最新型車両の納入が大幅に遅れるトロントの路面電車

カナダ最大の都市トロントの路面電車は、利用者や車両の数、軌道の距離で、南北アメリカで最大のシステムである。19世紀半ばに馬車による運行を開始してからの歴史を誇る、北米でも数少ない現存する路面電車のひとつだ。

そのトロントの路面電車に、最新型の大型で、より安全で超低床で乗りやすいライトレール式車両で、カナダの国旗を思わせる赤のボディーの上と下に白のラインが入った、21世紀モデルが加わった。今年4月で、17台が市内を走っている。17台しか走っていない、というべきか。

本当なら今年の今頃は、少なくともこの4倍以上の数のかっこいい新型路面電車がトロントの通勤客や通学の学生、買い物客など、1日平均29万人以上の利用客を乗せて走っているはずだった。

もともとトロント交通局(トロント・トランジット・コミッションTTC)は、2019年までに市内の路面電車にこの新型車両を投入する計画で2009年モントリオールに本拠を置く世界3位の民間航空機メーカー、ボンバルディアの鉄道部門に204両を12億5千万カナダドルで発注したのだ。

そして、最初の計画では、2015年末までに、73台の新型路面電車がトロント市内を走るはずだったのが、実際にTTCに納入されたのは、やっと14台。今年1月以降に3台が納入されたがそれでも全部で17台だ。

納入のたびたびの遅れに対する市当局やTTC、市民の批判をうけて、ボンバルディアは4月末に納入計画の変更、納入台数の下方修正を発表したけれども、これがまた、同社が今年初めに約束した下方修正もさらに下回る納入計画で、市長やTTC会長は怒り心頭の様子。ついにトロント側はボンバルディアを契約違反で損害賠償の訴えを起こした。

4月25日に発表された計画変更では、路面電車車両の製造を「大幅に加速する」結果、同社は、TTCに2016年末までに計30台を納入するというもの。ということは、すでに、17台が納入されているのだから、今後年末までに納入されるのは13台ということになる。これは1月平均2台にもならない。納入の遅れを考えたらちょっと考えられない驚くべき生産ペースである。

直前の3月に修正された生産計画では、4月以降毎月4台を製造・納入して、今年末には全部で54台が納入されことになるとしていた。これでも当初の計画の2015年までに73台と比べれば、大幅な遅れだが、それが4月のさらなる変更で、約束通り行ったとしても、たった30台にしかならないのだから、トロント市や利用者、納税者である市民が怒るのもむりはない。

この大幅な納入遅れのため、TTCはサービスのレベルを維持するために、すでに古くなった200台以上の古い型の路面電車を改装、整備して電車の寿命を延ばし、路線によってはバスを追加投入して新型車両が入るまで何とか持ちこたえなければならない。さらに利用者にとっては、本来ならば今ごろはゆったりした最新型車両に乗って移動できるところを、小さい旧型の電車に詰め込まれて通勤したり通学したりしなければならない。

ついには、TTCはボンバルディアを契約不履行で訴え損害賠償を要求しているが、裁判で認められれば、12億5千万カナダドルの発注額の上限5%、5,100万カナダドル(約46億円)が支払われる。しかし、納入遅れによって生じた現有車両のメンテナンスなどあらゆるコストをカバーするのには十分ではない。

ボンバルディア側も全く何もしていないわけではない。最近北米地域鉄道担当社長を交代させ、TTC向け路面電車の納入ペースの加速のためケベック州ラ・ポカティエールの製造工場を第2工場として使うことを決定した。(「トロント・スター」4月25日)さらに、別の工場の組み立てラインを使って、現在オンタリオ州サンダーベイだけで製造されている生産ペースを上げるとしている。

製造・納入遅れの原因の一つであった、ボンバルディアが同社のメキシコ工場で作っている部品の欠陥問題や品質管理の問題は、ラ・ポカティエール工場で部品を製造することで、解決できると説明している。

これで、ボンバルディアは契約どおり、2019年末までに204台すべてを完全に納入することができると言うが、これまでのボンバルディアの「実績」を考えたら、トロントでは誰もあまり本気にはしていない。TTCのアンディ・バイフォードCEOはボンバルディアが本当に契約を履行できるのか、最後の電車が届くのを見るまで約束を信じられない、として「我々は怒り心頭だ」と述べて不信感を露わにしている。ジョン・トーリー市長は、「愕然としている。ビジネスのやり方としてなっていない」と怒りが収まらない。

このトロントの路面電車での納入遅れは、さらにグレータートロントとオンタリオ州ハミルトン地域をつなぐ地域間鉄道システムであるメトロリンクス(Metrolinx)の新しいライトレール計画に影響が出そうな様相を示している。

「グローブ・アンド・メール」(4月26日)によれば、2021年開通予定の2路線に使う新しい車両の7億7千万カナダドルに上る購入計画についても、メトロリンクスの首脳陣の間には、ボンバルディアから予定通り車両が納入されないで、新路線開通ができなくなるのではないかと不安が広がっている。昨年中に納入されるはずの新型車両の試作車がいまだに納入されていないというのだ。試作車両が納入されても、これから開通までにボンバルディアは契約の182両を期限までに製造して納入できるのだろうか。

カナダの主要紙がいうまでもなく、カナダ最大の都市で起こっている路面電車納入の大幅遅れは、ボンバルディアの評価を大いに下げることになっている。資金繰りの問題を抱えたボンバルディアの航空機部門が、次世代ジェット旅客機Cシリーズ機計画に対しカナダ連邦政府に10億米ドルの支援を求めている。

「トロント・スター」は社説(4月26日)で、「路面電車の問題が航空機計画と関係がないという議論は通らない。路面電車の納入が予定通りできなければ、航空機でも契約通りの納入ができるという保証はない。これは信頼の問題だからカナダ政府はよく考えなければならない」と述べている。

(最新のニュースによると、ボンバルディアは5月2日、デルタ航空がCS100の125機購入を正式契約したと発表した。2月にエア・カナダがCS300(Cシリーズの大型機)75機の購入を発表したのに次ぐもので、最大の契約数だ。昨年末まで1機の契約も取れなかったボンバルディアにとっては、これは喜ばしいニュースではある。契約通り納入できればの話だが。)

 

石塚嘉一、トークス シニア・コンサルタント

※参考:グローブ・アンド・メールの路面電車の納入遅れに関する記事(英語)。車両の写真が掲載されています。

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