トルドー第2次政権、前途多難な門出 ―「カナダの分断」を止められるか

ジャスティン・トルドー首相の第2次政権がいよいよ20日にスタートした。難問を抱えた前途多難な門出である。

10月21日の連邦下院議会選挙では、トルドー首相率いる中道左派の与党自由党が、大票田のオンタリオ、ケベックなど東部諸州の圧倒的支持を得て、338議席中157議席を獲得して第1党となったものの、解散時から20議席も減らし、単独過半数の維持はならなかった。得票率では、26議席増の121議席を獲得した保守党に1.3ポイント下回った。4年前の選挙で圧勝して政権に就いたときの184議席から比べると27議席も減らしたことになる。

それでも、トルドー首相は選挙後の記者会見で、連立政権は作らない、と述べて、政策ごとに他党と連携する方針だ。過半数に必要な13人の議員の支持を他党から得るために、24議席を得た左派寄りの新民主党(NDP)との連携などを探ることになるが、今後の政権運営に不安を残す多難な門出となることは間違いない。気候変動やその他の先進的な政策では、NDPと連携して、一方で、トランスマウンテン・パイプラインの延長などエネルギー政策では保守党と連携するということが果たしてうまくできるのか。

特に今回の選挙が示したショッキングな結果は、カナダ西部のアルバータ州とサスカチュワン州で自由党は1議席も取れなかったことだ。カナダの新聞はみんな「アルバータとサスカチュワン州は自由党を完全に締め出した(shut out、野球でご存じの、完封、シャットアウトである)」と書いている。アルバータ州では34選挙区中、33選挙区で保守党が勝利、サスカチュワン州では14選挙区すべてで保守党が議席を獲得したのだ。ということは、これらの地域を代表して自由党内閣の閣僚になれる議員がいないということだ。

カナダの新聞は一斉に、「東西分断のカナダ」、「ハッシュタグWexit(#Wexit)」との見出しをつけて選挙結果を報じた。Wexitとは、Brexit (BritainとExitの造語、英国のEU離脱の意味)をまねた、West (西部)のExitという意味の造語で、豊富なエネルギー資源を持ち、石油産業に依存するアルバータ州を中心にカナディアン・プレイリーズと呼ばれるサスカチュワン州やカナダ西部の諸州がカナダ連邦から離脱しようという分離独立の機運が高まっているのを言っているのである。10月の選挙後は、ツイッターで連邦政府からの離反、独立を支持するWexitの投稿が増え、温暖化対策を最優先政策としてトルドー首相を支持する東部の州との間で対立が深まっていると、報じられている。

トルドー首相のもとで自由党政府が進める炭素税などの地球温暖化対策や、エネルギー政策、特に石油の輸出を拡大するためのパイプライン建設の遅れなどに不満を募らせているアルバータ州とサスカチュワン州の住民が今回の選挙で不満を爆発させたのである。彼らの多くは、連邦政府から、オンタリオやケベックなどの東部の州と同じように公平な分け前を得ていないという思いからくる、彼らの不満と怒り、反トルドーの感情と分離主義への共感はすでに今年春のアルバータ州の選挙で連合保守党のジェイソン・ケニー氏を州首相に選んだのであった。

カナダの西部だけではない。フランス語圏の東部ケベック州でも、ケベックの主権獲得を掲げるブロック・ケベコワが2015年の前回選挙から22議席増やして32議席を獲得したのだ。

「カナダ国民がこれほど分断したことはない」とトロントのパーパス・インベストメンツ・ポートフォリオ・マネジャー、グレッグ・テイラー氏は語っている(ロイター通信)。この状況に対応するのに、トルドー首相は選挙後の新内閣を組閣するにあたって、前政権から最も有能で信頼するクリスティア・フリーランド前外務大臣を副首相兼政府間関係大臣に起用した。アルバータ州北部の農家で育った彼女は、トルドー第1期政権の外相として北米自由貿易協定(NAFTA)を改定した米国・カナダ・メキシコ協定(USCMA)の合意で発揮した手腕で、こんどは、アルバータ、サスカチュワン両州をなだめ、カナダの分断を回避する働きが期待されている。元フィナンシャル・タイムズの副編集長で、ハーバード、オックスフォード両名門大学出の彼女は、頭もよくて有能で、トルドー首相の後継者ともみなされている。

さらに、首相は、トルドー政権に入閣し両州の利益を連邦政府の政策に反映させる与党議員がいなくなったことに配慮し、資源相や国際貿易多様化相を務めたマニトバ州ウィニペグ選出のジム・カー氏を「アルバータ、サスカチュワン、マニトバ州の住民が連邦政府に強力な発言力を持つことを保証する」(首相官邸)ために、プレイリー地域特別代表に指名した。

また、厳格な環境基準を導入したマッケナ環境・気候変動相はインフラ・地域社会相に転出し、アルバータ州と太平洋岸をつなぐ石油パイプライン拡張案を支持しているジョナサン・ウィルキンソン氏が後任に就いた。

これを受けて、トルドー政権は早速プレイリー諸州との関係改善に動き出した。フリーランド副首相は11月25日に州都エドモントンにジェイソン・ケニー・アルバータ州首相を訪ねて会談した。翌26日には、スコット・モー・サスカチュワン州首相と州都レジャイナで会談、10月の選挙で噴き出した両州のトルドー政権に対する不満や怒りの声を聴く姿勢を示した。両州首相は、もちろん、ともに保守党。会談は、今後の関係改善につなげるためにトルドー政府がまず両州の言い分を聴くための第一歩であって、実質的なものはなかったが、それでも、アルバータのケニー州首相からは、アルバータ州出身のフリーランド副首相に温かい歓迎があり、サスカチュワン州のモー州首相からも、初会談は友好的で前向きの雰囲気で、勇気づけられたとして、まあまあのスタートを切った。もちろん両州の州首相は、連邦政府と両州の関係を「リセット」するほどに改善するには、大胆な政策の変更が必要だと強調するのを忘れていないだけに、関係が実際に進むのか、予断は許さない。

12月5日召集される国会でジュリー・ペイエット・カナダ総督が代読するトルドー首相の施政方針演説に、新しい議員たちが賛成反対の投票をすることになっている。トルドー首相の少数与党政権にとっては、今後生き残れるのかを占う選挙後初の信任投票になる。

 

― 石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

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