気候変動でカナダ先住民の魚の漁獲量が半分になる

気候変動の影響でカナダ沿岸地域にすむ先住民が1,000年以上にわたって伝統的な食料としてきたサケやニシンなどの漁獲量が2050年までに半減するだろうと警告する最新の研究が先月発表された。

この研究はブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の研究チームが行ったもので、地球温暖化がこのまま進むとブリティッシュ・コロンビア州沿岸の水温が上がり、同地域に居住する先住民(ファーストネーションズ)が主食としてきただけでなく、さまざまの伝統的な儀式や商取引に使ってきたサケやニシンなどが、他の多くの魚介類と一緒に、水温の低い北の水域に移動するため、彼らの漁獲量の半分が2050年までに失われてしまうとしている。(「ワシントン・ポスト」1月13日)

生息地の環境の変化によって、そこで獲れる魚の種類が変わり、カナダの先住民の伝統的な食事や儀式に使われてきた魚類が獲れなくなれば、彼らの生活だけでなく、先住民が何千年も守ってきた伝統やライフスタイルを維持するのが困難になるし、先住民の多くは漁をする魚類が北に場所を変えるからといって、それを追いかけて居住地域を変えることはしないので、これは大きな問題なのだと調査チームは述べている。

「これは何千年にわたってこれらの魚や貝などを漁獲してきた先住民のコミュニティに大きな影響をもたらすでしょう」と同大学院生としてこの調査を行ったローレン・ウエザードンさんは、その文化的、経済的、栄養学的インパクトの大きさを説明している。そうなれば、低く見積もっても、ブリティッシュ・コロンビア沿岸地域の先住民は2050年には年間670万から1,200万カナダドルの損失を被るだろうと見積もっている。気候変動が大規模漁業に与える影響についての調査は数多くあるが、このような先住民社会での漁業への影響を調査したものは極めて少ない。この研究は日本財団の資金援助で実施された。(「サイエンス・デイリー」1月13日)

今回の研究は、カナダの617の先住民部族の中から、太平洋岸地域にいる78のファーストネーションズ(First Nations)と呼ばれる先住民のうちの16の部族が居住する地域に焦点を当てて行ったもの。ファーストネーションズは、米国で現在はネイティブ・アメリカン(Native Americans)と呼ばれ、かつてはインディアンと呼ばれていた民族で欧州から白人が来て土地を奪う何千年も前から住んでいた人たちだ。カナダ政府のサイトによると、現在カナダでインディアンと登録されているのは約54万人、カナダ国民の1.8%である。彼らのうち、約55%が、彼らのために確保された「保留地」と呼ばれる特定地域に住んでいる。

UBCの研究チームは調査にあたって、対象地域の先住民にとって文化的、経済的に重要な98種の魚や貝に気候変動がどのような影響を与えるかを調べ、生息場所の水温や水中酸素のレベルなどがそれら魚介類の生息に適切かどうかなどを検査した。その結果、これらの魚介類は水温の上昇に対応して、現在の生息地・漁場となっている水域を離れ、より水温の低い海域を求めて北に移動して行くことが分かった。この移動のペースは、水温の上昇が0.5℃から1℃の間で、10年間に10.3キロから18キロと見積もられている。(「サイエンス・デイリー」1月13日)

このような漁獲量の減少は、カナダ西海岸地域の先住民居住区域に住むすべてのファーストネーションズに影響を与えるもので、彼らのサケの漁獲量は最高29%減るものとみられ、ニシンにいたっては49%も減少すると見積もられている。2001年から2010年の間にこれらの漁獲から先住民が得た収入は2,800万ドルから3,600万ドルにのぼったとみられるが、今後の気候変動、温暖化の進み具合によってはこの収入が最高90%まで落ち込む可能性があるという見方もある。

昨年、太平洋や米ワシントン州のピュージェット湾とブリティッシュ・コロンビアのコロンビア川の間を移動する間に25万尾のサケが水温の上昇のために罹った病気のために死んだといわれる。25万尾とは春の産卵でカナディアン・ロッキーに源を発するコロンビア川を遡上するサケの数の半分以上なのだ。昨年7月にコロンビア川流域の水温が、サケに適切な15.5℃よりも7.2度も高かったと、米オレゴン州で流域にいるネイティブアメリカン(アメリカン・インディアン)のためにこの川でのサケ漁を管理している団体が警告を出している。

このように地球温暖化はカナダでもさまざまの影響をもたらしていることが報じられているが、温暖化でとけだした氷河によって居住地域の移動にまで追い込まれる先住民のケースなども伝えられている。気候変動の影響を最も大きく受けるのがカナダではこれら先住民のようだ。

 

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

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