としてオバマ大統領がこの夏、米、加、メキシコ3か国の北米首脳会議がカナダで開催されるとき、オバマ大統領にオタワの議会で演説するよう招待した。米国大統領としては21年ぶりのカナダ議会での演説になる。

年齢では10歳しか年上でしかないのだが、あと10か月で2期8年の大統領から退任する「レイムダック」のオバマ大統領と、昨年10月の選挙で圧勝、11月に首相に就任したばかりの44歳の首相とでは、まるで、オバマ大統領に政治のメンター(師匠)として教えを乞うプロティジェ(弟子)の新米首相との関係のようだと、カナダの新聞は伝えている。

これを見て、カナダの新聞だけでなく、あの「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」、「USAトゥデー」など米国の大新聞までもが「ブロマンス」という言葉を使ってオバマ大統領とトルドー首相の親密ぶりを伝えたほど、オバマ大統領は胸襟を開き、首脳会談後の記者会見でも、公式晩餐会のスピーチでも互いを称え合い、冗談を言い合い、笑顔を絶やさなかった。トルドー首相をホワイトハウスに迎えて、心を許せる友人が来てくれて嬉しくてたまらない、という風情であった。(ブロマンスとは、男の熱い友情とか男が互いを好き合っている感情をいう言葉だ。Brother とRomanceを組み合わせた単語だといわれる。)

任期もあと1年を切って、環境でレガシーを残したいオバマ大統領にとって、トルドー首相は、気候変動のチャンピオンとして自分が引退した後も、世界で気候変動のリーダーを務めてくれると期待しているのだ。ホワイトハウスの歓待は気候変動問題のリーダーの後継者の世界へのお披露目だったのだというカナダのコラムニストもいる。

オバマ大統領が、環境問題だけでなく、トルドー首相のリベラルな政策、移民や難民を歓迎する多文化主義を称えるとき、大統領には、国内で自分の後任を選ぶ選挙運動で起こっていること ― 移民や難民の受け入れを拒否し、女性蔑視の発言を繰り返すドナルド・トランプが共和党の大統領候補指名争いで多くの支持を得ていること ― に対して強いメッセージを送るという、もう一つの目的があるのは誰の目にも明らかだ。

(トランプが大統領候補になったら、あるいは大統領に当選したら、カナダに移住するという米国人が増えていて、移住の手続きを調べるインターネットのサーチが300%増えたという冗談とも言えない報道もある。)

1969年に当時のニクソン大統領のホワイトハウス公式晩餐会と1977年カーター大統領の晩餐会と2度もホワイトハウスで晩餐会のもてなしを受けた父親のピエール・トルドー首相と同じホワイトハウスのイーストルームで晩餐会に臨んで、ジャスティンはどんなことを思っていただろうか。この日の晩餐会には、1977年の晩餐会に夫トルドー首相とその場にいたジャスティンの母親マーガレットも出席していて、オバマ大統領から紹介されている。父親が母親と並んで立って手を振ったホワイトハウスのバルコニーから、息子のジャスティン・トルドー首相は、ソフィー・グレゴワール夫人と一緒に、オバマ大統領夫妻と並んで、手を振った。晩餐会で、オバマ大統領は、44年前、オタワを訪問したニクソン大統領が、将来のカナダのリーダーのために、と生まれて4ヶ月にしかならないジャスティンのために乾杯してくれたことを、紹介した。

 

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

カナダのサイクロトロン加速器は放射性同位元素生産の王様

福島第一原発の事故から早くも5年が経過した。同原発から放出された膨大な量の放射能はベクレルの単位で計測された。

しかし、原子力は発電のためにだけ使われるものではない。

科学者と技術者は放射性同位元素(RI)をがんの放射線治療・医療研究・材料開発など多様な目的のために応用することを可能にした。

カナダはRI生産でずっとトップ級だった。その地位を象徴する機械がバンクーバーに近い場所にある。その機械とは、ブリティッシュ・コロンビア大学内で活動するトライアンフ国立研究所の520メガ電子ボルト(MeV)もの主要サイクロトロンだ。

