カナダカケス、カナダの国鳥に

今回は、鳥の話。ついにカナダで、カナダの国鳥が決まりそうだ。
世界の多くの国は、その国を象徴する鳥を国鳥(national bird)として定めている。日本の国鳥はキジ(Japanese green pheasant)と、昭和22年(1947年)に日本鳥学会が決めた。アメリカが1782年にハクトウワシ(bold eagle)を国鳥に決めたことから始まって、イギリスはヨーロッパコマドリ(European robin)、インドはインドクジャク(Indian peacock)などと広がった。しかし、自然が豊かで450種以上もの鳥がいるカナダでは、決まった国鳥がいなかった。

それで、熱心なカナダの鳥研究者や愛好家が、「王立カナダ地理学協会」と一緒になって2年もかけて、カナダの建国150周年を迎えた昨年の7月1日に合わせて、カナダの国鳥となるべき候補の鳥を彼らで選んで発表したのだが、トルドー首相の連邦政府は、今はその計画はない、とのつれない返事。結局150周年には間に合わなかった。

カナダには、現在カナダの動物とかカナダの花とか、議会で法律を通して、決められたものがいくつかある。一番有名なのは、ビーバーだろう。サトウカエデ(の葉)は1964年に制定された国旗の真ん中に使われていて、国花であり国樹なのだ。

そんな中、カナダの国鳥の問題はこの春になって、大きく羽ばたいたのである。
一番のきっかけは、この鳥の現在の英語の名前があまりぱっとしない“gray jay”から、昔の名前の“Canada jay”に近く戻されるからだという。(「グローブ・アンド・メール」5月21日) どちらも、日本語では、「カナダカケス」といい、日本の里山で広くみられるカケスの仲間である。メジャーリーグのトロント・ブルージェイズは、オンタリオ州トロントに多く見られる青い鳥“blue jay”(アオカケス)である。

「カナダカケス」がカナダのシンボルである国鳥にふさわしい理由はいろいろあるが、今度、鳥の名前が60年ぶりに、元の“Canada jay”に戻れば、何よりも条件は完璧になる、とこの鳥をカナダの国鳥に認めさせようとがんばってきた鳥類学者でモントリオールのマギル大学(McGill University)名誉教授デビッド・バード氏は興奮気味である。(ついでに、教授のBirdという名前は、本名である。)

カナダカケスは、英語で、1800年代以来ずっと“Canada jay”と呼ばれてきたのに、1957年に、「アメリカ鳥学会」が一方的に、オレゴンカケスとカナダカケスを一緒くたにして“gray jay”と変更したのだ。(学名Latin nameはPerisoreus canadensisで、ちゃんとcanadaが入っている。フランス語でもMesangeai du Canadaと、Canadaなのだ。)しかも、カナダ人にとって許しがたいのは、このカナダの鳥の英語のスペリングをアメリカ綴りの“gray”としたことである。カナダの一部の新聞では、今でも、“grey jay” とイギリス綴り(カナダ綴り)にこだわって書いている。(「トロント・スター」17年7月6日)

“Gray jay” はまた、“whiskey jack”としても知られている。これは、カナダの先住民の民話の中に出てくる“wisakedjak”から来ているのだそうだ。ここでも、カナダの鳥類学者たちは、アメリカの鳥学者たちが、スコッチやカナディアンウイスキーを意味する“whisky”からバーボンなどアメリカのウイスキーを指す “whiskey”に綴りを変えたと言って、怒っている。だから、彼らはwhisky jackと綴る。アメリカ人は“bold eagle”(ハクトウワシ)のことを“American eagle”と自分たちにいいように呼び変えているのだから、カナダでは、gray jayといわずCanada jayと好きなように呼べばいいのだと、バード博士は自分勝手なアメリカ人の命名に憤懣やるかたない様子だ。因みに、この種のカケス類の鳥をjayというのは、そのジェー、ジェーという鳴き声からついたもの。しゃがれ声のような鳴き声でジェー、ジェーというのは美しい青色の羽を持った姿に似合わないが、お愛嬌である。

