10月19日カナダに政権交代は起こるのか

投票を19日に控えたカナダ政治史上最長の2ヵ月半に及ぶ連邦選挙運動はホームストレッチに入った。選挙のことだから、あと1週間の間に何が起こるかわからないが、12日の時点では様々な世論調査で、ジャスティン・トルドー党首率いる自由党がスティーブン・ハーパー首相の保守党を6ポイント以上も引き離している。このまま行けば10年ぶりに政権交代が起こる可能性が大きい。

例えば、グローブ・アンド・メール/CTV向けにナノス・リサーチが8日から10日までの3日間に行った全国調査では、自由党が35.1%で2位の保守党の29%、3位新民主党(NDP)の25%、4位緑の党の5.1%を引き離している。これで10日連続で自由党が保守党を6ポイント以上引き離したことになり、保守党は2日連続で30%を割っている。(「グローブ・アンド・メール」10月11日)

1週間前の別の調査では、自由党と保守党は32.5%と32.3%で拮抗しており(NDPは25%)、議席数にすると過半数170議席のうち、保守党が126、自由党が118(NDPは92)という予想で現政権の保守党がわずかにリードしていた(「フィナンシャル・タイムズ」10月6日)

12日に感謝祭の休日を迎えるカナダでは、この週末に家族が集まって感謝祭の食事をしながら、どの党に投票すべきかを話し合う有権者が多いのだという。

11日の日曜日、トルドー党首は選挙運動を休んで感謝祭の食事を家族と一緒にとって余裕を見せている間に、ハーパー首相の方はオタワでの家族との感謝祭の食事も返上して、カナダで最も多くの人口を抱えるグレーター・トロント・エリアに出て支持を訴えた。どちらが首相かわからない。

この日トルドー党首は街頭に出る代わりに有権者にアピールする声明を出してこう呼びかけた。「国中を回って聞こえてきたのは、国民が本当の変化を必死になって求めている声だ。有権者と話してみてわかったことは、これまでの10年のような政治をもう10年許すことはできないということだ。恐怖の政治や憎しみを煽る政治をあなた方は力を合わせて拒否しようとしている」と。

ハーパー首相が、党首討論会のなかで、イスラムの女性が顔に被っているベールを公務員が使用することを法律で禁止すると述べた時、トルドー党首は厳しくこう反論した。「カナダ国民をカナダ国民と対立させることをして選挙に勝つような勝利なら勝利するに値しない」。保守党政治のもとで危機にあるかつてのカナダらしさ、国民のまとまりや連帯を大事にするカナダの美徳、「現代カナダのDNA」をトルドー党首は引き継いでいるのだと、次期首相として支持を表明した「トロントスター」(10月11日)は言う。

残り1週間となって、保守党はトルドー党首を首相にしたら財政赤字が拡大して、カナダの経済が破滅すれば、国民の生活はどうなるのか、と有権者に訴える作戦に出るといわれている。若くて(ハーパー首相の56歳に対してトルドー党首43歳)政治経験の豊かでないお坊ちゃん(人気の高かった偉大なカナダ首相だったピエール・エリオット・トルドーの息子)には政権は任せられないと、保守党は選挙戦中もトルドー党首を攻撃してきた。

確かに2008年にモントリオールの議員になるまでは数学とフランス語の教師をしていたトルドー党首は自分の経験の足りなさを認めているが、その分経験豊かな人々を周りに集めてアドバイスを受けている。オバマ大統領の国家経済会議委員長を務めたラリー・サマーズハーバード大学教授やデービッド・ドッジカナダ中央銀行元総裁らがはいっている。だから、金利が低くて政府借り入れの対GDP比率がまだ健全な間に、ある程度の借金をしても、インフラ投資をして財政による景気刺激策で世界11位の規模のカナダ経済を現在の低迷から回復させるのだというトルドー党首の経済政策は、サマーズ教授の主張する経済政策のようだし、アベノミクスにも通じるところがあるようだ。

カナダ国民の76%が政権交代を望んでいる中で、トルドー党首が、元首相の息子だけではないことを有権者に示すことができれば自由党が保守党に取って代わることは可能だといわれる。

トルドー党首はまるで、ロックスターのように、どこへ行っても会場を支持者でいっぱいにすることができるといわれる。先週のある日、オンタリオ州ブランプトンの町にあるホッケー競技場では、バスを連ねてやってきた5千人以上の支持者たちから大きな声援を受け、カナダのどの町に行っても、スピーチをするより、握手を求められ、有権者が一緒にセルフィーの写真を撮るのに付き合う方が忙しく、その方が自然に振舞えるのだという人懐こさで支持者たちを魅了する。多くの支持者やファンは、元首相の写真や選挙運動に使ったピンバッジなどを持参してやってくるのだ。(「カナディアン・プレス」10月11日)

それでも、あと1週間になって、有権者はいまトルドー党首でいいのか、自由党に任せられるのか、これまでの人気スターを見る目ではなく、真剣で厳しい目で見なおし始めている。まだまだ予断は許さない。

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

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