ジャスティン・トルドー首相の自由党政権がスタート ― 米のメディアも大きく報道

水曜日(日本時間木曜日)、カナダの23代首相に自由党のジャスティン・トルドー党首が就任する。カナダで最も偉大な政治家の一人といわれる元首相、ピエール・エリオット・トルドーを父親にもつハンサムで人気の高いトルドー氏(43歳)はカナダ史上2番目に若い首相となる。ほぼ10年ぶりの政権交代で、中道左派の自由党政権とともに、かつてのよき時代の「カナダらしいカナダ」が戻ってくる期待が膨らむ。

同じ日に発足するトルドー首相の内閣にはベテランよりもカナダの将来を担う有能な若手政治家やカナダの多様な人種の連帯と多文化主義を反映した男女の人材がまんべんなく選ばれるとカナダの新聞は伝えている。(「グローブ・アンド・メール」11月1日)

10月19日に行われた選挙では、自由党が4選を目指したスティーブン・ハーパー首相の保守党政を誰も予想しなかった地滑り的勝利で破り、2006年以来の保守党支配に終止符を打った。選挙前第3党の自由党は34議席から184議席に伸ばし圧勝、過半数に必要な議席を14上回った(総議席数338)。

保守党は99議席と60議席も減らし野党に転落。自由党より左派の新民主党は59議席減らして44議席と野党第2党に後退した。選挙直前には、自由党が保守党を数ポイントリードして優勢と伝えられていたが、どちらが勝つにしても、単独過半数には届かないと見られていたのが、ふたを開けてみると自由党の圧倒的勝利となった。

「トルドーが勝利したのには、一つにはハーパーでないという理由があるけれども、思いやりのある、平和を好む、多元的な社会というカナダ的価値に対する彼のコミットメントは本物だということが働いている。彼は私たちのカナダらしさを深く語ることができる」と、ニューヨーク・タイムズに出た記事について、カナダの読者がコメントしているのが紹介されている(「ニューヨーク・タイムズ」10月26日)

その記事の中で、トロント・スター紙のコラムニスト、ヘザー・マリクは、「トルドー氏は、カナダ国民が自分たちについて抱いている、争いを避け、教育があり、情緒的に安定していて、多文化を受け入れる国民だというイメージによりぴったりだ」と言っている。

トルドー氏は10月19日の地元モントリオールでの勝利演説の中で、100年前のカナダの首相ウィルフリッド・ローリエがよく言っていた「サニーウエイ」(太陽のやり方、イソップの太陽と北風の話にある、あたたかい太陽で旅人のコートを脱がせるやり方)が自分の政治のやり方だと述べて、ハーパー前首相の強権的な政治手法を批判した。「サニーウエイはポジティブな政治ができることなのだ。政治家の公的生活にポジティブで、楽観的で、希望に満ちたビジョンを持つことはナイーブな夢ではない。」(「ニューヨーカー」10月20日、「ニューヨーク・タイムズ」10月20日)

「(この選挙で)国民はカナダ全土から、明確なメッセージを私たちに送ったのだ。今やこの国に変化をもたらすときだ、真の変化を起こす時だというメッセージを。」

彼はまた、ハーパー首相の、移民や難民、先住民、イスラム教徒などに対する差別的な発言や政策を念頭に、「カナダ人はだれでもみんなカナダ人に違いはないのだ」(”a Canadian is a Canadian is a Canadian”)と述べて国民に結束と連帯を呼びかけた。

普段カナダのニュースにあまり関心を示さないフィナンシャル・タイムズやニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ニューヨーカーなど多くの欧米のメディアがトルドーの勝利を、数多くの記事や解説、オピニオン記事で報じているのには、中でも、トルドーの(自由党の)経済政策の行方に対する関心にあるようだ。

トルドー首相は、石油価格の下落で低迷している経済を回復させるのに、金利が低い今、3年間で250億カナダドルの(ゆるやかな)財政赤字を容認して、合わせて600億カナダドルの資金をインフラ投資にあて古くなって危なくなったインフラの整備を進めることでカナダの景気を立て直そうという政策を選挙中に公約している。「新しい家を買おうとするとき、銀行から融資を受けるように、自分たちの将来に投資をすることができるのだ。それが、自信に満ちた、楽観的な国ができることなのだ」というのが、選挙期間中に語ったこの政策の理屈だ。

世界中が経済低迷・経済危機に対応するのに緊縮財政、財政均衡に躍起になっている中で、財政赤字のケインズ主義政策を掲げて大勝したトルドー政権の経済政策は成功するのか、米国や欧州の国々から大きな関心を寄せられているということだ。自由党はその上に、中間層の所得減税とそれに見合う富裕層の増税を合わせて公約している。

かねてから積極的な財政政策による景気刺激策を主張しているラリー・サマーズ ハーバード大学教授(元オバマ大統領の国家経済会議委員長)やポール・クルーグマン プリンストン大学教授はこのトルドー首相のインフラ投資による景気刺激策が、本当に責任ある財政政策であるということを世界に示す絶好の機会だとエールを送っている。サマーズは、米大統領選挙の候補者たちがこれを見習え、と言っている。(「ワシントン・ポスト」10月20日、「ニューヨーク・タイムズ」10月23日) 因みに、サマーズは選挙中のトルドー候補の経済アドバイザーだったと言われている。クルーグマンは「アベノミクス」の積極財政策を強く支持していた。

トルドー首相は、首相就任後休む間もなく、11月中にいくつもの国際会議に出て世界の舞台にデビューする予定が詰まっている。再びカナダが国際舞台に戻ってくる。15-16日にG20首脳会議がトルコで行われるのが初舞台になる。18-19日フィリピンでのAPEC(アジア太平洋経済協力)会議、27-29日マルタで英連邦諸国首脳会議、そして、トルドー首相が特に強い関心を持っている気候変動会議(COP21)がパリで30日から始まる。新しいカナダが戻ってくる。

石塚嘉一 トークス、シニアコンサルタント

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