カナダと日本の少数者の言語が滅亡の危機に

たいていの人はイヌイット語とアイヌ語が同じようなものだろうと思っているだろう。両者ともに寒い地域で生きてきたのだし、海洋動物や鮭を主食としていたのだから。

その考えは部分的には正しいと私は思う。しかし、両言語の細部については重要な違いがある。エコノミスト誌11月7日号の記事と日本の百科事典を併せて読むと相違が分かってくる。

アイヌ語の最大の特徴は話し言葉であることだ。英国人宣教師のジョン・バチェラー(1854~1944年)、金田一京助(1882~1971年)、知里真志保(1909~1961年)が著名なアイヌ研究者で、おかげで口承されてきた言語や詩が文字になって記録された。

「現在、59,500人のイヌイットが9通りの書き言葉を使っており、互いに意思を伝えるのも困難であり、その言語を保持するのも困難になっている」とエコノミスト誌は伝えている。

「音の重なりを表す文字群が地域によって異なり、“あなた”という単語はibbit, ivvit, illitという異なる表記になる」とも言う。

エコノミスト誌はまた、「言語表記が統一されていないから、カナダのイヌイット指導者は同じ内容の文書を別の表記で繰り返して準備しなければならない」とも報じている。

英語とフランス語が公用語であるカナダにとっても、イヌイット語の種類の豊富さは独特な問題であろう。

イヌイットの10代の若者は「IT機器では英語を使っている。イヌイット語で会話できる人の割合は2011年には63%に減ってきた」と伝え、「ゆっくりではあるが、イヌイット語は滅亡に向かっている」と警告する。

9通りの書き言葉は9つの方言の存在を意味し、広大な北極圏のなかに村落が散らばっている様子を思わせる。この状況に比べるとアイヌの人々(1854年には人口は18,805人にまで減った)は主に比較的小さな北海道で生きてきた。

話し言葉のアイヌ語は日本語に似ている。両言語ともに、いわゆるSOV(主語・目的語・動詞)という語順になる。「ぼくは・君を・好きです」となり、英語のような「ぼくは・好きです・君を」とは異なる。

だが、音素はアイヌ語のほうが簡単である。母音は日本語と同じ5つだが、子音は12だけである。

日本人との同化、つまりアイヌ人と日本人が一緒になる結婚はアイヌ語という少数者言語をやがて消滅させることになるかもしれない。アイヌ人の43%が1960年代に日本人と結婚し、アイヌ人・日本人夫婦はアイヌ人全体の88%となった。

言語が消滅することは文化的多様性が減ることにつながると考えられる。

潮昭太(東京在住フリーランス記者)

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