2016年、カナダ公共放送CBCは復活できるか

カナダの公共放送CBC (カナダ放送協会)にとって2015年はひどい年だった。

前保守党政権による交付金の削減と、それによる大幅な人員カット、ニュース番組の縮小、プロスポーツやドキュメンタリー部門からの撤退、そしてキャスターや人気番組の司会たちを巡る一連のスキャンダルはカナダ国民の信頼を失墜させ、視聴率の低下を招き、コマーシャルの収入の急落につながっている。「トロント・スター」は「カナダの最も偉大な公共文化機関であるCBCは死にかかっている」とまで宣告した(11月19日)。「CBCの危機」がここ何年かいわれてきたが、それほど事態は深刻に見える。

しかし、2016年が明けて、トルドー新政権の国内政策がいよいよ動き出すのに向けて、CBCの前途にも希望の光が見えるかもしれない。

実際に、「ハフィントン・ポスト(カナダ版)」が先月掲載した通信社「カナディアン・プレス」の記事は「自由党政権のおかげでCBCの2016年の見通しはよくなるだろう」の見出しで、「CBCに友好的な自由党政府が財布の紐を握ることになったので、苦境に立つ公共放送にとって状況は上向くだろうか?オブザーバーの多くはそう考えているようだ」と述べている。(12月7日)

すでにトルドー首相は、マスコミ嫌いのハーパー前首相の保守党政権で削減されてきたCBCへの交付金、年間1億5千万カナダドルを復活させると約束している。

それでも政府がCBCを救済したいと思うか、救済する価値があると判断して交付金を約束通り復活させるかどうかはまだわからない、と警告するオブザーバーもいる(「トロント・スター」11月19日)。また、実際に復活されたとしても、1億5千万ドルでCBCが立ち直るのに十分ではないというCBCの支持者たちもいる。

カナダ納税者連盟のアーロン・ワドリック氏は、厳しい財政状況のもとで政府がCBCのために交付金を増額する余裕があるのかどうか、自由党政府は見直さざるを得なくなるだろうと、「カナディアン・プレス」に語っている。「CBCへの1億5千万ドルの追加支出が、自由党が挙げた多くの優先課題よりも重要だと国民の多数が考えるかどうか私にはわからない。CBCは政府の優先事項リストのトップにあるとは思わない」と述べている。(「ハフィントン・ポスト」12月7日)

一方、CBCの救済、前政権で削減されてきた交付金の復活が必要だとする人たちの中でも、その資金をどう使うのか、その資金で何をするのかが重要だという人たちは少なくない。

2014年の人員削減の中で引退した、CBCの番組「第5の権力」(Fifth Estate)の元司会リンデン・マッキンタイアー氏は、度重なる人員削減の結果、残ったCBCの優秀な記者を含め職員たちの士気は危機的なレベルまで下がり続けていると指摘する。ハーパー首相の保守党政権下で、歳出削減策の一環として大幅な交付金削減計画によってここ数年、予算縮小・経費削減に追い込まれ、大規模人員削減も2009年、2012年に続いて2014-15年で3度目となっている。その間、要員は25%も削減が行われたと報道されている。

CBCは職員総数が約7千人で年間収入(2012年度)は約18億カナダドル、そのうち64%を政府交付金に頼り、残りを広告収入などでまかなっているが、商業放送局との競争で視聴率も低迷し、広告収入も伸び悩んでいる。そのため、カナダで人気の高い全米アイスホッケーリーグの2014年度以降のカナダ国内での放送権を失ったことから、広告料収入が大きく減少すると見られている。スポーツ中継については今後放送権の高騰するプロスポーツからは撤退し、オリンピックや大きなアマチュア競技に限ると発表している。

マッキンタイアー氏は、CBCはかつて世界一流を誇り、米国のPBSでも英国のBBCでも毎回自国で放送していたような優れた調査報道番組に戻るべきだと言う。かつて世界で最も優れたドキュメンタリー部門の一つであったものをCBCは廃止してしまったが、CBCはそういう優秀な番組でもう一度復活すべきだ、と彼は考える。(「ハフィントン・ポスト」12月7日)

元カナダ通信省副次官でCBCやいくつかのテレビ関係団体のトップを務めたリチャード・スタースバーグ氏は「より大きな問題は、新政権がCBCを救いたいと思うかどうかだ。これは、金の問題ではない。CBCはどんな放送局を目指そうとするのかというもっと基本的な問題なのだ」として、いくつかの具体的な提案をしている。(「トロント・スター」11月19日)

中でも、CBCがそのモデルとした英国のBBCに倣って、カナダも政府とCBCの間で結ぶ「特許状」(ロイヤル・チャーターといって国王から与えられるということになっている)を作るべきだという。英国政府とBBCが公共放送BBCのあり方や事業範囲を規定してあって、契約の期間(通常10年ごとに改定)にBBCが受け取る政府の補助金の額を決める。特に、その「特許状」にあたるもので、CBCの役割は何か、何を目指すのかを明確に規定することが大事だとスタースバーグ氏は述べている。

多種多様な民間のデジタルメディアの出現があるからこそ、「カナディアン・コンテンツ」を相当量含んだ放送サービスが公共放送のCBCに求められているし、商業目的に走る民間のメディアがカバーしきれない高度な文化プログラムに重点を置き、カナダ国民がますます広告付きの放送を見なくなっている時代にCBCはテレビコマーシャルを廃止して、民放との視聴率競争に陥り番組の質の低下を招くのをやめるべきだ、などと提言している。

果たして設立80年を迎える2016年がCBCの大きな転機になるか、トルドー政権はCBCの救済に乗り出すだろうか。

 

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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