カナディアンウイスキーの静かなる復活

近年ジャパニーズウイスキーの評価が海外で上がっている。2007年にはサントリーの「響30年」(ブレンデッドウイスキー)とニッカの「竹鶴21年」(ブレンデッドモルト)がそろって英国のウイスキー専門誌『ウイスキーマガジン』主催の第1回「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」のそれぞれの部門で、本場スコットランドなど世界のウイスキーを抑えて最高賞を獲得した。以来毎年、「山崎25年」や「余市20年」など両ウイスキーメーカーがWWAの最高賞を各部門で獲得している。14年、15年には「竹鶴17年」が2年連続でブレンデッドモルトの最高賞を獲得、この10年ほどジャパニーズウイスキーが高く評価されるようになって、海外のレストランなどでの消費も増え輸出も何倍にも増えている。国内では、NHKの朝ドラ『まっさん』の人気もあって、ウイスキーの消費が急速に伸びている。特定の銘柄のウイスキーは売り切れで手に入らないほどだ。

一方、それほどの華々しさはないが、カナディアンウイスキーの業界にも変化が出始めている。不当に低かった評価が静かに上がってきて低迷していた人気も売り上げも復活、大きく伸びているという。最新の統計(2013年)ではその年、1,700万ケース(1ケース750mlx12本)がカナディアンウイスキーの最大の市場米国(カナディアンウイスキーの70~75%を消費する)に輸出された(カナディアンウイスキーの専門家Davin de Kergommeaux氏によるジャーナリスト向けの解説「カナディアンウイスキー入門」www.canadianwhisky.org/ 2015年4月3日)。「カナディアンウイスキーは大きなカムバックを果たした」と「メンズ・ジャーナル」(2月9日)の記事は宣言している。

世界には、本場スコットランドのスコッチウイスキーのほかに、アイルランドのアイリッシュウイスキー、米国のバーボンなどアメリカンウイスキー、カナダのカナディアンウイスキー、そして日本のジャパニーズウイスキーがあって世界の五大ウイスキーと呼ばれている。余談だが、whiskyと呼べるのはスコッチだけで、スコッチ以外のウイスキーはwhiskeyと綴るのだと昔英国人エディターに教えられたことがあるが、日本のはJapanese whiskeyでアイルランドのもIrish whiskeyで、英米のまともな新聞雑誌はこの区別を厳密に守っている。しかしカナディアンウイスキーはなぜかCanadian whisky なのだ。

カナディアンウイスキーは、ライ麦特有の風味が特徴のフレーバーリングウイスキー(ライ麦、とうもろこし、ライ麦麦芽、大麦麦芽を原料に蒸留して作る)とベースウイスキー(トウモロコシを原料)をブレンドしたもので、オーク樽で3年以上熟成させたものがブレンデッドウイスキー。これをソーダやジンジャーエール、セブンアップなどで割って飲むのが普通の飲み方。シーグラムの7クラウンを7アップで割るのがセブン・アンド・セブン(7 and 7)と呼ばれて最近までカナディアンウイスキーのポピュラーな飲み方だった。

筆者も初めてカナディアンウイスキーに出会った1970年、大阪万博のオンタリオ州パビリオンでもらった「シーグラム・クラウンロイヤル(Seagram’s Crown Royal)」をジンジャーエールで割って飲むのだと日系カナダ人の同僚が教えてくれてから、20年近くそんな飲み方で飲んでいた。クラウンロイヤルが入ってくる、紫のフェルト風生地の袋があまり飲まない人にも人気で、いくつもたまった。[クラウンロイヤルは2000年にシーグラムから英国のディアジオ(Diageo)社に渡ったが、今でもマニトバ州のウイニペグ湖岸の町ギムリ(Gimli)で作られている、カナディアンウイスキーの最大で最古のメーカー。]

「カナディアンクラブ」などの大量生産の大手蒸留酒メーカーわずか8社で年間2億5千万本のカナディアンウイスキーが独占的に造られている最近までの状況が、業界に長い間変革が起こらないできた原因のひとつだと、「ブルームバーグ」の記事(2月3日)は指摘する。それに比べて、スコッチの製造に関わっているウイスキー会社は100社にもなるという。

しかし、カナディアンウイスキーが、美味いがあまり記憶に残らないという不当な評価やイメージに長年甘んじてきたのが、ここに来て変わり始めた。隣の米国などで活発な1つの樽の原酒(シングル・バレル)から小ロットのウイスキーを手造りで造るような「クラフト蒸留会社」がこの5年ばかりの間にカナダにもでき始めて、2014年末までに、30数社まで増えたとde Kergommeaux氏は推定している(「ブルームバーグ」2月3日)。それでも米国の数百という数に比べれば微々たるものだが。

転機となったのが、1992年にワイン造りのベテランのジョン・ホール(John Hall)が作ったForty Creek Whiskyという中堅ウイスキーメーカー。手作りの製法でこれまでのカナディアンウイスキーにない複雑な味やフレーバーを加えた新しいカナディアンウイスキーを出して次々に賞を獲得し、多くの中小メーカーが後に続いている。「フォーティークリーク」は昨年カンパリ・アメリカに1億2,000万ドルで売却されたが、ホール氏はそのままフォーティークリークでウイスキーを作り続けている。今年のコンクールではまた8つの賞を獲得した。

その影響は大手のウイスキー会社にも出ている。クラウンロイヤルは、大手のブランドとしては初めてシングルバレル(1つの樽の原酒だけで作る)ウイスキーを、最大の市場であるテキサス州だけに販売する。しかし、このようなのは例外で、新しい、高い品質のプレミアムウイスキーのほとんどはまだまだカナダ国内以外では手に入らない(これまでも、米国市場には最高級ウイスキーの10%しか行かないと専門家は言う)のがカナディアンウイスキーの国際的な評価とイメージアップにとって問題だと「ブルームバーグ」は指摘する。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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