機械の活動40周年を記念する式典には、連邦政府のキルスティ・ダンカン科学大臣などが集まった。機械の生みの親は現在の連邦政府トップの父親、故ピエール・トリュドー氏だった。運転開始は1976年2月9日だったとオンライン通信のワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)が伝えている。

大臣はトライアンフを粒子・原子物理学、分子・材料科学、核燃料などの専門家を引き寄せる「メッカ」だと呼んだ。

日本原子力研究開発機構(JAEA)の前身が、熱出力50メガワットの材料試験炉(JMTR)を1968年に茨城県大洗で起動させた背景には、医療診断用のRI、モリブデン90を国産化したいなどという背景があった。トライアンフ関係者は最近、モリブデン100を照射してテクネチウム99mの生産に成功しているとWNNは報じた。医療用RIのうち80%はテクネチウム99mになったともいう。

日本のイオン照射施設にはJAEAが群馬県高崎市で運営する高崎高度放射線開発イオン加速器(TIARA)もある。4つの機械によって構成される施設で、内訳は70MeVのサイクロトロン、2種の加速器、イオン注入設備である。

国会はJAEAのTIARAなどの機械と放射線医学総合研究所の医学資産を組み合わせて、量子科学技術研究開発機構を4月1日に発足させる政府の計画を承認している。目標とする課題には重粒子線によるがん治療や核融合などがある。

「量子ビーム」は多種多様である。ミュオン、中性子、陽子、電子、イオン、中間子、放射、光量子など。供給源も加速器、高出力レーザー、研究炉と多様だ。

日本で圧倒的に研究に使われるRIはコバルト60で、モリブデン99やテクネチウム99mは少量に留まっていると政府が発表したことがある。

これらRIの量もベクレルで表わされる。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

英語圏の留学生獲得競争でカナダは優位に立ちそうだ

日本政府は1964年に外国為替管理を緩めて、留学志望の学生のために、たとえば円の米ドルへの換金額を無制限にした。当時の日本人留学生は卒業後の帰国を当然のことと考えていた。

時は移って2016年。カナダで学ぶ、特に中国とインドの留学生は、永久滞在ビザを獲得するケースが増えている、とエコノミスト「紙」(実際にはどう見ても週刊「誌」の2016年1月30日号)が伝えている。英語圏の主要4カ国で学ぶ留学生の多くが卒業後も滞在し仕事を得たいと願っている。この観点から、カナダとオーストラリアはより多くの留学生を迎え、アメリカとイギリスは競争に負けそうだ、とエコノミスト紙は予測する。

4カ国のうち、カナダに滞在する留学生は2013年現在で最小の19万5,000人だが、学生全体に占める比率は10%と比較的高率だった。アメリカは2014年現在、97万5,000人と最大数の留学生を誇っているが、全在籍者の比率は5%と4か国のうち最低だった。

イギリスは日本の皇室に人気がある留学先だが、31万2,000人の留学生を受け入れていた。比率は15%弱。オーストラリアはエコノミスト紙によれば教育を「第2位の輸出産業」と見なしており、鉱山業に続く有望業種だという。同国には2014年現在、34万8,000人の留学生が在籍しており、25%という高い比率を保っていた。

カナダ政府は、大学の財政状態を向上させるのに、自国の学生よりも高額の授業料を払ってくれる外国人学生数を増やすのが有効な策だ、と約10年前に判断した。

アメリカ政府は2001年9月の同時多発テロ事件以来、ビザ発給の規則を厳しくしたのに対し、カナダは外国人卒業生を「立派な資格のある貴重な若年労働者」と見なしている。新卒の留学生が職を得さえすれば、自動的に3年間の滞在を許している。

日本はどうか。政府は在日留学生を2020年までに30万人に増やす目標を掲げている。今のイギリスに近い数字である。

日本にいる留学生は2014年5月1日現在で18万4,155人だった、と文部科学省が2015年2月に発表した。中国からの留学生が9万4,399人、ベトナムから2万6,439人、韓国から1万5,777人だった。

