トルドー首相、カナダ首相として19年ぶりのワシントン公式訪問。オバマ大統領の熱烈な歓迎で、対米関係を強化

ジャスティン・トルドー首相は3月9~11日の3日間、ワシントンを公式訪問、オバマ大統領の友情あふれる温かい歓迎を受けた。カナダの首相を大統領の賓客とした、19年ぶりにホワイトハウスで催された華やかな晩餐会は、トルドー首相の就任直後の国際首脳会議で意気投合した二人の首脳の友好関係がさらに強固なものになることを確認するものになった。

オバマ大統領のトルドー首相への期待と惚れ込みようは尋常ではない。今回の公式訪問が始まる前から、ホワイトハウスのスポークスマンは、進歩的でリベラルな価値観、多国間関係や多様性を重要視し、地球温暖化に取り組む決意を共有する二人の間には「特別な関係」ができつつあると記者たちに語っていた。

大統領の執務室で行われた首脳会談では、二人は二酸化炭素より温室効果のはるかに強いメタンガスの排出を大幅に削減し、北極の海の環境保護のため規制を強化、両国の国境を通る人と物の往来をより活発にすることなどで合意。一方、難題のカナダ産ソフトウッドの木材の対米輸出の問題では、100日以内に合意を目指すとして深入りせず、オバマ大統領と前任者ハーパー首相との関係をこじらせていたカナダからの石油パイプラインの問題は、トルドー首相が初めから持ち出す気がないのだから、これでは番狂わせは起こりそうにない。

だから、トルドー首相の訪米は、初めから二人の強い個人的関係を両国の国民に、そして世界にアピールするものになるはずだった。

首脳会談から出てきたオバマ大統領は、記者団を前に、トルドー首相の進歩的な政治の課題や目標がいかに素晴らしいかをほめ称え、自分の気候変動と社会正義に関するリベラルの遺産を引き継ぐのはトルドー首相が最適だと、世界に向けて、自分の後継者に指名した形だと、カナダの全国紙「グローブ・アンド・メール」は述べている。(3月10日)

「彼は希望と変革のメッセージを掲げて選挙を戦った。彼の前向きで楽観的なビジョンは若者たちを元気づけた」とオバマ大統領は記者たちに言った。そこには8年前、希望と変革と若さを体現して大統領選を戦った自分の姿を見ていたのだ。トルドー首相とソフィー・グレゴワール夫人と、8歳と7歳と2歳の3人の小さな子供たちがワシントンに到着するのを熱烈に歓迎したアメリカ国民の多くも、8年前のオバマ大統領のイメージを見ていたのだ。「ニューヨーク・タイムズ」と「ボーグ」誌は好意的な特集を訪問前に組んだし、CBSの人気番組「60ミニッツ」では日曜日の何百万人もの視聴者にトルドー首相のプロフィールやインタビューを紹介していて、米国のマスコミの歓迎ぶりがよくわかる。

朝の歓迎式典でも、大統領は、「首相は、選挙中や首相就任後の2、3か月の間に、私たち両国の関係にも、新しいエネルギーとダイナミズムを吹き込んでくれた」とトルドー首相が、選挙中から米国との関係強化を公約し、就任するやパリの気候変動会議で米国の温室効果ガス削減案と歩調を合わせて会議をリード、米加関係を短期間で大きく改善するのに貢献したことを称えた。

それに対して、トルドー首相はこう応じている。

「(政治や選挙のことで)オバマ大統領から多くを学んだ。そして、これから政治の世界で、国際政治の舞台で、私が遭遇するだろう多くの問題を乗り越えてきたオバマ大統領をこれからも頼りにすることができると思うと、心強い」。そして晩餐会では、米国とカナダの関係は、友人以上だ、と語り、ホワイトハウスでの歓待の返礼としてオバマ大統領がこの夏、米、加、メキシコ3か国の北米首脳会議がカナダで開催されるとき、オバマ大統領にオタワの議会で演説するよう招待した。米国大統領としては21年ぶりのカナダ議会での演説になる。

年齢では10歳しか年上でしかないのだが、あと10か月で2期8年の大統領から退任する「レイムダック」のオバマ大統領と、昨年10月の選挙で圧勝、11月に首相に就任したばかりの44歳の首相とでは、まるで、オバマ大統領に政治のメンター(師匠)として教えを乞うプロティジェ(弟子)の新米首相との関係のようだと、カナダの新聞は伝えている。

これを見て、カナダの新聞だけでなく、あの「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」、「USAトゥデー」など米国の大新聞までもが「ブロマンス」という言葉を使ってオバマ大統領とトルドー首相の親密ぶりを伝えたほど、オバマ大統領は胸襟を開き、首脳会談後の記者会見でも、公式晩餐会のスピーチでも互いを称え合い、冗談を言い合い、笑顔を絶やさなかった。トルドー首相をホワイトハウスに迎えて、心を許せる友人が来てくれて嬉しくてたまらない、という風情であった。(ブロマンスとは、男の熱い友情とか男が互いを好き合っている感情をいう言葉だ。Brother とRomanceを組み合わせた単語だといわれる。)

任期もあと1年を切って、環境でレガシーを残したいオバマ大統領にとって、トルドー首相は、気候変動のチャンピオンとして自分が引退した後も、世界で気候変動のリーダーを務めてくれると期待しているのだ。ホワイトハウスの歓待は気候変動問題のリーダーの後継者の世界へのお披露目だったのだというカナダのコラムニストもいる。

オバマ大統領が、環境問題だけでなく、トルドー首相のリベラルな政策、移民や難民を歓迎する多文化主義を称えるとき、大統領には、国内で自分の後任を選ぶ選挙運動で起こっていること ― 移民や難民の受け入れを拒否し、女性蔑視の発言を繰り返すドナルド・トランプが共和党の大統領候補指名争いで多くの支持を得ていること ― に対して強いメッセージを送るという、もう一つの目的があるのは誰の目にも明らかだ。

(トランプが大統領候補になったら、あるいは大統領に当選したら、カナダに移住するという米国人が増えていて、移住の手続きを調べるインターネットのサーチが300%増えたという冗談とも言えない報道もある。)

1969年に当時のニクソン大統領のホワイトハウス公式晩餐会と1977年カーター大統領の晩餐会と2度もホワイトハウスで晩餐会のもてなしを受けた父親のピエール・トルドー首相と同じホワイトハウスのイーストルームで晩餐会に臨んで、ジャスティンはどんなことを思っていただろうか。この日の晩餐会には、1977年の晩餐会に夫トルドー首相とその場にいたジャスティンの母親マーガレットも出席していて、オバマ大統領から紹介されている。父親が母親と並んで立って手を振ったホワイトハウスのバルコニーから、息子のジャスティン・トルドー首相は、ソフィー・グレゴワール夫人と一緒に、オバマ大統領夫妻と並んで、手を振った。晩餐会で、オバマ大統領は、44年前、オタワを訪問したニクソン大統領が、将来のカナダのリーダーのために、と生まれて4ヶ月にしかならないジャスティンのために乾杯してくれたことを、紹介した。

 

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

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