外交デビューを果たしたトルドー首相、オバマ米大統領と米加関係改善へ意気投合

ジャスティン・トルドー首相の誕生とともに、カナダが世界の舞台に戻ってきた。

11月初め(11月4日)に首相に就任してすぐに世界の大きな首脳会議を2つ無事にこなしてきた―トルコ・アンタルヤで行われた20か国・地域(G20)首脳会議(15-16日)と、フィリピン・マニラでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議(18-19日)だ。

この1週間で、トルドー首相は世界がカナダを見る見方を変えてしまった、という高い評価をする報道も出ている。(「グローブ・アンド・メール」11月21日)

43歳とカナダ首相として史上2番目に若くて、その上ハンサムで、今でも人気の高い元首相の息子というセレブのトルドー首相は、これら2つの首脳会議で出席者たちの注目の的であった。他の首脳からも好意的な評価を得られたと「ロイター通信」(11月20日)は報じている。

選挙期間中、トルドー氏は保守党のハーパー首相(当時)の内向きだとされた外交を批判して、自由党が政権につけば、カナダは世界でより大きな役割を果たすと約束してきたことも、会場の外国首脳はみんな知っている。

彼らは、選挙中トルドー首相が「サニーウエイ」(「北風と太陽」のイソップの話にある太陽のやり方、11月4日のブログ参照)を説くことでどうしてあれほどの圧勝を収めることができたのか興味津々だったという。(「ロイター通信」11月20日) 他国の首脳たちも政治家、みんな選挙に勝つ方法ほど気になることはないのだ。

首脳会議の会場では、セルフィー(自撮り写真)をトルドー首相と撮ろうとする若いジャーナリストや会議のスタッフたちが殺到し、まるで選挙運動中のようだったという。APECの会場では100人以上のフィリピンのジャーナリストやスタッフに囲まれた首相は、はじめにこやかだったがついにはボディガードに守られて会場を出なければならなかったと、熱狂ぶりが報じられた。もちろん会議場内でトルドー首相とセルフィーを撮る外国首脳の姿も報道されていた。「オタワ・サン」(11月19日)などカナダのメディアの中には「セルフィー首相」(”Prime Minister Selfie”)と揶揄も交えてこの現象を報じていた。

おかげでトルドー首相はマニラのメディアによって「APECホッティ」(APECに来た最もセクシーな首脳)に選ばれた。そして2位は49歳のエンリケ・ペーニャ・ニエト・メキシコ大統領。ついこの間まで世界で最もクールな指導者と言われていたオバマ大統領は3位に転落してしまった。マニラの新聞「フィリピン・デイリー・インクワイヤラー」(Philippine Daily Inquirer)はトルドー首相とニエト大統領の写真を1面にでかでかと載せ、オバマ大統領や習近平中国主席の写真は小さく隅っこに追いやられてしまった。

しかし、外交デビューのこの段階では、中身なんかいらないのだ、とにかく首脳会議などをこなして、他国の首脳と顔合わせをして、彼らに好印象を与えてくることができれば大成功なのだ、と言ってトロントの世論調査専門家のジョン・ライトはトルドー首相の世界デビューを評価している。

中でも、オバマ米大統領との初会談は大成功だった。オバマ大統領からの配慮もあり初めから打ち解けた雰囲気の中で行われた首脳会談では、補佐官だけを入れて20分ほど2人で話したあと、ジャーナリストを招き入れて握手をしたり冗談を交わすところを取材させた。保守党のハーパー政権で、冷え切ったワシントンとオタワの関係はすぐにも改善にむけて「リセット」できるのだという二人の首脳の意思がジャーナリストたちにもすぐに伝わった、とカナダのメディアは報じている。(「トロント・スター」11月19日)

APEC首脳会議の合間に行われた会談で、オバマ大統領は、「我々は米国にいてジャスティンがカナダの選挙で巻き起こした信じられないほどの大興奮を見てきた。彼がカナダの政治に大きな活力と改革を吹き込んでくれると信じている」と言ったのを多くの新聞が引用している。「今やカナダに米国の強力なパートナーがいるということは、われわれがグローバルなルールを決める時に大きな力になる」と言ったオバマ大統領のトルドー首相への期待のほどがわかる。

その場で大統領はトルドー首相夫妻をホワイトハウスに招待したが、来年初めにもワシントン訪問が実現しそうだという。

リベラル政治家である二人は馬が合うのだろう。オバマ大統領は、トルドー首相への就任後初めての電話で、「国のリーダーになったら黒い髪もすぐに白髪になるよ。ホワイトハウスに来たときは黒かったのが今ではこんなに白くなった。白髪がいやだったら今から黒く染めておいた方がいいぞ」と首相にアドバイスしたことを自分から言い出して冗談を言い合ったという。

馬が合うだけで、外交はすべてうまくいくわけではない。それでも初会談では両首脳は米加間の難問である、カナダの石油を米国に送るキーストーンXLパイプラインの建設問題(環境団体に配慮してオバマ大統領は承認を拒否)とトルドー首相の選挙公約であるイスラム国空爆からカナダの戦闘機を来春で引き上げる方針を横に置いて、二人の共通の関心事であるシリア難民のそれぞれの国への受け入れと月末から始まるパリでの国連気候変動会議(COP21)の対策を突っ込んで話したと伝えられている。

G20首脳会議の直前に起こったパリでのイスラム国のテロ攻撃で130人もの死者が出てフランスや米国、ロシアが報復爆撃を開始したのにもかかわらず、G20では、トルドー首相のイスラム国爆撃からカナダが抜ける方針に、特別反対は出なかったといわれる。(代わりに、イスラム国テロリストたちと戦うイラク軍の訓練を、カナダ軍がさらに強化すると約束している。)

この後、今週末(27-29日)マルタで英連邦諸国首脳会議、そして月末30日からはCOP21が控えている。COP21にはカナダ各州首相や野党の代表ら大デリゲーションを引き連れてトルドー首相自身参加、オバマ大統領とも連携して気候変動の対策を打ち出すのに取り組むのだという。これで、カナダは再び結束して世界の問題の解決に貢献するのだという強い姿勢を世界に示すことができる、と外交や環境の専門家は言う。世界の問題でトルドー首相の真価を問われるのは本当はこれからだ。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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