海外で学ぶ日本人学生は2012年現在、6万138人で、主な留学先は中国が2万1,126人、アメリカが1万9,568人、イギリスが3,633人だった。エコノミストは「英語は習得に値するもっとも役に立つ言語」だと言うが、かなり多数の日本人学生が中国語を学ぼうとしている様子が、上記の数字から判断できる。

1960年代半ばにアメリカ西部のオレゴン大学にいた日本人学生は数十人程度。2人か3人の例外はあるが、大半は学位を得ても得なくても当たり前のように帰国した。例外組の1人は、同大学で日本語・文学を学んだアメリカ人女性と結婚し、残留したけれども後に離婚された。

 

潮 昭太(東京在住フリーランス記者)

気候変動でカナダ先住民の魚の漁獲量が半分になる

気候変動の影響でカナダ沿岸地域にすむ先住民が1,000年以上にわたって伝統的な食料としてきたサケやニシンなどの漁獲量が2050年までに半減するだろうと警告する最新の研究が先月発表された。

この研究はブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の研究チームが行ったもので、地球温暖化がこのまま進むとブリティッシュ・コロンビア州沿岸の水温が上がり、同地域に居住する先住民(ファーストネーションズ)が主食としてきただけでなく、さまざまの伝統的な儀式や商取引に使ってきたサケやニシンなどが、他の多くの魚介類と一緒に、水温の低い北の水域に移動するため、彼らの漁獲量の半分が2050年までに失われてしまうとしている。(「ワシントン・ポスト」1月13日)

生息地の環境の変化によって、そこで獲れる魚の種類が変わり、カナダの先住民の伝統的な食事や儀式に使われてきた魚類が獲れなくなれば、彼らの生活だけでなく、先住民が何千年も守ってきた伝統やライフスタイルを維持するのが困難になるし、先住民の多くは漁をする魚類が北に場所を変えるからといって、それを追いかけて居住地域を変えることはしないので、これは大きな問題なのだと調査チームは述べている。

「これは何千年にわたってこれらの魚や貝などを漁獲してきた先住民のコミュニティに大きな影響をもたらすでしょう」と同大学院生としてこの調査を行ったローレン・ウエザードンさんは、その文化的、経済的、栄養学的インパクトの大きさを説明している。そうなれば、低く見積もっても、ブリティッシュ・コロンビア沿岸地域の先住民は2050年には年間670万から1,200万カナダドルの損失を被るだろうと見積もっている。気候変動が大規模漁業に与える影響についての調査は数多くあるが、このような先住民社会での漁業への影響を調査したものは極めて少ない。この研究は日本財団の資金援助で実施された。(「サイエンス・デイリー」1月13日)

今回の研究は、カナダの617の先住民部族の中から、太平洋岸地域にいる78のファーストネーションズ(First Nations)と呼ばれる先住民のうちの16の部族が居住する地域に焦点を当てて行ったもの。ファーストネーションズは、米国で現在はネイティブ・アメリカン(Native Americans)と呼ばれ、かつてはインディアンと呼ばれていた民族で欧州から白人が来て土地を奪う何千年も前から住んでいた人たちだ。カナダ政府のサイトによると、現在カナダでインディアンと登録されているのは約54万人、カナダ国民の1.8%である。彼らのうち、約55%が、彼らのために確保された「保留地」と呼ばれる特定地域に住んでいる。

UBCの研究チームは調査にあたって、対象地域の先住民にとって文化的、経済的に重要な98種の魚や貝に気候変動がどのような影響を与えるかを調べ、生息場所の水温や水中酸素のレベルなどがそれら魚介類の生息に適切かどうかなどを検査した。その結果、これらの魚介類は水温の上昇に対応して、現在の生息地・漁場となっている水域を離れ、より水温の低い海域を求めて北に移動して行くことが分かった。この移動のペースは、水温の上昇が0.5℃から1℃の間で、10年間に10.3キロから18キロと見積もられている。(「サイエンス・デイリー」1月13日)

