マリファナの合法化とオピオイド危機

カナダ議会は、ジャスティン・トルドー首相が選挙公約にしていた娯楽用マリファナの使用を合法化する法案(”Cannabis Act”)を6月に上院で可決した。1923年に禁止されてから、実に95年ぶりに解禁される。

州政府が合法化への移行をスムーズに行うための準備期間を考慮して、実施は今年10月からとすることを首相が決定。これで、世界の先進国の中で、医療用マリファナだけでなく、娯楽用マリファナも含めたマリファナの完全な合法化に全国レベルで踏み切るのは、カナダが最初で唯一の国になった(米国では州によって、娯楽用マリファナを合法にしているところはあるが、連邦政府では、禁止している)。全世界でも、ウルグアイに次いで2番目。

さらに、「連邦政府は、マリファナをアルコールやたばこと同様に扱う」(トルドー首相)として、少量のマリファナの自宅栽培は合法としているが、自宅でのマリファナ栽培については各州政府が決めることができるとして、個人のマリファナ栽培を禁止しているマニトバ州やケベック州に配慮した形となった。

これで、18歳以上のカナダ人は、個人で30グラムまでのマリファナを所持することができるが、未成年に渡した場合は、厳罰に処される。

また、これによって、合法的な数十、数百億カナダドルのマリファナ関連産業が出現することになると報道されている。認可を受けた製造業者は、乾燥マリファナを全国の承認された小売業者に出荷することができ、小売業者はメールの注文に応じて配送することもできる。(「グローブ・アンド・メール」6月19日、6月20日)

しかし、すでに2015年の総選挙で自由党が娯楽用マリファナの合法化を公約したこともあり、さらに、カナダでは、医療用マリファナが2001年に合法化されており、5万人の正式に許可を受けた医療用マリファナ使用者がいて、その上、娯楽用(嗜好品としての)マリファナの使用が禁止されている現在でも、保健省によるとマリファナの利用者は全国で50万人もいるというのだから、今さら、マリファナの合法化といわれても、デジャブの感がある。

そんな、マリファナ合理化の陰で、カナダではもっと深刻な事態が進んでいる。

マリファナ完全合法化の法案が連邦議会で可決した同じ週に、カナダは、米国に次いで、強力な(合法的)医療用麻薬であるオピオイドの乱用によって、昨年1年間で4,000人近くが死亡していることが政府から発表された。これは毎日11人がオピオイドで死んでいることになる。2時間ちょっとで1人死ぬということなのだ。(「グローブ・アンド・メール」6月20日)

オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取などによる死者数3,987人というのは前年比34%、1,126人も増えたことになり、エイズ(後天性免疫不全症候群)が猛威を振るったピーク時の死者の数よりも多くなった。カナダ政府は、これが「カナダの国民健康の危機」、「オピオイド危機」だとして危機感を募らせている。オピオイドとは、ケシ(opium)から採取されるアルカロイド(オピエート)や、そこから合成される化合物で、強力な鎮痛作用があり、医療において手術やがんの強い痛みの管理に不可欠となっている。

中でも、(処方すなわち合法、および違法の)フェンタニルによる死亡者が72%も占め、2016年の55%から急増している。また、死亡者のほとんどが男性で、過剰摂取による死亡事故で最も多かったのは、フェンタニルを路上の麻薬密売人から違法に入手した30~39歳の男性のケースで、全体の30%を占めた。フェンタニルというのは、ヘロインの30~50倍、モルヒネの50~100倍の強力な鎮痛作用を持つ合成麻薬で、オピオイドとして医者が処方するもののほか、個人や麻薬密売組織が中国から密輸入してフェンタニルの粉末を錠剤にするだけで、オピオイド中毒者に路上などで売るものがある。

2017年のオピオイドによる総死者数の90%近くがアルバータ州、ブリティッシュ・コロンビア州、オンタリオ州の3州に集中している。中でも、ブリティッシュ・コロンビア州では1,399人、オンタリオ州では1,127人、アルバータ州では714人で、この3州だけで、4,000人中3,240人になる。

カナダの「オピオイド危機」は、オキシコドン(oxycodone)、ヒドロモルフォン(hydromorphone)、フェンタニルなどのオピオイド医薬品の国民一人当たり消費量が米国に次いで大きいことで、その重大さがわかる。

だから、最大のオピオイド消費国・米国では、2017年10月に、事態の重大性に危機感を抱いたトランプ大統領が、「公衆衛生上の緊急事態」を宣言。2015年に3万3,000人がオピオイド系鎮痛剤の乱用で死んでいるが、2016年には死者の数はさらに増えて「最悪の規模」(国連薬物犯罪事務所UNODCの報告書)に上った。米国では毎日100人が過剰摂取で死亡している。FDAの別の数字では、オピオイドだけではない薬物の過剰摂取からの死亡者数は2016年、5万9,000人以上といわれている。(「フィナンシャル・タイムズ」17年12月12日)あのマイケル・ジャクソンは「オキシコンチン」と「デメロール」の2種のオピオイドを毎日服用していた。死ぬ直前にデメロールの注射を受けていたと報じられた。

カナダ政府も手を拱いているわけではない。カナダ保健省は、まずオピオイドの合法的な使用をより厳しく制限し、オピオイドの製薬会社のマーケティングや製品のプロモーションの仕方も改善するようにメーカーに呼びかけている。

そもそも、カナダにオピオイドが広がったきっかけは、1996年にパーデュー・ファーマのオキシコンチン(OxyContin、オキシコドンの製品名、半合成麻薬)が、より薬物依存性が少ない、痛みを緩和する処方薬として認められたことによる。それまで、主に末期がんの患者に使われていたオピオイドが、より広く処方されるようになってから、今日の「危機的」なまん延状態にまでなったのだ。

パーデューは、オキシコンチンは、他のオピオイドより安全で、依存性が少ないとして、医者に、痛みの軽い症状にも広くオキシコンチンを処方するように働きかけ、多くの医者が、これをより一般的な腰痛から原因不明の全身に激しい痛みがあらわれる線維筋痛症(ファイブロマイジア)という中高年の女性が多くかかる難病にも広く使えると言われて、今日まで、オピオイドの過剰処方につながっているという。(「グローブ・アンド・メール」6月27日)(あのレディ・ガガがこの痛みのために昨年活動中止にまで追い込まれた)

オピオイドを処方された患者は当初痛みを緩和するのに使用したのが、痛みがなくなって、必要がなくなった後も、あの麻薬によって得られる恍惚感や高揚感をまた味わいたくなって、オピオイド依存症になるという。そして医者も気前よくオピオイドを処方してくれる。パーデューは2012年に、オキシコンチンの宣伝の仕方が「ミスリーディング」であったとして、米国での販売はやめたが、カナダでのマーケティング活動は、カナダ保健省の呼びかけに応えて、一切の宣伝や医者への売り込みを止めることにしたばかりだが、つい最近まで続いていた。

カナダ政府はまた違法フェンタニルの一大供給国・中国などからの密輸の取り締まりを強化する措置をとる一方、違法オピオイドの売人や犯罪組織の取り締まりも強化している。しかし、需要がなくならない上に、オピオイドの供給過剰という状態が一向に変わらない限りは、「オピオイド危機」の解決は遠い。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

 

Page Top