カナダで牛乳の消費が減少しているのはなぜか

カナダで牛乳の消費量が年々減っていて、その傾向がここ数年顕著になっているというので地元の新聞が時々とりあげていた。この牛乳離れの現象はカナダに限ったことではない。多くの欧米先進国でのトレンドなのでとりたてていうことではないかもしれないが、最近のカナダの新聞の報道から紹介してみよう。

先月のカナダ政府の統計局(Statistics Canada)の発表によれば、6月の牛乳販売量が前年同月比で3%以上減少して、これで8か月連続の減少になった。政府の統計によると、カナダ国民一人当たりの牛乳消費量は、1995年に年間90リットルあったのが2014年には74リットルと20年間に18%も減少しているという。(「グローブ・アンド・メール」8月26日)

2013年から2014年の1年間で、人口増を考慮すると、牛乳の消費が2,000万リットルも減ったということができる。また別の報道によると、この20年間で、カナダ国民が消費する牛乳の量は25%も減っていて、アーモンドミルクや豆乳、ライスミルクなどの代替品が牛乳(cow milk)にとって代わりつつあるという。(「ハフィントン・ポスト」2月14日)

牛乳の消費の減少には、多くの要因があるが、まず、高齢化の問題。カナダに限ったことではない、先進国に共通の問題だ。高齢化が進むカナダでは、現在65歳以上の消費者が500万人以上になるという(2015年総人口3,587万人)。

彼ら多くのベビーブーマー(団塊の世代)が高齢化して、子供がみんな独立して家を出てしまうと、空っぽになった家の中で(幸運であれば)妻と二人だけ、あるいは夫と二人だけになると、牛乳を飲む量も大幅に減るか、全く飲まなくなってしまうのだと、オンタリオ州ゲルフ大学食品研究所のシルバン・シャルボワ教授は「牛乳を飲むのが減るのはなぜか」という記事の中で説明している。(「グローブ・アンド・メール」8月31日)

さらにカナダならではの要因として、移民の影響があるとシャルボワ教授は言う。移民による社会の構造の変化が、牛乳の消費の減少につながっている。多くの新興国ではまだぜいたく品の牛乳は、彼らがカナダに移住してくるときには本国の伝統的な食習慣には入っていない。だから移住者が増えても、牛乳の消費が増える訳ではないのだという。

もう一つ、大きな要因が、一切の動物性食品を拒否する厳密な菜食主義(veganism)の広がり。これまでの緩い菜食主義(vegetarian)は、卵や牛乳、チーズなどの乳製品は食べるが、完全菜食主義はそういう乳製品を一切とらない。数年前まではそう頻繁に聞いたことのない言葉だ。

カナダ酪農家協会(Dairy Farmers of Canada)が最近行った調査によると、相当な割合の消費者が、1頭当たりの乳牛の生産性を上げるためにコンクリートの牛舎につながれたままで高度に産業化された方法で牛乳を出し続けることを強いられているという現代の酪農産業のやり方に、倫理上の問題があるという理由から牛乳を飲まない、あるいは乳製品を食べないということが明らかになった。(「グローブ・アンド・メール」8月31日)

牛乳を飲まないと答えた回答者の10%はそういう完全菜食主義者(vegan)だから、さらに8%は、動物を虐待するような残酷なやり方の酪農産業を、製品を買うことで支援したくないから、と回答したという。ある研究では、酪農産業で飼われている乳牛は、昔からの酪農家で飼われている乳牛の7~14倍の牛乳を生産させられていることがわかっている。(「ハフィントン・ポスト」2月14日)

このような国内の牛乳消費の落ち込みと世界的な牛乳価格の下落―ここ数か月に半分にまで下落―にもかかわらず、カナダの牛乳の価格は下がるどころか、年々上がっているほどだ。それは、政府公認で、国内の酪農製品の市場を閉鎖して、安い輸入から酪農農家や業者を保護しようとする「サプライマネジメント」(供給管理)のおかげである。

カナダはこの「サプライマネジメント」システムを撤廃して、最終交渉が近づいた環太平洋経済連携協定(TPP)の自由貿易市場に加わるのか、それとも国内市場を守ってTPPから締め出されるのか、重大な決断をするプレッシャーを受けている。

石塚嘉一 トークス シニアコンサルタント

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