モントリオールに野球が戻ってくる日

モントリオールに再びメジャーリーグの球団を呼び戻そうとする機運が急速に盛り上がっている。

ここ3年くらい、そういう期待が膨らんでいたところに、今年に入って特にモントリオール市がMLBに積極的に働きかける一連の動きをカナダのマスコミが報道してきた。先週には、米国の「ニューヨークタイムズ」も、モントリオール発の長い記事でこのことを報じている。

一度もリーグ優勝したことがなかったけれども、かつてモントリオールの野球ファンを30年以上に渡って熱狂させ多くの観客を集めた「モントリオール・エクスポズ」を、経営不振でオーナーが放り出してから10年余、モントリオールは、都市圏人口が400万を超えるのにメジャーリーグ球団を持たない、北米で最大の都市になっている。

成績低迷や、それに伴う人気の落ち込み、観客動員の減少のため経営不振に陥り、2005年に米国の首都ワシントンに「ワシントン・ナショナルズ」として移転した。それ以来モントリオールでは、メジャーリーグの球団は存在しないし、MLBの公式戦も行われていない。公式戦を見るためにはトロントまで行かなければならない。京都から東京に行くような距離だ。

それでもモントリオールの野球への情熱が薄れたわけではない。昨年のトロント・ブルージェイズ対ニューヨーク・メッツのオープン戦2試合に合わせて9万6,000人を超える観客が、かつてのエクスポズのホーム球場、「オリンピック・スタジアム」を埋めつくした。熱狂的なエクスポズファンでモントリオールにMLB球団復活を推進しているデニス・コデール市長が始球式を行った。

今年4月のブルージェイズのオープン戦(対シンシナティ・レッズ)2試合にも、同じように多くの観客が押しかけて、モントリオールに再びMLBの球団を夢みる人びとを勇気づけた。その上に、フランス語のスポーツテレビ局が2社、いつでも野球中継できるよう手ぐすね引いて待っているという。11年前エクスポズが苦闘していたころとは、観客動員や球団経営の環境がはるかに改善されているということだ。

今年、MLBの新しいコミッショナーにロブ・マンフレッド氏が就任したことも、楽観的な見方をするもう一つの理由になっている。マンフレッド氏はメディアとのインタビューで、MLBの球団数を30から32に増やす場合でも、どこかの球団が移転を考える場合でも、「モントリオールは最も実行可能な候補地だ」と述べて、モントリオールが将来MLB球団の本拠に再びなる可能性に前向きな発言をしている。4月にはカナダにもう1球団できるのを見てみたい、と踏み込んでモントリオールの市民を喜ばせたが、最近は少し慎重になっている。(「スポーツネット」、7月14日)

コデール市長は5月に、マンフレッドコミッショナーと会談、MLBが球団数を増やした場合でも、現在ある球団が移転する場合でも、モントリオールを本拠地とする球団を獲得するための市の戦略を説明している。手始めに、来年から公式戦を数試合モントリオールで開催するように要請した。また、市が1,100万ドルを投じてモントリオール市内の野球のグラウンドを整備して野球少年を育てる計画を説明し、この2年で若者の野球人口が25%も増えたことを強調したという。

これに対して、マンフレッド氏は来年からの公式戦開催については前向きに検討すると約束したという。また、モントリオールがMLBの球団を呼び戻すことに強い関心を示していることで、第一関門はパスしたけれども、これが実現するまでにはまだ数多くのハードルを越えなければならない、とコメントしている。特に、モントリオールが新しい球場の建設を約束することが重要だと述べている。エクスポズが使っていたオリンピック・スタジアムは文字通り、1976年のモントリオール・オリンピックで建てられて、1977年からエクスポズの本拠地(45,757人収容)として使用されてきた。(「カナディアン・プレス」5月28日、31日)

MLB球団の本拠地となるには、オープン戦や公式戦を年に数試合開催して球場をいっぱいにしたぐらいでは、まだまだ十分ではない。MLBの本拠地になるということは、ホーム球場で年間81試合を開催して球団経営をやっていけるだけの観客を集めなければならないのだ。モントリオールやケベック州のマーケットがこれを支えることができるかどうかまだ不透明な部分も残っている。

しかし、このような「野球フィーバー」や「願望」をもっと着実で現実的な方法で裏付けようとするのが、1974年から1983年までエクスポズの外野手で5番打者として活躍したウォレン・クロマティだ。1983年エクスポズからフリーエージェントで90年まで7年間在籍し、巨人軍史上最強の助っ人と呼ばれてファンからも絶大な人気のあった、あの「クロウ」である。

現在は故郷米国のマイアミに住むクロマティ氏は、自分が活躍したモントリオールに再びメジャーの球団を復活させるための組織、「モントリオール・ベースボール・プロジェクト」を2012年に設立した。すでに、錚々たる顔ぶれのスポンサーを集め、モントリオールで野球の球団が成功し得るという結論の調査報告を40万ドルかけて作成した。この報告書には、モントリオール市の中でもおしゃれなウォーターフロントのピール・ベイスン地区を新球場の建設候補地として提案している。

「今では、モントリオールが再びMLBの球団の本拠地になれるかどうかの仮定の問題ではなくて、いつそうなるかという時間の問題なのだ」とクロマティ氏は強気である。そして、球団がモントリオールに戻ってきたら、マイアミから引っ越してきて、今度はモントリオールに永住するよ。そして始球式で投げさせてもらうのを楽しみにしている」と語っている。(「ニューヨークタイムズ」8月19日)

モントリオールが再びMLBの球団の本拠地になるとしたら、球団数を増やして新球団を作るより、最も現実的なのは、タンパベイ・レイズが新しい観客とマーケットを求めて移転してくることだというのが多くの専門家の見方だ。2012年以来レイズは毎年最悪の観客数に悩まされており、今年も1試合の観客数が平均1万5,903人で30球団の中でも最低だという。もちろん球団オーナーは移転の可能性を否定しているが、本音はわからない。オークランド・アスレチックスもモントリオールへの移転の候補として名前があがっているが、どちらの場合もことはそう簡単ではない。

モントリオールに野球チームが戻ってくれば、モントリオールやMLBだけでなく、カナダの経済やスポーツの風景にも、モントリオールの人々のライフスタイルや文化にも大きな影響を与えることは間違いない。

石塚嘉一、トークス シニアコンサルタント

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