マリファナの完全合法化に進むカナダ

カナダでは自由党政権が選挙で公約した嗜好品としてのマリファナの合法化に向けた動きが進んでいる。

合法化のための法制化には、多くの問題をクリアしなければならないので、嗜好品としてのマリファナ(recreational marijuana)が今すぐ簡単に買えるようになるのでないことは誰にでもわかるが、それでも、マリファナ解禁を歓迎する国民やマリファナ生産業者の中には、今年中にもマリファナの全面的な合法化ができるような期待が盛り上がっている。

昨年10月の選挙でジャスティン・トルドーの自由党政権ができることになった時には、マリファナ関連株が急騰した。すでに合法化されている医療用マリファナの製造会社の株がトロントベンチャー取引所で、一時7%高まで急伸した。

就任直後、トルドー首相は公約実現のための検討を指示、そのためのタスクフォースを設置して責任者としてビル・ブレア国会議員(元トロント警察署長)を法務政務次官に任命した。ブレア氏は今後、合法化にあたって、さまざまの問題への対応を考えて合法化への道筋をつける。どこで売るか、誰が栽培できるか、規制はどうするか、消費税などの課税は、などだ。そして何よりも、合法化によって規制を厳しくしてマリファナが子供の手にわたらないようにすることと、闇社会へマリファナの資金が流れないようにすることが、トルドー党首がマリファナ合法化を公約した大きな理由なのだ。

このような動きを見て、カナダのマスコミも年初には、マリファナが今にも合法化されそうな記事を書いていたが、ここにきてそのトーンはより慎重になっている。州政府との調整なども考えると、2年はかかるのではないか、悪くすると4年先の次の国政選挙までかかるのではないかという見方も出ている。

それでも合法化への期待は高まっている。最近の世論調査によると、68%の国民が「大いに」または「ある程度」マリファナの合法化に賛成していることがわかった。(「グローブ・アンド・メール」2月29日)州別ではブリティッシュ・コロンビアが75%と最も高い支持を示している。「反対」または「ある程度反対」は30%。

「グローブ・アンド・メール」とナノス・リサーチが1,000人のカナダ国民に行ったこの調査では、もう一つの大きな問題である、どこで売るのがよいかについて、44%がマリファナ専門の薬局(ディスペンサリーと呼ばれる)を支持、一般の薬局がよいとするのが43%で、キャスリーン・ウィン・オンタリオ州首相(と業界)が提案している政府規制の酒販売店は36%の支持しか集められなかった。コンビニがよいと答えたのは3.2%。もちろん、連邦政府は、ブレア担当官も保健省大臣もどこがよいと思うか、まだ明らかにしていない。

カナダでは、すでに2001年に、保守党政権下で医療用マリファナ(medical marijuana)が合法化されており、50,000人の正式に許可を受けた医療用マリファナ使用者がいて認可を受けたマリファナ製造業者26社がマリファナを栽培して製品を供給している。彼らはすべて保健省の規制を厳しく受けている。(「グローブ・アンド・メール」1月5日)マリファナの合法化を公約する自由党政権になって、これらの数字が上がるものとみられているが、嗜好としてのマリファナが非合法な現在の制度でも、保健省によると、マリファナ利用者はカナダ全国で50万人もいるという。(「グローブ・アンド・メール」2月26日)

病気や怪我をした人が苦痛を和らげる目的で医療用として医者の処方箋があれば、認可されたマリファナ専門の薬局(いわゆるマリファナ薬局、marijuana dispensary)で合法的に買うことができる。この医療用マリファナの市場規模は、8,000万から1億カナダドルと推定されているが、嗜好品マリファナが合法化されれば、20億~50億カナダドルにもなる可能性がある。だから、薬局の業界や酒販売業界が、自分たちに売らせろと躍起になってロビー活動を繰り広げている。

保守党政権が医療用マリファナを合法化した当初、医療用マリファナを処方される患者は、自宅でマリファナを栽培するか、誰かに栽培を委託してマリファナを手に入れることが認められていた。その制度のもとでマリファナ栽培・生産の許可は2002年の500程度から2012年には2万2,000にまで膨れ上がった。(「グローブ・アンド・メール」2月26日)

マリファナ使用者と栽培者の増加に危機感を抱いた保守党のハーパー政権は計画を変更、栽培者や製造会社の規制をより厳しくし、安全で品質の高いマリファナ製品を供給できるように個人のマリファナ栽培者・業者を排除、製品はメールオーダーで注文して入手しなければならなくなった。その結果、コストが、まともなマリファナユーザーには法外なものに高騰、これに不満なユーザーたちが集団提訴をして、今年2月に連邦裁判の差し止めを認める判決を獲得した。

その結果、古い制度と新しい制度の両方が残ることになり、この隙をついてライセンスを持たないマリファナ薬局がバンクーバーなどブリティッシュ・コロンビア州に次々に出現、それがトロントなどに広がっていると報じられている。保守党政権下で医療用マリファナの処方を出すのを自主規制気味だった医師たちも、マリファナの合法化を約束している自由党政権では、マリファナの処方箋が増えると見られている。確かに、からだのどこかが痛いと言えば簡単に医師からマリファナの処方箋がもらえるし、バンクーバーの不法なマリファナ・ディスペンサリーに行けば、処方箋なしでも頭が痛いと言えば(あるいは言わなくても)売ってくれるので、カナダのマリファナ人口はどんどん膨れている。

カナダはすでにマリファナ部門で世界のリーダーだといわれる所以だ。

合法化は、連邦政府、州政府の税収にも影響する。CIBC(カナダ帝国商業銀行)の調査によると、合法化された場合の嗜好品としてのマリファナからの税収は年間50億カナダドルに上ると見積もられる。これは、カナダの嗜好品マリファナの消費傾向から計算した合法化後の消費傾向を、ひと足先に2012年にマリファナを合法化した米国コロラド州のケーススタディによって出している。税率は、酒類やたばこなどにかけるいわゆる「シン・タックス」(sin tax悪行税)のレートを当てはめている。あまり税率を高くすると、合法なのにマリファナ商品の価格が高くなりすぎて、マリファナのユーザーたちはより安いマリファナを求めてブラックマーケットに行くため、犯罪組織に資金が流れることになる。

コロラド州では、合法化によって州の税収が大幅に増えたといわれるが、トルドー首相は、合法化されたマリファナの売上や税収は、精神衛生問題や薬物依存問題のために使うので、金もうけが主眼ではないことを強調している。

コロラド州や、ワシントン州、オレゴン州などの例に見られるように、合法化されれば、マリファナの売上だけでなく、マリファナが合法化されていない国などからマリファナを買って楽しむための「ポット(マリファナ)・ツーリズム」でカナダに来る観光客が増えることも期待される。

嗜好品としてのマリファナの、酒類、タバコの場合のような未成年への販売の年齢制限や、健康への影響や薬物依存、飲酒運転のようなマリファナを吸ってハイになった状態での自動車の運転、マリファナを吸えるコーヒーショップのような場所、など数多くの問題がこれから解決されなければならない。

果たして、これらの問題をうまく解決するマリファナ合法化の日は近いのか。合法化はカナダの社会やライフスタイルにどんな影響を与えるのか、マリファナ先進国としてのカナダのケーススタディも興味深い。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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