このような漁獲量の減少は、カナダ西海岸地域の先住民居住区域に住むすべてのファーストネーションズに影響を与えるもので、彼らのサケの漁獲量は最高29%減るものとみられ、ニシンにいたっては49%も減少すると見積もられている。2001年から2010年の間にこれらの漁獲から先住民が得た収入は2,800万ドルから3,600万ドルにのぼったとみられるが、今後の気候変動、温暖化の進み具合によってはこの収入が最高90%まで落ち込む可能性があるという見方もある。

昨年、太平洋や米ワシントン州のピュージェット湾とブリティッシュ・コロンビアのコロンビア川の間を移動する間に25万尾のサケが水温の上昇のために罹った病気のために死んだといわれる。25万尾とは春の産卵でカナディアン・ロッキーに源を発するコロンビア川を遡上するサケの数の半分以上なのだ。昨年7月にコロンビア川流域の水温が、サケに適切な15.5℃よりも7.2度も高かったと、米オレゴン州で流域にいるネイティブアメリカン(アメリカン・インディアン)のためにこの川でのサケ漁を管理している団体が警告を出している。

このように地球温暖化はカナダでもさまざまの影響をもたらしていることが報じられているが、温暖化でとけだした氷河によって居住地域の移動にまで追い込まれる先住民のケースなども伝えられている。気候変動の影響を最も大きく受けるのがカナダではこれら先住民のようだ。

 

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

ウナギに関心を寄せるのは日本人だけか

ウナギは古くから栄養のある、あるいは薬効さえある食べ物だと考えられ、猛暑の時期に食べることが何世紀も続いた。日本人は、おそらくボルネオ島に近い海で1億年前に出現したとされるウナギを食べ研究するのが、日本人だけだと考えるかもしれない。
それは誤りである。

アリストテレス(紀元前384-322年)は、ウナギについて熟考した後、「地球の内臓から自然発生する、性別のない生物」だと考えた、とニューヨーク・タイムズ(NYT)国際週刊版(12月 27日号)は伝える。

我々は、この古代ギリシアの哲学者・科学者よりも、ウナギに関しては多くの情報を持っているから、東太平洋・南大西洋以外のどんな海域でも見かける魚だと分る。日本ウナギ(学名はアングイラ・ジャポニカ)はかつて沖縄か台湾沖で産卵すると考えられていたが、今ではグアム島から遠くないマリアナ海溝の西部だという説が有力であることを知っている。

しかし、ウナギは今でも謎の動物である。生涯に一度だけ産卵するという説が有力のようだが、複数産卵説もある。

カナダ水産海洋省の研究担当科学者、デヴィド・ケアンズのおかげで「少なくとも一つの謎は解明に向けて一歩前進した」とNYTは報じた。「アメリカ・ウナギは成長した時期(3-20年間)をグリーンランドからヴェネズエラまでの広い地域にある川や河口で過ごしているが、生殖するのはサルガッソ海だけだという共通点を有している」。これはフロリダ州沖(東)の海である。

ケアンズと同僚は、ウナギに適応できる道具、小型軽量で海洋衛星によって追跡できるタグを開発した。

「2012年から2014年にかけて、研究者達は、衛星につながるタグを付けたウナギを38匹カナダ・ノヴァスコシアの海岸から放流した。データを得られたのは28匹分だったけれども、1匹からは2,400キロに及ぶ旅の経路を証明する成果が得られた。このウナギはノヴァスコシアから東に向けて動き、ニューファンドランド州沖の大陸棚に達すると、急角度で右(南)側に転じ、米国の海岸から東に向けて流れる湾流を横切って、サルガッソ海に直行した」とNYTは伝えている。

このウナギの場合「(2,400キロの)マラソン完走に、わずか45日しか要しなかった」とNYTは言う。

同紙はまたケベック州にあるラヴァル大学のジュリアン・ドドソンのコメントを載せている。「私は魚類の移動を40年間以上研究してきたが、このような軌跡を見るのは初めてだ」。

8月になったら、高価になったウナギを丸ごと、あるいは半身を食べながら、ウナギの長い航海に思いを馳せてみるというのはどうであろうか。

 

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

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