カナダの大学に入学する外国人学生が急増している

カナダの大学が今外国の学生に人気だ。中でもカナダの多様性や自由な雰囲気に惹かれる米国の学生が増えているとカナダのメディアが伝えている。

「グローブ・アンド・メール」(5月14日)の報道によると、この秋から始まる新学期には、これまでにない位の数の外国人学生が入学してくるという。大学の中には、こういう学生の入学が25%以上も増えるところもあって、これらの大学では、政治的不安や国内の対立と分断で世界が不安定化する中、カナダは彼らにとっては比較的寛容で安定した場所として映っているのだろう、と説明している。

今年の外国人学生の入学申請はどこも二桁の伸びを示していて、特に米国の学生は過去最高レベルに達しているという。その大きな理由がドナルド・トランプ大統領の就任だという見方がある。

例えば、アルバータ大学の場合は、今年秋の新学期に入学してくる外国の学生は昨年と比べて27%も増えた。入学申請がそのまま実際の入学につながる訳ではないが、外国からの大学院入学申請は82%も増えた。デビッド・ターピン学長は、米国や欧州に広がる孤立主義、排他主義の高まりが、彼らをカナダに向かわせているのだと言う。そして、外国の優秀な学生が、多民族から成るカナダの多様性や寛容、自由の価値の中で学んで帰国したあと、彼ら卒業生たちとカナダとのつながりが続くことは将来のカナダの発展にとって重要な役割を果たすことになる、と期待を語る。

他の大学でも、同じような傾向が見られる。カナダで最も評価の高いトロント大学は、この1年を通じて米国で学生を募集してきた結果、今秋入学する米学生の割合は2倍に増えたという。オンタリオ州キングストンにあるクイーンズ大学では外国人学生の入学は40%増えた。さらに、同州セントキャサリンズのブロック大学のように、もっと小さい大学でも、この秋の新学期にはこれまでより30%も多くの外国人学生が入学してくるとしている。

この傾向は、MBA(master of business administration 経営学修士号)を取得するためのビジネススクール(経営大学院ともいわれる)の場合も同じだ。例えば、トロント大学のロットマン・マネジメント・スクール(Rotman School of Management)は3月の入学願書の段階で、外国人学生はすでに34%も前年より増えている。ここでは2016年にも、応募は2015年比20%もの増加を記録している。

これに対して、今年3月にリリースされた調査結果によると、米国の250の総合大学(university)および単科大学(college)のうち39%が、ビジネススクールだけでなく全ての学部に対して、外国人学生の入学申請が前年より減少したと回答している。American Association of Collegiate Registrars and Admission Officers(米国大学教務部長・入学審査部長協会)によるこの調査では、35%は入学申請が増加、26%は変化がなかった、と回答している(「グローブ・アンド・メール」3月20日)。

外国の学生がカナダを選ぶ大きな理由の一つは、カナダの移民政策が外国からの留学生にとって留学中も卒業後も「優しい」からだ。MBAのためのビジネススクールで有名な英国や米国の厳しい「反移民」のような政策とはちがって、たとえば、カナダでは条件さえ整えば(卒業証書があれば、その他)卒業後の就労許可証(post-graduation work permit)が容易に得られる。カナダ連邦移民局が2008年に改訂したこの制度では、最長3年間有効のオープンワークビザが取得でき、また雇用主のオファーがなくてもワークビザを申請することができる。

ウガンダから来たヘレン・コブシンゲさんは、今春オンタリオ州のクイーンズ大学スミス・スクール・オブ・ビジネスを卒業、現在キングストンで世界的会計事務所KMPGの上級会計士として働いている。彼女は、この制度があるため、カナダは他の国よりはるかにいいと言っている(「グローブ・アンド・メール」6月8日)。いま彼女のようなアフリカの小国から来た国際留学生が増えており、世界で学生が好む留学先としてカナダの人気を押し上げているのだという。

米国のGraduate Management Admission Councilの世界のビジネススクールに関するデータによると、2009年から2016年の間にカナダは、外国人学生の留学先として、トップ5に入った。米国と英国が常に留学先のトップ2なのだが、昨年、アフリカからのMBA留学生の人気の留学先としてカナダが2位に入った(2009年5位)。同じ年、中央・南アジアからの留学生にとってカナダは3位に(2009年5位)なり、米国および中東からの留学生にとってカナダは5番目に行きたい留学先であった。