閑話休題。この鳥の名前が、いよいよ元の“Canada jay”に変更されることがアメリカ鳥学会の機関誌7月号で発表されることになった。このニュースはカナダの鳥愛好家や研究家の間に瞬く間に広がって、カナダカケスがカナダの国鳥になる資格はますます整うことになる。国鳥に決まるのも時間の問題と見られている。

そもそもカナダの国鳥選びが始まったのが、2015年1月。上にも述べたように、2017年のカナダ建国150周年に合わせて、カナダの国鳥を選んで、連邦政府に正式に認定してもらおうということだった。王立カナダ地理学協会は、「カナダ国鳥プロジェクト」なるものを立ち上げ、18カ月の間、ウェブサイトで国民に投票してもらい、討論会を行い、パブリックコメントや鳥学者、鳥愛好家のコメントを集め、カナダにいる450種の鳥の中から、ハシグロアビ(カナダの1ドル硬貨に描かれている)、シロフクロウ、アメリカコガラとカナダカケスの4種に絞られた後、16年11月にはカナダカケスが最終的に彼らの国鳥に選ばれたと発表された。5万人以上ものカナダ国民がこの「国鳥コンテスト」で投票し、参加した。しかし、カナダ政府はカナダを象徴する国鳥を採用しなかった。カナダカケスが問題なのでなくて、「何か新しい国のシンボルをこれ以上選ぶ予定はない」というのが、政府の説明の決まり文句。

カナダカケスがカナダの国鳥としてふさわしいことを、先のバード教授は、これほどカナダの国鳥にぴったりの鳥はほかにいない、と熱を込めて、こう説明する。

まず、カナダのほとんど全土で見られること。国鳥であるためには、これが最も大事。それに、カナダの州や準州で、州の鳥や準州の鳥にすでに選ばれていないこと。今回の「国鳥コンテスト」で上位に入った他の鳥たちは、すでに州の鳥に認定されている。(ハシグロアビはオンタリオ州、シロフクロウはケベック州、アメリカコガラはニューブランズウィック州のそれぞれ州鳥である。)

そして、1年中カナダで見られること。渡り鳥でないからカナダを離れることがない。カナダガンやアビが冬に南に渡って行って、1年の半分ぐらいカナダを留守にするけれども、カナダカケスはカナダの北部の森に留まり、2月まだ雪深い中でも巣作りをする。このタフで頑強で、凍りつくように寒い冬に強い鳥はカナダ国民の特性にふさわしい。

もう一つ、カナダ建国の前から、先住民の猟師やヨーロッパから来た冒険家にいつもついて回っていた鳥で、本当は“wisakedjak”という森の使者であり、道に迷った彼らを、カナダカケスの姿に変えて、道案内をして、救ってくれるという先住民の言い伝えがある。現代では鉱山や製材所、自然観察・研究所などにやってきて、そこで働く人たちや、ハイカー、スキーヤーについてくる。肩や腕にとまって食べ物をねだったりと愛嬌ものだ。カラス科の鳥で、頭もよくて、人なつっこく、いつも元気いっぱい―まるでカナダ人と同じだとバード教授は言う。

これまで目立った実績のないトルドー政権が、今年、カナダの国鳥を決める余裕があるかどうかわからないが、バード教授はじめ、カナダの鳥学者や鳥愛好家は、政府がカナダカケスをカナダの国鳥に正式に認定するよう、カナダ全土を回って100万人の署名を集めると意気込んでいる。

カナダカケスが表紙になったCanadian Geographic の写真を以下のリンクからご覧ください。
http://www.cbc.ca/news/canada/nova-scotia/national-bird-grey-jay-canada-150-1.4187987

― トークス シニア・コンサルタント 石塚嘉一

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