GMACのグレッグ・ショーンフェルト研究部長は、上記のようなカナダ政府の政策が外国の学生のカナダへのシフトに大きな影響を与えていると言う。カナダの「移民に優しい」というイメージは、間違いなく海外の学生をリクルートしてくるのに有効なツールになっている、と言う。大学としたら、カナダのワークビザ、就労許可証や学生ビザを取得する時の容易さを、大いに利用したいだろうと、ショーンフェルト氏は言う。3年の就労許可があれば、コブシンゲさんのような卒業生にとっては、カナダの永住権を申請して獲得する時間を与えられることになる。

外国人学生が増えたからといって、カナダ人学生の入学がその分減らされることにはならない。留学生が増えることは、カナダの多くの大学にとって、授業料収入が増えるということにとどまらず、より多くの入学希望者の中から優秀な学生を選べるという効果があり、さらに、多くの外国人学生が入ってくることで、大学の教室のグローバル化や多様性がますます高まり、キャンパスではカナダ人学生が世界各地からやってくる学生たちと交流することができ、それがまた、外国から多くの留学生が来たがる理由の一つになっているという。

留学生が増えることへの対策も大学はいろいろとっている。ブリティッシュ・コロンビア州のビクトリア大学ビジネススクールのデービッド・ダンMBAプログラム担当部長は、「学生が遠い外国からやってきて、カナダの文化に入り込むのは易しいことではない。大学としては、外国人の学生をサポートするような環境を作る責任がある。海外からの留学生がMBAコース全体の3分の2を占めるこのビジネススクールでは、全員が”sustainability” について学ぶために森林など野外で過ごす時間も含めた3週間のオリエンテーションに参加する」と言う。その中には、カナダの先住民である地元のファースト・ネーションに会うプログラムも含まれている。

また、この外国の学生のカナダに対する関心の高まりは、このような手厚い留学生対策だけでなく、カナダの大学、特にビジネススクールへの留学が卒業後の良い仕事に就けるという保証がなければ長続きしないかもしれない、と警告する大学関係者もいる。

カナダの大学に対する関心の高まりは学生だけではない。研究者のカナダの研究環境に対する関心も高まっているという。これには、学生と同様、外国の政治的状況や研究環境の悪化という要素がカナダに目を向けさせているという事情もあるが、一方で、カナダの大学や州・都市が優秀な科学者を招致しようとする努力の結果でもある(「グローブ・アンド・メール」5月14日)。

カナダの多くの有名大学はいま、世界的に著名な実績のある研究者や教授たちをリクルートしてレベルアップするという野心的な国際化の努力の真最中だという。例えばブリティッシュ・コロンビア大学では、外国の学生から入る授業料を資金にして、学長の特別研究ポストを設け、世界的に優秀な学者をそのポストに招致しようとする制度を作っている。計画では、6つの重要な研究分野で「チェア」を設け、それぞれ1,000万~1,500万カナダドル(8億5,000万~12億7,500万円)の研究費が、研究室とか研究チームを立ち上げるために提供される。

これは、大学側からの積極的な招聘努力によるもので、このほかに、外国の研究者や教授からポストを求めての問い合わせも増えている。同大学のサンタ・オノ学長によると、世界中からカナダに移りたいという研究者や教授からの非常に熱心な問い合わせが来ているという。

しかし、これらの教授や研究者が、米国でのトランプ政権の誕生や欧州の政治の保守化や分裂などで窮屈になった環境を逃れて「知的難民」としてカナダにやってくるのか、カナダの大学の魅力的な研究環境と国際化努力の中での有利なオファーの提供によるものなのか、はっきりしないという慎重な見方をする大学関係者もいる。多分両方なのだろう。

トロント大学コンピュータサイエンス学部ではここ2年で約20人の教授を新しく雇った。米国流のハイテク技術に強くて、米国らしいエネルギーにあふれた研究環境と欧州のセーフティーネット的なものをあわせ持ったのがカナダの良いところなのだが、こういうカナダの良いところが最近の世界の情勢によって、一層強化され、魅力的になったのだと、この学部のチェア、ラビン・バラクリシュナン教授は言う。ある程度の研究費が保証され他の教授たちと協力して仕事ができるというのは、特に新米の教授や研究者にとっては、その大学に来る何よりも重要な要件なのだという。

 

石塚嘉一 トークス シニア・コンサルタント

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